イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

夏といえば肝試し!

リアクション公開中!

夏といえば肝試し!

リアクション




2.集合

 夜の帳が降り始めようとしていた。
 世界を闇色に染めて……
 これから始まる饗宴を彩るかのように、その景色を変えていく。
 洞窟の周囲に、徐々に人が集まってきていた──肝試しを盛り上げる役の人達だ。
 付近に受付場所を設置していたマリエルは、仕事をこなしながら言った。
「あと一時間で開始だよ! 急いで準備して」
 その言葉を皮切りに、皆どこに隠れるか、どうやって驚かすか慌てて打合せをする。

 パーティ会場にでもいそうな、白いスーツに手袋までしているエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)は、どこからどう見ても上品なお坊ちゃんだ。今回のこの催しものには、ちょっと場違いかもしれない。
「【色物百鬼夜行】、全員揃ったですにゃ」
 バスティアン・ブランシュ(ばすてぃあん・ぶらんしゅ)が、エメに向かって敬礼をする。
「メイクや小道具も用意してきました。オバケに扮装するお手伝いは任せて下さい」
 持ってきた荷物を漁りながら、エメは言った。
「幽霊は大して怖くねえし、どうせやるなら驚かす側だよな」
 シンプルな黒地の浴衣を着た瀬島 壮太(せじま・そうた)は不敵な笑みを浮かべる。
「皆日本の幽霊をやるみてえだな。エメは和服着なれてないから、必要なら着付けを手伝ってやるぜ」
「ありがとうございます」
「俺は幽霊的なものは怖くないし、反応もつまらないから、驚かせる側を選んだんだけど……」
 早川 呼雪(はやかわ・こゆき)は、早々に長髪のカツラに白い着物で【雪女】っぽい格好をしてきていた。
 日本の幽霊がテーマらしい。
 色は白い方だし、見た目も冷たそうな感じなので合ってはいると思う。
 親友のヴァーナーと遭遇してしまったら、彼女がお化けが怖いのを知っているから声を掛けて自分だと明かし、安心させようと思っていたけど。
 どうやら同じ脅かす側に回ったらしい。
「後で声をかけようかな……」
 呼雪はそっと呟いた。

「肝試しですかぁ……夏の風物詩ですねえ」
 神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)は小さく微笑んだ。
「あれ? 肝試しには参加しないのか?」
 不思議そうな顔で、レイス・アデレイド(れいす・あでれいど)が問いかける。
「肝試しといったら驚かす側に楽しみがあるのです!」
「そっか」
「はい!」
「脅かしてやりますよ。火の玉は任せてください」
 柊 美鈴(ひいらぎ・みすず)が、満面の笑みを浮かべる。
「白い着物も持ってきましたし。楽しみですね」
 そんな三人の様子を少し離れた場所から見ていた毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)は言った。
「……なんか脅かす役目の人間も多いな」
 複雑そうな表情を浮かべる。
「洞窟内での探知系スキルは使用禁止であろうな。看破されたら面白くない」
「とりあえず、洞窟全体にアシッドミストを散布するぜ。但し密度は結構薄めの方がいいかな」
 プリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)が洞窟内を覗き込みながら呟く。
「カップルの吊り橋効果での親密化に貢献するべく、驚かせ役に励みます。カップルが羨ましくないと言えば嘘になります……が、今回は肝試し参加者達を盛り上げるために頑張って裏方に徹して奮闘する所存です」
 影野 陽太(かげの・ようた)は真っ直ぐ前を見つめる。
(いつか環菜会長とペアで肝試しに参加する側になれたら良いなぁ…)
 ぼんやりと胸に秘めた思いにふける。
「吊り橋効果? わたくしは是非とも脅かす側として参加して、女の子がかわいく驚く姿がみたいですわ。もちろん、下準備として洞窟の脅かしポイントを確認しておいたほうがよいですわね。わたくしは、肝試しのルートから死角になりそうなところに待機しておきたいですわ」
 物思いにふける陽太を横目に、佐倉 留美(さくら・るみ)は言った。
「女の子、だけですか? 男性は……」
 鬼崎 朔(きざき・さく)が不思議そうな声を出す。
「えっ? 相手が男性だったらどうするのか、ですって? わたくし男性には興味ありませんわ。当然、脅かさずにスルーするしかないですわね」
「そ、そうですか……」
 朔は苦笑した。
(留美、気合が入ってますね。せっかくの肝試し、驚かす側をやるなら張り切って驚かします! ……トラウマ級のね。…ククク…肝試し参加者全員、恐怖のどん底に落としてやる)
 悪魔じみた笑みを浮かべる朔。
「ククク…どうせ、驚かすなら最上級の恐怖をプレゼント致しましょう♪」
 橘 綾音(たちばな・あやね)がそんな朔を見つめている。
(何か企んでいるみたいですね)
 笑いを堪えきれない朔に、こっちまでつられてしまいそうになる。
 皆を驚かせるなんて、なんて楽しそうな企画。
 喜んでくれると良いのですが。

