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【2020授業風景】少年探偵と死者のいる教室

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【2020授業風景】少年探偵と死者のいる教室

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第十一章 授業風景 三 (古森あまね)

 クリスティー・モーガンさんの要求の後、講義はまた中断しました。
 教壇の教授のまわりには、緋柱陽子さん、雷霆リナリエッタさん、早川呼雪さん、ニコ・オールドワンドさん、ナイン・ブラックさん、戦部小次郎さん、渋井誠治さん、ハティ・ライトさんらが集まって、話し合っています。
「ちょっと、いいかしら」
 突然、茅野菫さんが大きな声をだしました。
「講義が中止か続行か、微妙なところだし、ここらへんでフライシャー教授への質問タイムをとりませんか。みんな、疑問があると思うのよね」
 当の本人の教授から返答のないまま、早くも一人目の質問者が、立ちました。
 ホラーなお菓子を持参してきた火村加夜さんです。
「怪談の講義だからか、奇怪な現象がいくつも起きています。私は、講義準備室から物音がする気がしてしかたがないのですが、幽霊でしょうか。教授、あの部屋になにがあるのか、そろそろ教えてくださいますか。私と同じ意見の方は、他にもいらっしゃいますよね」
「俺もだ。教授。あなたの態度は、明らかにに怪しいと言わざるをえない」
「隠しきれていなければ、隠し事の意味はないじゃろう。ムダなあがきは、たいがいにするのじゃ」
 サングラスがトレードマークのレン・オズワルドさん、魔道書でロングの白髪の少女、クタート・アクアディンゲンさんも火村さんと同意見のようです。
「私がこたえるわね。あなたたちと同じ疑問を感じていた私は、ぼや騒ぎの時に、ダーリンと講義準備室に入ったの。
 特別なものは、なにもなかったわ。ダーリンの大事な研究資料があっただけよう。以上、回答、リナリエッタでしたあ〜」
 色っぽい自由人のリナリエッタのしゃべり方は、どこか人をバカにしたような感じがするので、こういう場にはふさわしくないと思います。
「先ほど、クリスティーさんが言われていましたが、床だけでなく、この教室は血のにおいで満ちています。鼻血程度ではこうなるとは思えません。特に、講義準備室から血のにおいがします。おかしくは、ないですか」
 PMRのシェイド・クレインさんが穏やかに尋ねました。
「何種類かの血のにおいがするんだよ。そこがおかしいよな」
 シェイドさんに言い足す感じで、と、ソーマ・アルジェントさん。
「戦部小次郎です。我が返事をさせていただきます。教授殿は、クリスティー殿が指摘した床のガラスも血も、みなの言う血のにおいにも、まるで、身におぼえはなく、心あたりもなく、半ば御自身の研究室として使っている、職員用の講義準備室を部外者であるオープンキャンパス参加者らにみせる義務もない、とお考えです。
 教授殿は本日は、非常に体調が悪いため、頭はもうろう、記憶もあいまいな状態です。これ以上、いわれのない質問をして、教授殿を苦しめても、我は意味がないと思います」
 戦部さんは、教授のスポークスマンみたいですね。
「どうしても気になるので、質問させてください」
 影野陽太さんが、ためらいがちに手をあげました。
「俺以外にも、そういう人たちはいると思うんですけど、俺は、教授の発言を講義の開始から、メモしたりして、記録、チェックしてきたんです。教授は、独り言が多くて、なにを言ってるかわからない言葉も、多いんですけど」
「その言い方では、それこそなにを言いたいのかわかりません。教授は、質問を認めていないのに、いつまでもなにをいっているんですか」
 緋柱陽子さんに注意されて、陽太さんはかわいそうなくらい、しゅんとしてしまいました。
「すいません。失礼しました。あの、独り言で、殺したとか、死んだ、とか言ってる気がしたんで、気になって。す、すいませんでした」
 別に、そんなに謝んなくてもいいと思うんですけど。
「質問タイムは終了ですか? 参加者の中でも意見が割れている感じがするので、それでは、決をとってはいかがでしょうか。座ったままでかまいませんので、教授の身の潔白を信じるか、否か、どちらかに手を挙げてください。教授も、御自分がどう思われているかを把握された方がいいかと思います。みなさん、よろしいですか」
 シャーロット・モリアーティさんの意見に、表立って反対する人はいませんでした。でも、ブリジット・パウエルさんは、フンと鼻を鳴らして、つぶやきました。
「あんたこそ、自作自演なんじゃないの。信用できないわね」
 挙手の結果、教授の潔白を信じられない人が、多数を占めました。
「この結果をどう受け取られるかは、教授御自身のお考え方、次第です」
 シャーロットさんの言葉の後、教授はステージ中央に立ちました。教授の周囲にいた、教授を信じるに手をあげたみなさんは、全員そのまま、講義準備室前に陣取ります。
「再提出のレポートも揃ったようだし、諸君。講義を再開する。私は、自分の仕事に責任を持つ人間だ」
 蛍光灯は消えて、百物語のつづきがはじまりました。