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夏といえば肝試し!

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6.肝試し(2)

(美央、覚悟するがいいデース! まずはミーのペットのゴースト3兄弟に洞窟内を散歩してもらいマス! 作り物の幽霊には出せない本物のゴーストの感覚を味わってもらいマース、ハハハ!)
 ジョセフは心の底で、美央に対する思いを吐露していた。
「自信をつけさせるためにも、予行演習として何人か驚かせておいた方が良いと思ったのですが、中々動きませんね」
 クロセルはそっと様子を伺った。
「せっかくたくさん考えて来ましたのに。スケルトン スキル「氷術」で作成した雪だるまの中に埋め込んでおき、そのファンシーな姿に近寄ってきた者に向かって、中から飛び出す事で驚かせるとか。光精の指輪 光の人工精霊を人魂のようにフワフワ飛ばして陰影を工夫したら、良い演出になるかもでしょ? スライム コンニャクなんて古い古い! もっとパラミタ的な小道具を使わないといけませんよ。そこで、このスライム。背筋に入って気持ち悪い、魔力吸収効果でスキル抑制と正に一石二鳥」
 そこまで言うと、掲げていた手を下ろしていった。
「でも……驚きのあまりスキルを使われたら、我々が酷い目にあいかねないですからねぇ」
「大丈夫デース! ミーの目的はただ一人、美央! この岩場に隠れつつミーは闇術で美央をいやーな気持ちにさせタリ、アボミネーションで美央を怖がらせたりシマス! 極めつけはその身を蝕む妄執で美央にジャパニーズホラーな白装束を着た怖ーい全身びしょ濡れの長い髪の女の人がじわじわ近づいてくる幻覚を見せマス!」
 ジョセフとクロセルは共謀して、美央を貶めようとしていた。
 だがそんな話を近くでされているというのに、当の本人は身体を丸めてぶるぶる震え、その場から動けずにいた。
「大丈夫、私はパラディン……雪だるまの御加護があるからきっと大丈夫。……でも本物のお化けが混ざってたりしたらどうしようやだ……お化けやだ……だって何考えてるのか分からないですし、なんて言うんでしょう。言葉に出来ない恐怖感があります……魔獣だとか鬼だとかは全く平気なんですが…」
 お化け関連になると、精神年齢が急に子ども以下になってしまう美央。
「美央ちゃん、大丈夫?」
 心配そうに声をかける唯乃。
「お化け怖いお化け怖い……!」
「わっ!」
 唯乃に飛びついてしがみついた。
 パートナーがネクロマンサーなので人骨やらは見慣れている唯乃は、違う方面からのアプローチでないと中々怖がらない。
 驚かす気満々で超感覚で聴覚・視覚・嗅覚を強化していたのだが……
「どうする? リタイアする?」
 その言葉にぱっと顔を上げ、ぷるぷる首を横に振る。
(怖いはずなのに……)
 唯乃はくすりと笑った。
 そうこうしているうちにクロセルとジョセフがこっそり背後に近づき。

「覚悟するヨーーーー!!!」

「そぉれそれぇー怖がってくださいーーーー!!!」

「ひぃいいぃい!」

 両手で頭を覆い視界を遮る美央。
 悲鳴をしばらくあげていたのだが、突然ゆらりと立ち上がると。
「え?」
「なに?」
 二人をランスバレスト由来の突きで思い切り殴った直後に、気絶してしまった。
「美央ちゃん……」
 唯乃は美央を回収して逃げ出した。
 その場には、クロセルとジョセフの屍が転がっていた……

