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【2020授業風景】サバイバル調理実習!?

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【2020授業風景】サバイバル調理実習!?

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 「ちょっとくらい味見してもいいじゃないかぁ……」
 8班のテーブルの前では、出来上がった料理に手を伸ばそうとする小林 翔太(こばやし・しょうた)から、林田 樹(はやしだ・いつき)林田 コタロー(はやしだ・こたろう)が懸命に料理を守っていた。
 「らーめーらーお!」
 「私の評定が掛かっているのだ! お前の胃袋になぞ、負けてたまるか!! 味見は料理長がもうちゃんとしたのだから、必要ない!」
 テーブルの前でうろうろする翔太を二人で懸命に押し返していると、
 「それでは、特別にこれを差し上げますわ」
 『斉民要術』が餃子を一個つまみ上げて、翔太の目の前にぶら下げた。
 「やたっ!」
 翔太はすかさず目の前の餃子にかぶりついた。だが、
 「辛ーッ!! 何だよこれ、鼻が痛いよ!?」
 次の瞬間には、鼻と口元を押さえてげふげふと咳き込んだ。
 「こんなこともあろうかと用意しておいた、『翔太さん専用・大辛餃子』ですわ」
 『斉民要術』はにっこりと微笑んだ。
 「あ、『大辛』は一個だけで、他の餃子にはピリ辛程度にしか入れておりませんので、ご安心下さいませ」
 心配そうな他の班員たちに向かって一礼する。8班の生徒たちはほっと胸を撫で下ろした。
 「ひどい……」
 翔太は涙目で『斉民要術』を見た。その時、
 「えーっと、見せてもらっていいかな?」
 軽く咳払いをして、陳が8班の調理台に回って来た。
 「あっ、はいっ!」
 樹が慌てて敬礼をする。
 「8班、山羊の炊き込みご飯、山羊の刺身、餃子、山羊汁、です!」
 「沖縄風にしたのかな? ちゃんと香草を使ってあるね。餃子と汁も良く出来ている」
 一通りメニューを試食した陳はうなずいた。
 「……それにしても、良くこんなに沢山作ったなぁ。林たちが試食に来るとは言え、食べ切れる?」
 「うちの班には欠食児童がおりまして……」
 まだげふげふやっている翔太と、翔太に水を差し出しているプリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)を見て、樹は苦い表情をした。
 「食べ切れればいいんだけどね。暫定で特級の評価をあげるけど、残したら一級に格下げだよ」
 陳に言われた8班のメンバーは、この後、大量の料理を死ぬ気で平らげる羽目になったのだった。

 「何だか、主菜が沢山あるんだけど……」
 9班が作った料理を見て、陳は首をひねった。調理台の上には、「ノボリゴイとイノシシと山菜のしゃぶしゃぶ鍋」「ノボリゴイの刺身」「ノボリゴイの竜田揚げ」が並んでいる。
 「刺身が主菜! 竜田揚げが副菜! 鍋が汁物! ……ということでは駄目でありましょうか?」
  ジャンヌ・ド・ヴァロア(じゃんぬ・どばろあ)が懇願する。
 「ちょっとこじつけっぽいけど、品数も揃っているし、まあいいことにしようか」
 陳は苦笑して、試食を始めた。
 「うん、味も普通だし、鍋のおかげでバランスもそこそこだね。一級をあげよう」
 うなずいて評価を下した陳が去っていった後、ジャンヌはロイ・ギュダン(ろい・ぎゅだん)を肘でつついた。
 「ほら、しゃぶしゃぶにしておいて良かったでありましょう? もしすき焼きにしていたら、汁物だと強弁することは難しかったでありますよ?」
 (すき焼き……食べたかったのに……)
 すき焼きを主菜にして、ノボリゴイで副菜と汁を作るって選択肢はなかったのかよう、とロイは心の中で呟く。