「纏めると道中に休憩所を作って休んでもらって、油断しきったところで隙を付いて脅ろかせますわ!」
 ティア・イエーガー(てぃあ・いえーがー)が声高々に叫んだ。
「うえぇえ? 皆さんのためを思っての休憩所作りどすえ!」
 慌てふためきながら清良川 エリス(きよらかわ・えりす)が言った。
「違うでございます! 休憩バカンスでございますよ」
 邪馬壹之 壹與比売(やまとの・ゐよひめ)が真剣な眼差しで訴える。
「怖い怖いと思ってる時に驚かすのも良いですが、油断させて持ち上げて落とすのが一番効果的なんですわ!」
「因果応報という言葉がある……脅かすだけ脅かしといて、ニコニコしているのはフェアじゃないねぇ」
 佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が呟くように言った。
「まぁ、そう言いつつワタシも脅かしているわけだけど」
 思わず苦笑する。
「だけど肝試しの開始前に一通り下見をしてきたんだけど……本物いそうな気がするんだよねえ」
 不気味な言葉を口にしつつ、弥十郎は周囲を見渡す。
「なんか……本物がいるみたいですわ」
 リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)が、弥十郎の言葉に敏感に反応した。
「マリィが驚かし役をしたいということで、わたくしもお手伝いすることにしましたが……」
「人魂だとか蒟蒻だとか、まどろっこしい事してらんない。この身一つで勝負してやる」
 リリィの言葉を無視して、マリィ・ファナ・ホームグロウ(まりぃ・ふぁなほーむぐろう)は思いの丈をぶつけている。
「まだ明るいうちにちょうど良いポジションを探しましょうか。一人より二人のほうがきっと楽しいはずですわ……本物なんて…」
「え? ちょっと、なんであんたも付いて来てんの? まさか怖いとか?」
 やっとリリィの存在に気づいたマリィは、笑いながら答えた。
「とりあえず高所に待機できそうな場所を探そう!」

「肝試しに打ってつけとお声掛け頂いた故、参上でござる。せ、拙者恥ずかしながら、ゆ、幽霊はちと苦手でござるが、期待ににに、応えるでご、ござるよ……ッ。これは武者震いでござる!」
 外見とは裏腹に、骨骨 骨右衛門(こつこつ・ほねえもん)は怯えていた。
 榧守 志保(かやもり・しほ)に向かって震えを誤魔化す。
「榧守の用意した布に隠れ、参加者が来たら布を外してゆっくり近づいていくでござる」
「骨骨、スカウトされたんだろう。この季節は局地的に人気だよな。皆に楽しんで貰えたらいいな」
 志保が優しく微笑む。
「俺たちの経験を存分に活かしてやろうじゃないか! だけど」
「?」
「肝試しが始まる前に手を合わせて、罰が当たらないようお祈りしておこう。今夜は少々賑やかになりますがご容赦くださいってね」
「了解でござる!」

「ククク……色々楽しめそうじゃあないか」
 佐野 誠一(さの・せいいち)がニヤリと笑みを作る。
「合法的に色々出来そうじゃないか? 愉しませてもらおうか定番はこんにゃくやマスクなんだが……」
「な、なんですか。その嫌らしい目つきは」
 誠一の視線に、結城 真奈美(ゆうき・まなみ)は怪訝な表情を見せる。
「何かまた良からぬことを考えているんですわ」
 真奈美の手を取って、カーマ スートラ(かーま・すーとら)は呆れ眼を向ける。
「……本番までのお楽しみとするか」
 誠一は唇の端をそっと舐めた。
「たまには驚かす側をやってみたいのですが……」
 その横で、レイス・クローディア(れいす・くろーでぃあ)がぼそりと呟いた。
「驚かす側として参加する事にしたのはいいですが、どうやって驚かせましょうかねぇ……?」
 きょろきょろと辺りを見回す。
「ふふ、いつも驚かされる側だったので楽しみです。頑張りますよ!」

「──雪だるま王国女王を驚かせまてみせます」
 クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は、拳を固めた。
「盟友ジョセフ氏は赤羽ファミリーから村八分にされていると聞きました! 食事や住居まで別にされ…えぇい、我が心友に対する不当な扱い、例え雪だるま王国女王とはいえ、黙っているわけにはまいりません」
 クロセルは更に力を込める。
「最終目標は、お化けが大の苦手な「赤羽美央」を驚かせて、ジョセフの扱い向上を約束してもらう事。
「盟友ジョセフ氏の地位向上のため、俺も尽力しましょう! 狙うはジョセフ氏の下剋上、主役の座です! 雪だるま王国騎士団長の本気をお見せいたしましょう!」