 隠れ身、超感覚、ちぎのたくらみで見つからないように隠れた郁乃は、背後と隙を突いてブラインドナイブスでお尻を触ったり、首筋や脛など肌の出ているところを触ったりして驚かせちゃおうと思っていた。
「あとはトラッパーで糸でつるしたこんにゃく、そして頭上に注意が向いたところを今度は足元にこんにゃくと2段重ねのこんにゃくトラップ、それと足元に糸を張っておいて引っかかると岩陰に隠しておいた幽霊のオブジェ……シーツをかぶした十字にくんだ棒だけどね。これが出てくるようにしといたし」
 氷術で通りかかるとひやってする程度の寒気を覚えさせたりもするよ。
 とにかくスキルフル活用で徹底的にやってたるわ♪
 くすくす笑いながら郁乃は獲物を待ち構える。
「……!?」
 イルミンスール制服&マジックローブを羽織り、顔白メイクとハロウィンのカボチャを夏仕様でスイカにしただけの嘱台を持った満夜がやってきた。
(生首???)
「……これが楽しいのか?」
 ミハエルがつまらなそうに呟いた。
「だだだだ大丈夫です。こっちもこうやって変装しているから、向こうも驚いて寄ってこないはずです」
「寄ってこなきゃ肝試しの意味が……」
(まぁ、闇に乗じて満夜に襲い掛かるようなら容赦しないが)
「ひっ」
「なんだ?」
「ううん、ちょっと人の気配が……。たいていの化け物はパラミタ各地で見慣れてるから平気ですけど、やっぱり急に出てこられたりすると……」
 ぴちゃりと。
 郁乃のこんにゃくが、生首の満夜にヒットした。
「〜〜〜〜〜〜!!!!!」
 こんにゃくを振り払うと、満夜は無意識にミハエルを抱きしめた。
「!?」
「こここ怖い怖い怖い!」
「お、おい…」
 思わぬ行動にどうしていいか分からなくなるミハエル。離れようとすると再び満夜にきつく抱きつかれる。
「〜〜〜〜〜!」
 いちゃらぶ方面に無頓着のミハエルも、これにはまいる。
 天を仰いで、嬉しいのか嬉しくないのか離れたいのか離れたくないのか、初めての不思議な感覚に戸惑っていた。

 蝋燭をしっかり握りしめながら、エルサーラは暗い道を進んでいた。
「1人に蝋燭1本が当然よね? 2人で1本だなんて許せませんわ」
 隣を歩いているエースに、憤慨しながら訴えた。
「足元が危ないですから、俺が持ちますよ?」
「……」
 その言葉に無視して歩き続ける。
 だが。
「…ね、ねぇ。何か気配っていうか視線っていうか…」
 時折後ろを振り向いたり周りを見たり、落ち着かない様子のエルサーラ。
(あれ? もしかして…?)
 パートナーのペシェは、光学迷彩で後をつけ護衛していた。
 気づかれないよう、エルサーラ達が進む先をこっそり追いかけ、振り返るとピタッと止った。
(だるまさんが転んだみたいだなあ)
 思わず笑みがこぼれる。
 二人の邪魔をしないように気を利かせていたつもりなのだが、中々感が鋭いようだ。
「……危険はありません」
 安心させるようにエースがそっと抱きしめると、慌ててジタバタして飛び離れる。
「失礼ね、怖くなんかなくてよっ」
 気丈にふるまってるけど、エルサーラの強がる言動がとても可愛らしい。
 彼女の安全が最優先なので、脅かす人がいるのは構わないけど彼女が怪我しないように気を配らなくてはいけない。
 だがその時。
「きゃっ!」
 すってーんと、エルサーラは滑って尻餅をついてしまった。
 そして、蝋燭の炎も一緒に消えてしまった。
(人前で……悲鳴なんてはしたない…!)
 エルサーラは羞恥で俯いてしまった。
「お手をどうぞ」
 暗闇の中、にっこり微笑んでいるエースの顔がぼんやり見える。
 彼の手をしぶしぶ掴んで、リードを許す。
 エースが指輪を使おうとしたのを感じ、懐中電灯の予備を差し出した。
「ズルじゃないわ、もしもの備えよ」
 きょとんとしているエースに畳み掛けるように告げる。
「懐中電灯くらい持ってきなさいよ。べ、別にアンタの為に持ってきたんじゃないんだから」
「エルサーラ様……」
(本当はちょっと怖かったし…繋いでると一寸だけ安心だし……。でも教えない)
「この手は、あくまで繋いであげてるんですからねっ」
「……承知致しました」
 繋いだ手は暖かい。
 エースは ひんやりとした洞窟の中の、涼しさと手から伝わる温もりを感じていた。