 「……これはまた」
 10班の調理台の前に来た陳は、一瞬言葉を失った。
 「何でまた、こんなに炭水化物ばっかりになっちゃったの?」
 「えー、何と言いますか、ちょっと材料の調達に見込み違いが……」
 朝野 未沙(あさの・みさ)はもじもじと身じろぎをしながら答える。
 調理台の上に並んでいるのは、焼きおにぎり、焼きそば、すいとん、それにデザートのみたらしだんごとパウンドケーキだ。焼きそばとすいとんの具は急遽かき集めたが、それでもやはり足らず、主食3品とデザート、という雰囲気は結局解消されていない。
 「やっぱり、言われちゃったの……」
 朝野 未羅(あさの・みら)がうつむく。
 「この、パウンドケーキの中に入っているものは何かな?」
 それでも一応、一通り試食をして行き、最後にパウンドケーキに手をつけた陳が首を傾げた。
 「野ブドウです!」
 プリモ・リボルテック(ぷりも・りぼるてっく)がはきはきと答える。が、
 「いや、ブドウの味はしないよ? これ、何だったかなぁ……」
 「ハチミツを取りに行ったら巣の中に蜜がなかったので、かわりに採って来たものを入れたのだが?」
 ジョーカー・オルジナ(じょーかー・おるじな)が眉一つ動かさずに言った。
 「えーっと。それって、ハチミツじゃなくて蜂の巣の中にあったもの? って……いやあああああ!!」
 ようやく、ジョーカーがケーキの生地に混ぜたものの正体に気付いたプリモは、悲鳴を上げて飛び退った。朝野三姉妹も、じりじりと調理台から離れる。
 「ああ、蜂の子ね。ケーキに混ぜるものとしてはちょっとどうかと思うけど、これはこれで珍味だよ?」
 だが、陳は平然とケーキを食べ終えた。さすが中国出身と言うところか。
 「でも、このバランスの悪さだと、やっぱりあんまり良い評価はあげられないなぁ。二級だね」
 「うっ……リベンジならずか……」
 陳に言われて、以前本校の給養部隊の手伝いをしたいと申し出て断られたことのある未沙は悔しそうに呟いた。

 (私は味音痴だけど、班の皆さんにも味見を繰り返してもらったから大丈夫、なはず……)
 11班で調理を担当した夜住 彩蓮(やずみ・さいれん)は、胸の前で手を握り合わせ、どきどきしながら、味見をする陳を見つめていた。
 主食は、木の実を炊き込んだご飯に金住 健勝(かなずみ・けんしょう)レジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)が捕って来たイナゴの佃煮を添えた。主菜の川魚の香草ボイル焼きは、クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)が捕まえて来た川魚を、香草とヒニラプラで包んで蒸し焼きにした。副菜のヒニラプラの野草炒めは、少量の乾燥麺と、食用になる野草とヒニラプラを油いためにしたもの、そしてヒニラプラの味噌汁というメニューだ。ヒニラプラには辛味があるので、辛すぎないか、逆に少なすぎてぼけた味にならないか、という不安がある。一応、味が良くわからないという自覚がある彩蓮は、同じ班の生徒たちに、何度か味見を繰り返してもらって味を決めたのだが……
 「うん、良く出来ているね。バランスも申し分なし。一級です」
 試食を終えた陳は、生徒たちに言った。
 「良かったぁ……」
 彩蓮は詰めていた息を吐き出した。
 「わたしたちの『あれ』が減点の対象にならなくて、良かったです」
 レジーナもほっと息をつく。
 「ほら、だから、ちゃんと食べられると言ったであります。この後、レジーナも食べてみるでありますよ」
 健勝が自慢げに胸を張る。
 「……食べられるか食べられないかと、美味しいか美味しくないか、食べるのに抵抗があるかないかっていうのは、また別だと思うんですが……」
 それでもやっぱり、虫を食べることには抵抗があるレジーナだった。

 「おや、ここは珍しくイタリアンで来たのか」
 12班は、いろいろと内部で揉めた末に、主食がリゾット、主菜がサワガニと山の幸のパスタ(茹で加減を変えて何皿か作ってある)、ソパ・デ・アホ(にんにくのスープ)、瓜のシロップ漬けというメニューになった。
 「1班が使ったキノコがゴビタケだったけど、この班のキノコも問題ありじゃないだろうね? ……と言うか、あからさまに問題が起きているようなんだが」
 夕暮れの薄暗い中、何やら体がほわんと発光している12班の生徒たちを見て、陳は腕を組んだ。
 「星光茸を使ったんでしょう。毒じゃないし、美味しいキノコだけど、実際に戦場に居る時には使っちゃ駄目だよ」
 「すみません、美味しいって図鑑に書いてあったし、本当に食べたら光るのかなって思って……」
 そう言う芦原 郁乃(あはら・いくの)だが、あまり悪びれた様子はない。
 「本当に、一晩で光らなくなるんだろうな?」
 アクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)が郁乃に念を押す。
 「大丈夫大丈夫。……図鑑にはそう書いてあったから」
 郁乃はにっこり笑って答えた。本当か?とアクィラは口の中で呟く。
 「キノコは問題ありだけど、料理の味そのものは良かったから一級、かな」
 実はもう一つ問題のある食材が紛れており、そのせいで後日12班は評価を二級に下げられるのだが、この時はまだ、陳も生徒たちも、そのことには気付いていなかった。
 ……その食材を集めて来た郁乃と蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)を除いて。