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【2020授業風景】サバイバル調理実習!?

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【2020授業風景】サバイバル調理実習!?

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第5章 戦い済んで日が暮れて

 そして、夕暮れの空に、陳の声と、調理時間の終わりを告げる銅鑼の音が響いた。
 「はーい、終了ー! 全員調理を止めて、僕が試食に回るのを待つように!」
 生徒たちは一斉に、作業の手を止めた。周囲は薄暗くなって来ており、既にかまどの火を落としている班も多いため、あちこちでぽつぽつとランタンに火が入れられ始める。
 「じゃあ、1班から順番に回るからね」
 陳は拡声器を持って言うと、1班の調理台に向かった。

 「ノボリゴイの香草あんかけに兎肉のコーンクリームシチュー、フルーツポンチね。どれどれ……」
 陳が皿を覗き込むのを、1班のメンバーは緊張の面持ちで見守った。
 「コーンクリームシチューはコーンが足らなかったのかな? クリームじゃなくなっているし。あと、茸が入っているようだけど、これは何を使ったの?」
 「ゴビタケでございます」
 ネル・ライト(ねる・らいと)が答える。
 「ゴビタケかぁ……知ってて入れたんなら減点の対象だなぁ。毒はないけど、ちょっと変わった効果があるのは知ってるよね?」
 「え、そうだったんだ?」
 クリームシチューを作ったルイン・ティルナノーグ(るいん・てぃるなのーぐ)が目を丸くする。
 「語尾に何か言葉を付け加えたくなっちゃうんだよね。だから『語尾茸(ゴビタケ)』なんだ」
 陳は自分からクリームシチューをすすった。
 「野生のパラミタトウモロコシかぁ、にゃん……栽培種も野生種も、美味しいものではないんだよね、にゃん」
 「あのー、教官、遊び心ということでひとつ……」
 ルインは上目遣いに申し出た。
 「余裕は大切だけど、授業で遊んじゃダメだよね、にゃん」
 陳は難しい顔をし、香草あんかけとフルーツポンチの試食をした。
 「うん、主菜とデザートは合格、にゃん。シチューの分を減点して、二級ってところかな、にゃん。ゲストに試食させる時は、ちゃんとゴビタケが入ってるって言って、黙ってこっそり食べさせちゃダメだよ、にゃん」
 風紀委員長ににゃんにゃん言わせたらその場で撃ち殺されかねないからねー(以下、「にゃん」は省略)、と最後に忠告をして、陳は2班の調理台に向かう。

 2班は、主食、主菜、汁物については
 「お粥と鍋とお汁だと、ちょっと水っぽいかなぁ」
 というコメント付きではあるものの、合格点を貰えた。ただ、デザートには問題があった。
 「失敗、してしまいました……」
 フェリックス・ステファンスカ(ふぇりっくす・すてふぁんすか)ががっくりと肩を落としている。
 「雪蛤のシロップ煮を生のカエルから直接作るのは、失敗と言うより無謀だよ。干しシイタケとか干し貝柱なんかを考えてもらえればわかると思うんだけど、戻しても元の食材と同じ味や食感にはならないよね?」
 「ですね……」
 陳に指摘されて、フェリックスはうなだれた。結局、デザートは食べられるようなものにならなかったため、2班も二級の評価になった。

 3班のご飯、鯉の香草包み焼き、山菜おひたし、アラ汁のメニューは無難に仕上がっており、一級の評価が貰えた。
 「と言っても、かなりな部分がほのみん様のお力なわけですけどねぇ。ナナは包んだだけですし」
 陳の評価が終わった後、
 「料理には自信がないなんて言ってたけど、上手じゃないですか!」
 などと言いながら美味い美味いと包み焼きをつついているルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)を見て、ナナ・マキャフリー(なな・まきゃふりー)はちょっと複雑な顔をした。
 「誤解を重ねる前に、みっちり料理の修業をした方が良いかも知れぬのう」
 音羽 逢(おとわ・あい)が囁く。
 「ル、ルースさんとの明るい未来のために、頑張ってみます……」
 アラ汁にむせて軽く咳き込みながら、ナナは決意を新たにするのだった。

