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夏といえば肝試し!

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夏といえば肝試し!

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4.肝試し開始

「危険は無いとは思うが一応、コース内に仕掛けを作りながら辺りに注意を払いましょう」
 ノリノリで顔や首筋を白塗りしているエメは、一変真面目な顔をして言った。
 間近で見ると白塗り顔は、なんだかおかしい。
 仲間と日本のお化けゾーンとして固まって変装を開始した。
 天井の岩にタコ糸をくくりつけ、こんにゃくに穴を開けて吊るし、地面に風船が入ったビニールプールを置き前後にスロープを付けてみる。
「このこんにゃくは後で美味しくいただきましょうね」
「はいにゃ!」
 バスティアンが明るく返事をした。
 地面にはスイッチを仕掛け、その上に板を置き板を誰かが踏んだら悲鳴が聞こえるなど古典的オバケ屋敷の仕掛けをコースに作る。
「これでここのルートは完璧です」
 行灯の後ろに赤い着物を羽織って座り、人の足音が聞こえてくると行灯の影でぺちゃぺちゃと、油……ではなく、ミルクを舐めて待機する、バスティアン。
 行灯の灯りは最小限に絞り、なんとなくいるのが分かる程度に抑えた。
「瀬島は皿屋敷の女性か……結構気合が入ってるんだな」
 雪女の格好をした呼雪は、幽霊らしい凄みとそこはかとない色気を漂わせていた。
 壮太の喉がごくりと鳴った。
「お、オレがやるのは、皿屋敷のお菊って怪談をアレンジしたんだ。普通は皿を一枚二枚って数えるんだけど、オレは自分の財布の中身を一枚……二枚……と数えて、九枚にいったところで『札が一枚足りねえーーー!』って驚かす。どうだ?」
「うん。皿が足りないより金が足りない方が、リアルに怖いかも知れない」
 呼雪の発言に、壮太はショックを隠せない。
「切実すぎて見てるのがつらい? その通りだよチクョー!」
「そこまでハッキリ言ってないぞ」
「しかし……エメも早川も、なんで和服着て立ってるだけでそんなに迫力があんだよ……」
「エメのメイクの腕が良いんじゃないか?」
「いやそれもあるけどよぉ……」
「エメも何かに扮装したら良かったのに」
「私はこれで十分ですよ。さぁ、来ますよ、所定の位置へ」
「おう!!」

「──夏といえば肝試しっ、いろんな人がどんな脅かし方をするのか楽しみだなぁ〜♪」
 波音は洞窟の中を鼻歌を歌いながら歩いていた。
 普段はお勉強とか生活習慣でお小言言われてばかりけど、今回はあたしのターンだよ!
 ま、まぁ、私が悪いからお小言されるのは承知の上だけど、てへへ〜…
 でもたまにはあたしのターンがあってもいいよねっ!
(にゅふふ〜楽しみ楽しみっ♪)
「き、肝試しで脅かし役がいるのは分かってるんですし、仕掛けもあるはずですっ。で、できるだけゆっくり移動して、よく見れば、き、きっと分かるはずですっ…」
 アンナは波音の背後からびくびくしながら付いてきている。
「いざとなれば、海水浴用に準備したビ、ビーチボールと浮き輪でっ…―─ってこの2つじゃ何の対策にもならないじゃないですかっ!」
「一人ノリツッコミだぁ」
 波音のその言葉に、愕然とした表情を見せるアンナ。
 もう怖すぎて、自分でも何を言っているのか分かっていないらしい。
「お化けさんは怖がるとお化け冥利に尽きるんだって。波音おねぇちゃんがそう言ってたからぁ、ララ頑張って怖がるよぉ!」
 恐怖心という言葉からは程遠い存在のララは、能天気に答えた。
「アンナおねぇちゃんはぁ、肝試しは苦手なんだよぉ。怖いんだよぉ」
「ひぅっ!」
「お化けさん、嬉しがってるねぇ。きっと」
 アンナがその言葉を聞いて脱力しかけたその時。
 冷たく、ぬめった物が、頬に触れた。
 こんにゃくだ。

「いぃ〜〜〜〜〜〜〜!!!!???」

「にゃぁあああぅううううう」


 化け猫バスティアンが登場。持っている灯りで目が妖しく光る。
 続いて、皿屋敷に扮した壮太が暗がりからスッと現れ。

「札が一枚足りねえーーー!」


「〜〜〜〜〜〜!!!!」

 そして突然の吹雪。
 グッズ店で購入した雪散らし機械──エメに出番の時に降らせて貰うよう頼んでおいた。
 喋ってしまうと男だとバレてしまうので、呼雪はなるべく声は出さずに、視線や仕草で怖さを表現した。
 その姿は、ぞっとするような…且つ妖艶な雰囲気を醸し出し……見る者を凍りつかせる!

