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夏といえば肝試し!

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夏といえば肝試し!

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5.肝試し(1)

「最初は洞窟前で待機してるつもりだったんだが……大体、あいつら肝試しの意味を分かっているのか?」
 ユーリは疲れた表情を瀬織に見せた。
「なんでこんな所まで付いきてしまったのでしょうか。お邪魔虫ですよ、わたくし達」
 瀬織が悲しそうに呟く。
「そんなの知ってるよ、どうしてこうなったんだ」
 二人の悩みなんてどこ吹く風で、綺人は洞窟内をきょろきょろ眺めていた。
「アヤ、気をつけて下さいね。何処に誰がいるか分かりませんよ? でも、何かが襲ってきたら全力で守りますからね」
「分かってるよ、クリス」
 肝試しと言うより洞窟探検感覚の綺人。
(あの手を握りたいです……つなぐのでしたら、恋人繋ぎが良いです。良いですよね?)
 ちらりと後ろに視線を向けると、ユーリと瀬織がしっかりついてきている。
(入り口で待つって言ってましたのに…)
 クリスは、がっくりと肩を落とす。
 二人のいる前で手をつなぐなんて出来ないです……
「あれぇ?」
 綺人がすっとんきょうな声をあげた。
 小型扇風機が首を振り、それに煽られちりんちりんと鳴る風鈴。
 道中に一息付ける休憩所──行燈の灯りに照らされた謎の茶室っぽい畳敷きの一角があった。
 そこには座布団に正座して閑談してる和服美少女と巫女がいた。
「ちょっと一服してきなはれ〜、ここは涼しゅうおすえ」
 エリスが親切心で休憩所を作ったのだ。
 さっと座布団を綺人達の前に出し、休憩しないと気まずい雰囲気を作った。
「あ、えっと…じゃあ……」
 慣れた手つきで茶と茶菓子がすっと差し出された。
「お茶は熱いんと冷たいんどっちがよろしゅうおすか?」
 薄暗い場所に微妙な休憩所。
 これは別の意味で怖い……
 温かい物を頼んだ人には、やたらと高そうな茶器に入ったお抹茶が。冷なら、やたらと高そうなビロードグラスに入った麦茶が出てきた。
「本日のお茶菓子はひんやり冷やした葛餅を用意しましたえ〜。走って熱なった身体に気持ちええ思いますえ」
 横から壹與比売が出てきた。
「この様なお話しがございます。これはわたくしが女王を務めていた頃に耳にしたお話しでございます」
 何故か突然話し始め、いつの間にか雲行きが怪しくなってきた。
 表情を暗くして、怖い話が開始される。
「大切な種もみを奪われ恨んだまま入水自殺をした女性が復讐に来るという謎怪談……幾人かの村人が彼女が川へと入っていく姿を見たそうでございます。ですが……水死体は上がらなかったそうでございます。夜な夜な返してぇ〜私の種もみを返してと背後から迫る濡れた冷たい手が……」
 綺人がクリスの服の裾をぎゅっと握る。
「結局それは只の尾鰭の付いたお話し、実際は……彼女も水浴びをした後隣国へ所用で出かけていただけでございました」
 そこまで聞いて、皆ほっと胸を撫で下ろした。
 だがその時。
 クリスの服の中に、わざと冷水で冷やしておいたティアの手が滑り込んだ。一体どこから現れたのか。

「返してあたしの種もみを返してよおおおお!!」


 過剰なスキンシップが始まる。
「〜〜〜〜〜!????」
 四人は驚いて駆け出した。が、その先にはお約束の様に冷やした蒟蒻が顔にぶつかる。
「また帰りにでもお越しやすぅ〜」
 のんびりとしたエリスの声が、逆に恐怖心を煽った。

