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7.肝試し(3)

(透乃ちゃんが一緒とはいえ少し不安です……)
 陽子は繋いでいる手に力をこめた。
(透乃ちゃんと、こうやって腕を組んで指を絡めているのは嬉しいですが、失態を見られるのは恥ずかしいので…できるだけ、驚かされずに済むといいのですが…)
 祠に着いた二人は札を取って微笑みあった。
「…おかしい……」
「え?」
 呟いた透乃に、陽子は不思議そうな顔を向ける。
「あ、ううん。なんでもないなんでもない」
 曖昧に答える透乃。
(本当におかしい……祠に着く前に、陽子ちゃんと濃厚なキスをするつもりだったのに…)
 ブツブツと独り言を呟きながら離れていこうとする透乃に、陽子は慌てて声をかける。
「透乃ちゃん、手を離さないでくださ……あっ!!」
「陽子ちゃん!?」
 体制を崩した陽子を支えようと、透乃が自分の方へ思い切り引き寄せた。
──一瞬。
 何が起こったか分からなかった。
 いや、認めるのに時間がかかった。
 透乃が引き寄せた瞬間に、わずかだが、唇が触れあったのだ。
「……」
「………」
 きまずい空気が流れる。だが。
「? 透乃、ちゃん?」
 陽子をまっすぐ見つめる透乃。そして。
「透……ん、ぅっ」
 今度はしっかりと、暖かなもので唇が塞がれ……やがて離れていく。
 真っ赤になって陽子は口を押さえた。
「事故みたいなのなんて、嫌だから」
「え?」
「いこっ!」
 差し出された透乃の手を握って、恥ずかしさと嬉しさのこみあげる胸で駆け出した。
 透乃ちゃん、本当に大好き。
 この手をずっと繋いでいたいと思う陽子だった。

「きゃーーーーーー!!!!!」
 突然足を掴まれた。
 レキは悲鳴をあげて地団駄を踏む。
「どうしたんじゃ、レキ?」
 ミアが驚いた声を出す。
「誰かが、誰かが!」
「ん? おぉ」
 レキが抱きついてきた。
 反応には呆れるが、抱きつかれるのは悪くない。
「なんじゃ、どうした?」
 口では冷静に尋ねるものの、顔は笑っているレキ。
「誰かが足を掴むんだよ〜」
「なに? ……セクハラに関しては相手が男だったら本気で攻撃するぞ」
「そんなのボクがやるよ〜」
「!?」
 その言葉を聞いた途端に、ミアがレキから飛び離れた。
「なんで離れるの?」
「……パニクった反動でボコボコに殴るかじゃろうが!」
「そういうの知ってるからって距離置かないでよぉ!」
 ざざっと、見えない人影が去っていく気配。
「どうやら……今のを聞いて、いなくなったようじゃのう」
「そんなに怖くないもん」
 唇を尖らせるレキ。
「しかし最近の仕掛けはよく出来ておるのぉ。だがあれはタダの布切れ、こっちはこんにゃくじゃ。いちいち騒ぐでないぞ」
「耳を塞いだり目を瞑って気のせいだと誤魔化しきれるのはいいんだよ。でも触ってくるのはマズイでしょ?」
「そうじゃのう…」
「またそんなことされたら、次は容赦せずにいくよ」
 ぷぅと頬を膨らませているレキは、とても可愛かった。

 整然と歩んでいるように見える剛太郎だったが、実は内心怯えていた。
 しかし、恐いなどという気持ちをソフィアに悟られてはいけない。
 剛太郎は肝に銘じながら、歩き続ける。
 それにしても。 
(どうせなら、生身の女の子と来たかったなぁ〜。マシンじゃ詰まらん……)
 密かにひどいことを考えている剛太郎だった。
 だが剛太郎を肝試しに連れ出したソフィアはご満悦だった。
 イタズラを剛太郎に仕掛けようと画策している。

「あぁあああぁあああ〜〜!」

「!?」
 突然のソフィアの大声に、剛太郎は目を見張った。
「な、なな? なんでありますか一体!?」
「いえ? なんでもありませんわ。ただ声が出したくなっただけです」
「……そ、そうでありますか」
 必死に平静を装う剛太郎。実は心臓が飛び出しそうなほど驚いていた。

「んえっ!」

「今度は何でありますかぁっ!?」
「あららぁ? 何かがいたような気がしたのですが……気のせいだったようですわ」
「………」
 再び歩き始める。そして──
 今度は剛太郎を突き飛ばした。剛太郎が起き上がるより先に姿を隠す。
「いつつ……いきなり何を…、ソフィア? ソフィア!?」
 いなくなったソフィアに、慌てふためく。
(一人になってしまった…)
 周りの音が嫌に響く。
 人の気配なのかそれとも別の何かか、背筋に寒気が走る。

「ソフィア〜〜〜〜! ソフィア〜〜〜〜〜!!!!!」


「………」
 恥も外聞もなく叫び続ける剛太郎に、ソフィアの方が根負けして出て行く。
「お。おぉ! どこに行っていたのでありますか! 心配したでありますよ。気をつけてくださいであります」
 まるでこちらに非があるかのように言う剛太郎に、ソフィアはそっと苦笑した。