「……ん? あぁ、怖くないよ〜、大丈夫だよ〜」
 波音は恐怖で固まっているアンナの頭を優しく撫でた。
「アンナおねぇちゃん驚いた? 驚いたの? 波音おねぇちゃん頭なでなで〜ってするって言ってたからぁ、ララも一緒にする! 怖くないよぉ〜!」
 真似てなでなでと頭をさすった。
「もう……もう…帰りたいです〜〜〜」
 アンナの泣き声を聞きながら、波音は脅かしてくれた人達に「グッジョブ♪」と、こっそりグーのポーズでお礼をした。

 ヴァーナーは、洞窟に隠れて天井を【氷術】で凍らせた。
「人が来たら凍った天井に水鉄砲で水を飛ばせば、冷たい水滴が首筋に落ちてビックリです!」
 想像すると、楽しくなってくる。
「上を見上げたら天井の氷に移った自分たちの歪んだ顔とかで、またビックリ!」
 ほっぺたを押さえて驚き顔を作るヴァーナー。
「あついからひんやりしてすずしそうです。なかよしさんたちがびっくりしてひっついて、もっと仲よくなってくれたらだいせいこうなのです♪」
(おどろきすぎてたいへんになった人は回復スキルとグッズでなおすです)
 ターゲットが来るのを、今か今かと待ちわびる。
 やがて……灯りが見えてきた。
 蝋燭の明かりでは暗すぎる為、『光精の指輪』の人工精霊もついでに灯りとしている葵とエレンディラだ。
「精霊さんよろしくね〜♪ 明るくて嬉しいよ」
 葵が笑顔で話しかけている。
 周りから悲鳴が聞こえてくるたびに怖くなってくるが……
(大好きなエレンの前では強気で行かなきゃ……いいトコ見せるんだ!)
「葵ちゃん……」
 エレンディラが震えた声を出した。
「ん? こうやって手を繋げば少しは怖くなくなるよ」
 手をギュっと繋ぐ。
「絶対に、手を離さないでね」
──今が狙い時です!
 ヴァーナーは水鉄砲を発射させた。
「えいっ!!」
 ぴちょん、と。
 水滴がエレンディラの首筋を伝う。
「キャーーーーーー!!!! 何か、何かが首に!!」
 思わず葵に飛びつくエレンディラ。
「大丈夫、大丈夫。怖くないよ。落ち着いて、大丈夫だから……ね」
 背中や頭を優しく撫でる。
「頼りになる私の騎士様……」
 葵をじっと見つめて、そっと背中へと腕を回した。
(大成功みたいですね!)
 ヴァーナーはにこにこ微笑んだ。

「これで涼しくなると良いですけど、やり過ぎるとトラウマになりそうですね」
 吊るしたこんにゃくを持ちながら翡翠は小さく呟いた。
「夏の名物かもな? やり過ぎには注意か」
 一緒の岩陰に隠れているレイスも、腕組をしながら答える。
「しっかし、さすがカップルのいちゃ付き、甘いな、砂吐きそうだ」
 冷たい手で、掴んだり、触ったり。
 カップルが通るたびに憂さ晴らしに怖がらせる。
「本当に桃色空間ですねえ……独り身には、キツイです」
 横で美鈴がぽつりと呟いた。
 白い着物を着て、幽霊のようにぼ〜と立ち尽くし、恨みがましく思いを吐き出す美鈴は怖いものがある。
 ちょっと前までは光の玉を持って浮きながらふわふわ移動して驚かせていたが、カップルだらけで、なんだか疲れてしまった。
「肝試し……カップルが本当に多いような気がしますねぇ」
 ぼそぼそと、三人で囁きあっていると。
 どこからともなく鼻歌が聞こえてきた。
「……今、誰か歌いましたか?」
 翡翠の問いかけに、レイスと美鈴はぶんぶんと首を振った。
「やると寄って来ると言いますよねぇ…」
 顔を見合わせて青くなった。
 周りの気温が一気に下がった気がした。