「私はオーストラリア育ちで日本風の肝試しを体験するのは初めてです。話に聞いたことはあるので楽しみではあるんですけど……その、実は、少し、怖い、かな? もともと得意ではないんですけど、超自然の存在がいることを知ってしまったから余計に想像力が…」
 ジーナの言葉に耳を傾けながら、蒼也は微笑む。
「冒険途中で怖いモンスターに出会ってしまったときは自分の装備も環境も違うから覚悟も出来ていて耐えられるんですけど、この日常の延長の非日常みたいな状況で、私、平常心を保てるでしょうか」
 万一を考えてジーナに禁猟区をかけておき、危険を感じたら光術であたりを確認するつもりでいた。
(みっともないところを見せられないと思うと…ちょっと緊張するな)
 蒼也は苦笑した。
 ジーナは大人しいけどしっかりしてるから、そんなに取り乱したりはしないと思う。だけど。
 不安そうな素振りを見せたジーナに、生身の方の手でジーナの手をしっかり握った。
「離さないから、大丈夫だ……」
 浴衣姿は良いが、動きにくいからちゃんとエスコートもしないとな。危なそうなところは手を引いてやる。
「足元に気をつけろよ?」
 暗いと姿が見えない分、他の感覚が鋭くなって、今までわからなかったことに気づける気がする。
 ジーナは俺のこと……どう思ってるのかな。
(俺はジーナの大切な人になれるんだろうか……)
「あの、七尾先輩」
「ん?」
「日本の夏の風習は多様でとても興味深いですね。でも実は、少し怖いです。でも、先輩と一緒ならきっと大丈夫…」
「ジーナ……」
「色々不安もありますけど、七尾先輩とご一緒なので心強いです。あまりみっともないところを見せずにすめば嬉しいな」
 その言葉に蒼也は噴出した。
「え?」
「同じ。……俺も、みっともないところ見せられないって思ってた」
「七尾先輩……」
「浴衣、似合うな」
 真っ赤になって俯くジーナ。
 だがその時。小さな小さな水滴のしたたる音が。
「!?」
 ジーナは驚いて、繋いでいた手に思わず力をこめてしまった。
「あっ、ごめんなさい」
「……俺といる時は、我慢しなくていいよ」
 手を持ち上げて、こつりと額に触れさせる。
 ジーナは赤くなりながら蒼也を見つめて、こくんと頷いた。

「本物さん、居たら脅かすのを手伝ってくださいね。これはお礼だから」
 祠の前で、弥十郎はお土産に持ってきたお酒(薔薇の雫)を一瓶、心で念じつつ祠にお供えした。
 そして【捜索】を使い、天井で隠れられそうな場所を探していく。
「こう言う場所は足元や前後左右を気にしすぎて、頭上というのは案外盲点と思っているんだよねぇ」
 【博識】を使用して、ロッククライミングの人達が使う岩場で休む方法を思い出し、ちょうど良い場所で待機した。
 蜂蜜、ゼラチンなどを混ぜて作った大量のスライム状特製ゼリーを天井からふりかけるつもりらしい。
「やはり被りものとかが王道ですが…やはりここは魔法使いらしく魔法を使ってみようかな? 魔法で火の玉とかいいですね……」
 ぶつぶつと一人ごとを言いながら真下を歩いているレイス・クローディアを発見した。
(試してみようか……)
 弥十郎は一滴たらしてみる。
「ん?」
 頭に妙な感触を感じたレイス・クローディアは、天井を見上げた。
 弥十郎は満面の笑みで手を振った。
 が、しかし。
 レイス・クローディアの顔が固まっていた。
「どうしたんだい? そんなに驚かせちゃったかなぁ?」
 のんびりした声で話しかけると。
 震える指を指し示した。
「ん? ワタシ?」
 首を振る。
「一体な………」
 振り向くと。壁一面が茶色い物体で覆われていた。
「ななななんだ、これ?」
 よく見ると、それは微妙に動いている!
「ひぃ!!」
 弥十郎は駆け下りた。
 そこへちょうど結奈とフィアリスとリィルの三人がやってきた。
「あれぇ、どうしたの二人とも。驚かす役がどんな方法で驚かしてくれるのか楽しみにしてたんだけど?」
 結奈が笑いながら問いかけてくる。
「見つかったら駄目ですよぉ」
「そうですわ、楽しさが半減してしまいますわ」
 フィアリスとリィルも同じだ。
 だが、レイス・クローディアと弥十郎はもう口が利けない状態だった。
「どうしたの? ん?」
 頭の上に、ぽたぽたとたれてくる、液体?
 持っていた蝋燭をかざしてみると……土色???
 一面びっしりと小刻みに揺れる物体が!!! 弥十郎が作ったものなんて比じゃない!
「なに、これ!? ぎやあぁあ〜〜〜!」
 一気にその場にいた全員に向かって落ちてきた。
 何かは分からないが、とにかく慌てて払おうとした。しかし離れることなく、上からますます落ちてくる!
「たすけ、たすけて……!」
 わたわたじたばたしている所へ。
 様子を見に来た美羽とマリエルと愛美が現れた。
 すっぽり茶色の物体と化している五人に驚愕する。虫???
「美羽……たすけて…」
「えぇ!?」
「これ取って〜」
 まるでゾンビのように腕を伸ばし、全身、茶色の液体?をしたたらせる連中。
「ご、ごめんなさい、こ、こないで……」
「え?」
「来ないで〜〜〜!」
 脱兎のごとく逃げ出す美羽達。……仲間に引きずり込んでやる。
「ふへ、ふへへへ……絶対逃がさない〜〜〜〜!」
 追いかける姿はどんなものよりも恐ろしかった。