 「えーっと……みんな大丈夫かな?」
 肩で息をしている4班のメンバーを見て、陳は心配そうな表情になった。
 「う、うむ、大丈夫だ」
グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)が汗をぬぐいながら頷く。皿に盛られたフィッシュアンドチップスは、揚げたてのほやほやだ。と言っても、試食の時間に揚げたてになるように時間を計算したのではなく、上杉 菊(うえすぎ・きく)が魚を調達して来るのが遅れたためだ。主菜に使う肉も届くのが遅かったため、銅鑼が鳴るぎりぎりまで班の全員が作業をすることになってしまった。
 「芋ご飯に、串揚げ、フィッシュアンドチップス、冷たいポタージュ……主菜と副菜が両方とも揚げ物なのがちょっとくどい感じかなぁ。でも、料理自体の出来はいいし、一級をあげよう」
 「ありがとうございます……」
 しかし、陳の評価にも、芋ケンピを作れなかった班長のセオボルト・フィッツジェラルド(せおぼると・ふぃっつじぇらるど)は最後まで無念そうだった。

 パン、ヤギロース肉のポアレ・フルーツソース、カルパッチョ風ヤギフィレ肉のサラダ仕立て、ヤギのスープと、山羊尽くしの凝ったメニューにした5班も作業の遅れで一時は時間内の完成が危ぶまれたが、エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が皆の動きを見て時間をやりくりし、どうにか日没前に調理を終えることが出来た。
 「教官、冷茶をどうぞ」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が水滴を受けるための紙のコースターを添えた、水出しのお茶を陳に渡す。
 「ふぅん、この班はまた凝ったメニューにしたんだねぇ」
 陳は小皿に料理を取り分けて口に運ぶ。
 「うん、味も申し分ないし、食材のほとんどを採集に頼るとどうしても偏りがちになる肉と野菜のバランスも取れてるし。特級をあげましょう」
 「やったぁ!」
 ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が歓声を上げて、パートナーの朝霧 垂(あさぎり・しづり)に飛びつく。
 「でも、食べ終わった皿の片付けまでが調理実習だからな。まだ気は抜けないぜ」
 6班の方へ向かう陳を見送って、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は表情を引き締める。

 「何と言うか、野外炊さんらしい料理かな」
 良く言えば素材を生かした、ちょっと意地悪な言い方をすると技巧をこらしたわけではない6班の料理を、陳はこう表現した。
 「でも、主食のご飯もきちんと炊けてるし、ステーキの山羊もちゃんと臭みは取ってあるし、野菜は汁物に山菜が入っているし、パンケーキも美味しく焼けている。必要充分な要件はちゃんと満たしているので、一級です」
 「ありがとうございます」
 班長の戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)はほっと胸を撫で下ろした。
 「若干メニューに統一性がないので、減点されるかと思いましたが」
 セラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)も安堵の息をつく。
 「私は、特級を狙ってたんだけどな」
 対照的に、琳 鳳明(りん・ほうめい)はちょっと残念そうだ。
 「ともあれ、これで、後は安心して皆で美味しくご飯を頂けますね。……乾杯がお水なのがちょっと残念ですけど」
 御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)が悪戯っぽく笑った。

 「食べてみたら、意外と美味しくてびっくりだったわ」
 「うんうん、どうなることかと思ったけどね」
 「ええっ? 訓練だと思って飲み込んだけど、私はちょっと……」
 天津 亜衣(あまつ・あい)麻生 優子(あそう・ゆうこ)天津 麻衣(あまつ・まい)がひそひそと囁きあっている7班に、陳がやって来た。
 「あれ? 一人足らないみたいだけど」
 「……ちょっと、体調を崩してしまいまして。あちらで休んでいます」
 レナ・ブランド(れな・ぶらんど)が、離れた場所で地面に倒れているゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)を振り返る。
 「随分具合が悪そうだけど大丈夫? 毒にあたったとか、食物アレルギーが出たとかじゃないだろうね?」
 「いいえ。精神的なものですので、ご心配には及びません」
 さすがに心配する陳に、レナは平然と答える。
 「で……主食のご飯と主菜はいいとして、他の皿はどうしたのかな? 副菜は? 汁物は?」
 「……あ」
 7班の生徒たちははっとして顔を見合わせた。
 「龍虎鳳大菜に力を入れすぎて、忘れていました……」
 調理を担当したハインリヒ・ヴェーゼル(はいんりひ・う゛ぇーぜる)が呆然と呟く。
 「うん……まあ、猫と鳥と蛇と野菜の煮込み料理だから、ご飯があればバランスは取れるけど、実習の前に説明した条件は満たさないとね。それに君たち、他の班より人数が多かったんだから、きちんと手分けをすれば、副菜と汁物も作れたんじゃないかな?」
 陳の指摘に、班員たちは返す言葉がない。その間に陳は料理の味を見た。
 「料理自体の出来はいいんだけどねぇ。条件を満たしていないので、残念だけど可の評価はあげられないなぁ」
 陳は残念そうに首を振った。