 基本、怖いのが苦手な由宇は、びくびくとしながら「幸せの歌」を鼻歌で口ずさんでいた。
 恐怖心を紛らわせようと必死らしい。
「夏の風物詩である肝試しに参加してみたかったですが…怖いですぅ」
 隣を歩いているアレンに、涙目で訴える。
「そんなに怖いかい? オレとしてはもう少しスリルがあっても良いと思うんだけどねぇ…」
「冗談でもそんなこと言わないでくださいですぅ」
 突然。
 物音と共に、目の間に白い物体が!
「あああああああーーー!!!」
 そいつから発せられる奇声。
 由宇は慌てて両耳を塞ぎ、岩陰に身を隠した。小さく丸くなって震えている。
「……あ、あれぇ? こんなので、そんなに驚いてくれるんですねぇ」
 被っていたシーツの下から、綾音が顔を覗かせた。
「まぁ怖がりだからねぇ…あ、ちょっとそのシーツ貸して」
 アレンは綾音に何事か耳打ちする。
 二人して悪魔の笑みを浮かべる。
「せーのっ!!!」
 真っ白いシーツを由宇に目掛けて放り投げる。
「うえっ? うぇきやああぁあぁ!!!」
「お化けです! お化けが襲ってきています!」
「逃げろー由宇ー!」
 アレンと綾音は笑いながら由宇を攻め立てる。
「ぎゃあぁあぁあ……あ…」
「……ん?」
 由宇が意識を失った。
「マズイ……」
 アレンが低く呟き、じりじりその場から逃げようとする。
 危険を察知して、綾音も一緒に下がり──ダッシュで逃げ出した。
 数秒後、開いた由宇の目は別人のように据わっていた……

 大佐とプリムローズ、そして陽太は、協力しあって洞窟内に驚かす事に特化したトラップを作った。
「カップルの方々がより親密になれるきっかけづくりに貢献できたら幸いです」
 陽太は笑顔で答える。
「天井から人の手みたいな塗装をしたゴム手袋が複数落ちてくる。中に血糊をたっぷり吸った脱脂綿が詰まっているので微妙にリアルなのだよ。そして生首の模型が落ちてくる。こっちにも血糊をたっぷり塗ってやったぞ」
 大佐の言葉に、プリムローズが呆れながら言った。
「壁一面にまで血糊ぶちまけましたね。これは掃除が大変ですよ」
「いいのだよ」
「それにしても、一人で待機する驚かせ役のほうが怖いんじゃないかと、気づきましたが……一緒にやってくれて嬉しかったです」
 上質の布を材料に、はんだ付けセット・日曜大工セットを使って「ユビキタス」で得た知識と「トラッパー」の技術を用いて、急に白い布が奇音と共にバサーッと覆いかぶさってくる罠を作成していた陽太は、少し照れながら言った。
 何となく昼間でも不気味な洞窟。
 夜に何か起こったら、自分達驚かせ役が一番怖い立場だと思う。
「協力して行うのは当然のことです。トラウマにならない程度に驚かせましょう!」
 プリムローズが元気に答える。

「…うぅ……、ねーちゃん、どこぉ……」
 禰子とはぐれてしまった夏菜が、震えた声を絞り出して探している。
 この機会に度胸をつけて欲しいと思っていた禰子は、洞窟の途中でわざとはぐれた。
 最初は怖がる夏菜の手を握ってやっていたのだが、途中でビキニの紐が無いだの切れただのと理由をつけて手を離し、さっと隠れたのだった。
(一人でクリア出来ればちょっとは自信になると思う。おどかす役が各所にいるってことは、安全は保証されてるだろうしな。んじゃ、あたしは入り口で待つことにするかね)
 禰子は光条兵器を出して明かりをつける。
「どっちから来たっけ? ま、歩いてりゃどっかにつくだろ」
 方向感覚が鈍い禰子は、さっそく迷宮へと迷い込むのだった。
「──はわわわぁあーっ。お……おどろかさないで、ください……」
 夏菜は誰かにお尻を触られたような気がした。
 だが、人影はない。
「き、きっとねーちゃんは入り口のとこでボクを待っててくれてますよね。うん、ねーちゃんの期待に応えるためにも、ボクはがんばりますっ!」
 ロンTワンピの下に、百合園水着を着た夏菜はぎゅっと拳を固めた。
「………」
 陽太が大佐を冷めた目で見つめている。
「な、何か用があるのか?」
「…今……夏菜君の…お尻を…」
「さーて! 次も頑張るのだよー!」
 話を断ち切るかのように、大声を張り上げる大佐。
 そんな大佐をプリムローズは暖かい目で見ていた。