「男2人で手繋ぐのも微妙だけど……暗いし、はぐれたらややこしいからしょうがない」
 樹は手を差し出して、喜びまくるフォルクスを尻目にずんずん前に進んでいく。
「なんか怖いな」
「そうかぁ……、!!」
 突然奥から聞こえた悲鳴。
「わわっ!?」
 ここぞとばかりにフォルクスは樹に抱きついた。
「あ、暑苦しいだろ!」
 少し照れながら離れようとする樹。だがフォルクスは意味不明な行動に出た。樹の頭を撫でる。
「?」
 首を傾げつつ樹は頭を撫で返した。
「…………」
「なんだ一体? どうした?」
 覗きこんできた樹に、我慢出来なくなったフォルクスは飛び掛った。
「樹〜〜〜〜!」
「うわっ! ──この変態! セクハラ魔!」
 樹はグーで殴った。
(セクハラじゃなく吸血? 血はまぁ、たまにはあげてもいいけど何で今?)
 ぜへぜへと呼吸を整える。
「まったく油断も隙も無い!」
 少し顔を赤くしながら、もう一度フォルクスを殴りつける樹だった。

「プレナさんの頭にしがみついて、いざ洞窟へ…!洞窟へ…」
 ソーニョはびくびくしながら辺りの様子を伺っていた。
「もふもふのソーニョ君が頭に乗ってるとちょっと暑い…」
「だって、僕、怖いです」
「お札を取ったらね、おでこにつけてるとお化けが出にくくなるんだよぉ〜」
「そ、そうなんですか!? 絶対、絶対取ってくるです!」
 プレナは気づかれないように舌を出した。
 いちいち反応するソーニョ君がいちいち可愛くてときめいてしまう♪
「ゴメンゴメン、嘘だよ。でも純粋にこうやって探検とかするの、楽しいでしょ」
 びっくりしてプレナの頭から転げ落ちるソーニョ君。
「っひぎにゃあー! 嘘!? プレナさんは何で平気なんですかっ!?」
「う〜ん。ソーニョ君が立派な竜騎士になる為、度胸を付けたいって言うから、プレナはそれのお手伝いでしょうかぁ〜」
「答えになってません!」
 プレナが楽しそうに笑うのを見ながら、ソーニョはため息をついた。
(何かあるたびに転げ落ちそうになる僕はちょっと情けない…。でもプレナさんはすごいというか、肝試しブレイカーですね…)
 少し考える。
(プレナさん、驚いてくれないかな……僕ばっかりで悔しいからプレナさんも驚け〜)
 心の中で呪いの呪文を吐き出すソーニョだった。