「カナさん、暗いしはぐれたら大変ッス。手つないで行きましょう」
 ミミが差し出したクマの着ぐるみの腕。
 カナはその手をしっかりと握り締める。
「別に自分怖いわけじゃ……いや、何でもないッス」
 一応説明をしようとしたが、そんな必要も無かったらしい。
「福ちゃん大丈夫?」
『別に怖くナイノヨ、平気ナノヨ』
「だって、ミミ。平気みたいだわ」
 人形の福ちゃんの答えに、カナは安堵した様子で告げてくるが。
(カナさん、そう言いながら手を強く握りすぎッス……)
 心の中で苦笑した。
『ヒギャアアアアアッッ!』
 福が突然大声を張り上げた。
 カナの肩を、誰かが掴んだらしい。
 だが周りには誰もいない。
『何ナノヨ! びっくりスルジャナイノヨ!』
「ふ、福ちゃん、落ち着いて。もう大丈夫だわ」
『ひどいジャナイノヨ!』
 福ちゃんが叫んでる間に、カナは落ち着きを取り戻していく。
「カナさん、平気ッスか?」
「あたしは平気よ。でも福ちゃんが……」
『平気ヨ!』
 強がって答える福は、カナの心そのままだった。

 洞窟に入ると外とは打って変わって涼しく過ごしやすいが、時折妖しげな風が吹き、霊的なモノを呼び寄せてしまったかもしれないと、優は警戒を強めていた。
 零と手を繋いで洞窟に入った。
 ふと、隣の零を見ると。
 雰囲気に当てられたのか怯えた表情をしている。
 繋いでる手を強く握りかえし、自分の方へ引き寄せた。
「大丈夫。俺がついているから安心しな」
 零は、優しく声を掛けてくれる優の存在で落ち着く事が出来、自分の事を気遣ってくれるのが嬉しかった。
 大切にされている──
「ありがとう」
 頭を預け、優に寄り添う。
 安心したのか何時もの表情に戻った零に、優はほっとする。
「祠までもうちょっとだ。頑張ろうな」
「うん」

「ゴゴゴゴゴ」


 その時。
 不気味な重低音が響いてきた。
「な、なに!?」
 零はは怯えて優にしがみつく。
「……お姉ちゃ〜ん、どこなの〜…」
 女の子の薄気味の悪い泣き声。
「零、逃げるぞ!」
 危険を察知した優は、零を引き連れてその場から駆け出した。
「…お姉ちゃ〜ん、どこ〜」
 重低音が近づいてくる。キャタピラ付きでの移動は音が激しい。
 現れた未羅は全く気にすることも無く、はぐれてしまった姉達を探していた。

「未羅ちゃん、どこに行ったんだろう?」
 愛美の側で未那と一緒に脅かし役として待機している未沙は、辺りをきょろきょろ見回す。
 だがそれ以上に気になる存在が。
「怖かったら遠慮しないで抱き付いて良いからね。あたし、マナが隣にいれば頑張れる気がするんだ!」
 笑顔で愛美に告白する。
「ねぇ、マナ。まだ……大丈夫だよね?」
「え? 何が?」
「まだ運命の人は現れてないよね? あたしがマナの運命の人になるんだから!」
「うん、ありがとう。でも……」
「?」
 愛美の指差す先には、震えて固まっている未那の姿が。
「未那ちゃ〜ん、大丈夫? 今回はお化け役なんだから全然大丈夫のはずだよ?」
「う、うん……でもこの雰囲気…」
 洞窟の薄暗い光、時折聞こえる悲鳴が、未那の恐怖心を掻き立てる。
 そして。

「ゴゴゴゴゴ」


「ひっ!?」
「……あれ、この音は…」
 未沙は暗闇の先を見つめる。
「未羅ちゃん……!」
「…未羅ちゃん?」
 未那も顔を上げて暗闇に目を凝らした。
 フル装備状態の未羅がこちらに向かってやって来る。
「良かった、見つかった…」
 安堵の吐息を漏らす未沙達だった。