「誠一さんがやれっていうから、がんばって驚かせられるように準備しますね。えーと、多めのお水に毛布、モンスターマスクもですか?」
 真奈美が誠一に尋ねる。
「そうだ」
「通路に毛布を敷いて、びしょびしょになるまで水をまくんですねーあとは物陰でやり過ごしたあとに後続のふりしてこえかけてモンスターマスクでおどろかすと」
「まって下さい誠一。わたくしがこういうのが苦手なの知っているでしょう?」
 スートラが誠一を非難し始める。
「そうさな〜よし、真奈美。スートラ。そのへんの岩陰でちちくりあえ! できるだけ殺して注意しないと聞こえない程度に声を出せ。
近づくのがいたら振り向きざまにマスクで驚かせばいい。それか俺が後ろから首筋に水をたらすとかだがー…」
「は?」
 真奈美の目が点になる。
「確かにそっちの方が良い気がします。わたくしが真奈美を喘ぎ声を出させますからそれにつられて来た人や覗き込んでる人を誠一が驚かせてください! まあ釣られた人はわたくしたちでも大丈夫でしょうけど…マスクは必要ですね」
「うむ、任せた」
「ってスートラさんなにいってるんですか!? 誠一さんもとめてくださ…あんっ!? そ、それで素通りされたら痴漢呼ばわりするとかでしょうか…でもカップル相手じゃ効果薄そうですが…」
 早速、真奈美を物陰に連れ込もうとするスートラ。
「あらぁ? なんだか楽しそうなことやってますわね。私も仲間に入れて下さらないかしら」
 留美が満面の笑みを浮かべて寄ってくる。
 可愛い女の子と、キャッキャウフフをするつもりでやって来た。脅かすフリをして女の子の身体を堪能させてもらうつもりで……
「今日は文字通り女の子と触れ合うのに、またとないチャンスですわよね」
「そうだな、おう。仲間に入れ入れ!」
「ちょっ……誠一さん!」
「嬉しいですわ。お化けと言えばやはり白いシーツをかぶったような姿じゃないですか。わたくしも、シーツをかぶって待機してたんです。そして、可愛い女の子が通りかかったら、追いかけてがばっと抱きしめて差し上げようと思っていました。そう、わたくしの豊満な身体を押し付けるようにして」
 留美が自分の身体をかき抱く。
「……そして、あわよくば、胸を揉んでみたりして、際どいところを攻めてたりして差し上げようと妄想を広げていました。さぁ!」
 持っていたシーツを広げて、真奈美とスートラの元へ飛び込んでいく。
「わたくし引っ叩かれたとしてもめげませんのよ!」
 誠一はその様子を満足そうに眺めていた。

「どうせ、やるなら徹底的にやりますね! だって…その方が面白いじゃないですか♪」
 朔は参加者が来たら、アシッドミストと妖刀村雨丸から出る霧で挑戦者たちの視界を遮ろうと考えていた。
 そうして、光学迷彩&ブラックコートで近づきつつ、しびれ粉を撒いて痺れさせ、レイスと名状しがたき獣を歩かせて恐怖を感じてもらい、動きだす人が居たらその身を蝕む妄執で悪夢を見てもらうつもりだった。
 万が一、光術使ってくる人が居たら、闇術で対抗。
「絶対に光で洞窟内を照らすようなことはさせません。じゃないと怖さが半減してしまいますから。……それらすらも抜けてきた場合は私自ら出るしかありませんね」
 口元を引き締めながら朔は呟く。
「血糊をたっぷり被って日本刀もった幽霊として先を通させません。もちろん、アボミネーションで恐怖心を煽ります」
(暗闇で誰にも見られないからこそ…昔の自分を出しても良いかな…)
 人が来るのを今か今かと期待する。
 そして──

 ぺた…ぺた……

 あれ?
 不気味な音が聞こえる。
「お化け役をサボる…悪い子は…どこ…?」
 昏き水の底から零れる様な声が聞こえる。驚きの歌と恐れの歌……
「なななな何ですか、これは…?」
 一人でお化け役に徹している朔は急に怖くなってきた。
 よく見ると。
 テスラがテスラがまるで浮いた状態ですーっと近づいてくる。
「!????」
 驚かすどころの問題ではない。
 宙に浮いているはずなのに、不気味な足音が聞こえ続ける。目の前を、ゆっくりとテスラが通りすぎていった。
「なんだったんですか、一体…」
 朔は大きくため息をついた。
「──テスラ、大丈夫か?」
 変身して虎の姿になり、隠れ身で姿が見えないようにしているウルスは、背中にテスラを乗せ道案内をしていた。
「大丈夫です。肝試しは初めてなので楽しみにしていたのですが、でも、考えてみたら私は生来視力が殆ど無いので、暗かろうが明るかろうが大して変わらないんですよね、がっかりです」
「まぁこの空気を楽しめよ。でも……なぜか誰も現れないんだよな、本当にお化け役いるのか?」
「人の気配はあります。ですが、出てきてくれないですねぇ」
「そっか。とりあえず、歌、歌ってくれないか? BGM代わりに。恐れの歌でもノリノリだぜ」
 テスラにっこり微笑んだ。
「了解しました。では──」
 再び歌い始めるテスラ。その姿に、隠れている連中は恐怖を覚え、出て行くことが出来ないでいた……