「来たよ!」
 マリィは上部から飛び降り、爆竹を鳴らした!
 と同時に、バニッシュを何度か光らせるリリィ。
「!!!!!」
「アリス舐めんじゃないわよ。このくらいの高さ浅い浅い!」
 マリィの自信満々の言葉に、リリィは苦笑する。
 上部隠れているマリィを気づかせないよう注意を自分に引き付けるために服のすそを岩陰からチラ見せしていた。
 お化け屋敷にありがちな演出だが、屋外でも出来るところが魔法の力。
「どうだ! 驚いたか! 驚いた?」
「ひぃやぁぁぁああ!!! ごめんなさい! ゆるして! たすけてぇぇぇ!!!」
「へぇ、ここまで驚いてくれるんだ、上出来上出来。あいつの余計な世話もたまには役に立つじゃん まぁ、ほとんどはあたいの手柄だけどさ」
 ミルディアは真奈に抱きついて泣き出した。
「いやぁああぁあぁぁあ!」
「あら…ミルディが泣いてしまいましたわ。だから上には注意するようにと言いましたのに……」
 真奈は苦笑した。
「本当に怖がりでしたのね…もう少し私が気をきかせれば良かったようですわね。ごめんなさい」
 胸の中で首を振るミルディア。
(あら……?)
「…あんまり弱いところ見せたくないんだけど、なんでこんなんなっちゃうんだろ……?」
 ミルディアの泣き顔が、あまりにも可愛い。思わず頬が緩んでしまいそうになる。
 ずっと見ていたい──
 真奈の中で、何かが変わりつつあった。
「あ……あのぉ、もしかしてちょっとやりすぎましたか? えっと、この先は本当に危ないですから、お祓いのパワーブレスを掛けてあげます。神の祝福あれ」
 リリィは嘘八百を並べ立てた。
 この先出会う恐怖へのスパイスになれば。
 隣を見ると、マリィは自力で元の場所に戻って次まで待機していた。よほどこれを楽しみにしていたのだろう。行動が早い。

「祠は元々あるものなんだよな?」
 志保は呟いた。
 あらかじめシーツや暗幕に使う大きなサイズの黒い布を用意して、その布で骨骨を隠し、肝試しの参加者が近づいてきたらそっと布を外すために洞窟の途中に隠れて待機していた。
 骨骨は蛍光塗料で光ってるから、突然現れた骸骨ってワケだ。
「突然ワッと驚かしてびっくりさせるのもいいけど、静かに近づいてくる恐怖っていうのもアリだと思うんだけど……とまあ、冷静に作戦を考えてはみたけど」
(俺、実はその、幽霊の類が大の苦手でね……。実家は古い寺だし、骨骨はこんなナリだし、遊園地のお化け屋敷でバイトしてたことだってある。でもダメなものはダメなわけで)
「よろよろしながら苦しげな様子で、呻いてみるのも良いでござるかな」
 骨右衛門は何度も頷いた。
「しかし……参加者が驚いてくれれば嬉しいでござるが、拙者も一緒に逃げたい心持ちでござる」
「確かにだぜ」
 志保はため息をついた。
 今回、俺があまり働いてないのは、いろいろやるとパニックになって出来なくなりそうだから。
 暗い洞窟で待機中は、心臓がばくばくする。
(落ち着け俺、落ち着け俺)
 自分に言い聞かせながら、志保はごくりと唾を飲み込んだ。
 じゃり…と、土を踏みしめる音。
 北都とクナイがやって来た。
 早速予定していた通りの行動に移る。
「う……うぅ……お助け……置き去りにしないでくれ」
 真に迫った骨骨の演技だったが。
「……骨、だねぇ」
 カーキ色のハーフパンツと白いフード付きパーカーを着た北都はそう呟くと、再び歩き出した。
「え?」
「ちょっと北都!」
「なんだい?」
「えっと、あの方達は、お化け役で……もっと何か反応をしてあげないと…」
 クナイが焦って答える。白シャツと黒のスラックスが夜目に映える。
「あれ? そうだったの?」
「……」
 ボケと言うか天然と言うか。
 そんな北都を再確認出来てとても嬉しい。
 黙っていると、安心させるように笑顔を見せるから、色んな手段で驚かせて来る人達には申し訳ないですが肝試しには集中できません。
(北都……)
「うわっ!」
 そんな上の空状態だったクナイは、石を踏んでバランスを崩してしまった。
 咄嗟のことで立て直しが出来なかった。
 身体が倒れていく最中、北都が執事らしく庇ってくれた。
「いたたた……え?」
(この体勢はっ!? 私を庇って下になった北都。これは押し倒し状態?)
「大丈夫? 僕は平気だから。受け身くらいとれるし」
「あ……」
「おい、大丈夫か?」
 隠れていた志保が心配そうに声をかけてくる。
(人が見ていたんでした)
 ぐっと堪えて何事も無かったように北都を引き起こした。
(もし、誰も居なかったら…)
 北都の残り香を感じつつ、まだ長いこの道のりが永遠に続けばと思っていた。