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リアクション
第1章 命を護る者
闇世界となった日早田村の中で、オメガ・ヤーウェ(おめが・やーうぇ)の魂の行く先の情報を手に入れた数人の生徒たちは、変貌したその村から出て宿泊所の前へ集まった。
「もう11時か・・・カガチと兄さんに連絡したけど来れるかな・・・」
椎名 真(しいな・まこと)は携帯の時刻を見ながら、仲間が村へ来れるか不安そうに呟く。
「やっと外へ出られたか」
闇世界から一旦脱出してきた天城 一輝(あまぎ・いっき)は、暗いところから急に明るい場所出た影響で眩しそうに片手で顔を覆う。
「あ、真くん。ちょうどよかった!昨日の昼間に佐々木さんたちの宿が襲撃されたんやけど、そいつらの情報を教えておこうか?」
村の外へ出てきた七枷 陣(ななかせ・じん)が真に声をかける。
「たしかに襲撃されたって弥十郎さんに聞いたけど、どんなやつだった?」
「白色の髪の毛をしたちっちゃい女の子が旅人さんを刺して、その子のパートナーの英霊が村人を殺したんや!相手がいくらガキだからって、一切躊躇うなよ真くん」
陣は襲撃者の斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)たちの情報を伝え、躊躇しないように注意する。
「その子の仲間の英霊と人獣の白狐が、まだどっかにいるかもしれないから気をつけてくれ」
「分かったよ陣さん。それにしてもアヤカシたちの他に、旅人や村人の命を狙う者がいるなんて・・・」
「うっかり油断しないように気をつけなきゃね」
砂をかけれて視界を塞がれている隙に、襲撃されたことに佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は2度と旅人に手出しさせまいと気を引き締める。
「やっほー陣くん、ネタふりまいて皆に迷惑かけてない?」
陣の顔を見上げ、リーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)は悪戯っぽく笑う。
「うっさい、毎回そんな暇ないっつーの!」
真と合流する前に携帯で呼んだ少女のもみあげをひっぱる。
「やれやれ。着いたとたんに騒がしいな」
一輝に呼ばれてきたユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)が肩をすくめる。
「それで真様。そちらは何か分かりましたか?」
「うん、オメガさんがいる場所のポイントの情報を聞いたから教えるよ」
小尾田 真奈(おびた・まな)に聞かれ、生徒たちが集めた情報を教える。
民家の風呂場で発見された“私を見上げる”という言葉、棚と棚の細い隙間を行ったり来たりする人形の存在、真っ暗で何も見えず底がない、突然燃え出した焼却炉のことを話す。
「ありがとうございます」
聞いた言葉を真奈がメモ用紙に書く。
「実は鎌鼬の仲間の女がいるんだけど、その妖怪がエリっていう妖怪が十天君なんだ」
さらにこの事件に、アヤカシの1人がよく知っている集団の仲間だということを知らせる。
「なっ、何やって!?」
彼の言葉に驚いた陣は思わず声を上げる。
「エリって名前は偽名で、袁天君っていうんだよ」
「アヤカシっていうことは・・・他の十天君もそうなのか?」
もしかしたら他のやつらも同じ種族なのかと真に問いかける。
「―・・・かもしれないね。アヤカシっていうと妖怪かな」
「またあいつらがこの事件に関わっているんか。今度はいったい何をしているんや」
「ドッペルゲンガーにオメガさんの魂を取り込ませて、自分たちの仲間に引き込もうとしてるみたいだよ」
「はぁあっ仲間に!?ざけんなっ、ありえないっつーの!」
「どこにいるんだ真のやつ。あっ、そこか!」
陣の大声に気づき、真の姿を見つけた原田 左之助(はらだ・さのすけ)が走り寄る。
「兄さん!」
「はぁ〜、来るだけでちょっと疲れちゃったね」
左之助の後ろから東條 カガチ(とうじょう・かがち)がぬうっと顔を出す。
空に太陽が登り始めた朝方、村の外に出た真にいきなり電話で起こされ、仲間と共に全速力でやってきたのだ。
「しっかりするんだ。それくらいでへばってどうする」
東條 葵(とうじょう・あおい)は地べたに座り込んでいるカガチを見下ろしてため息をつく。
「で、この村で何が起きてるんだい?まぁ、様子を見れば大体想像つくけどねぇ」
よっこらと立ち上がり、カガチは村の中で何が起こっているのか真に聞く。
「うん・・・カガチたちにも説明するよ。夜になるとこの村は闇世界になってしまって、住人たちは鬼に変わってしまうんだ」
「鬼ねぇ・・・」
「アヤカシの2人が旅人や村人を殺して、オメガさんの魂に悪影響あたえようとしているんだ。それだけじゃない・・・俺たちが鬼と争うと、それもオメガさんの心に闇が広がる原因になるみたいなんだよ」
「それでドッペルゲンガーに吸収させやすくして、自分たちの仲間にしようとしてみたいやし」
真の説明に付け加えるように陣が言う。
「へぇーそうなんだ?」
オメガという魔女のことをよく知らないカガチは興味なさそうに聞く。
「闇世界はオメガさんの悪夢で実態化するみたいなんや」
「なるほどねぇ、あのゴーストタウンとかもそうなのか・・・」
「このままだと村全体が闇世界に飲まれて、村人たちが本当に鬼になってしまう!しかも敵対してるやつがほとんど女子供なんだよカガチ」
相手が女子供でも戦えるのか心配そうに真が言う。
「まぁ手荒なことはなるべくしたくないねぇ」
「心に波風を立ててはいけないよカガチ。女子供とてお前を殺しに来てるんだ」
「分かってるよ葵ちゃん」
心に波風たてず静かな、穏やかな心で終わらせよう。
打開しよう、この悪夢を・・・と心の中で呟いた。
「ちょっとしみるけど我慢してね」
弥十郎はガーゼに消毒液をつけ、襲撃者に負わされた旅人の傷を手当てし、まだ薄っすら残っている傷跡をヒールで癒す。
「陣さんが術であらかた傷を治してくれたし、もう大丈夫かな」
治りの具合を見て安心したようにニコッと微笑む。
「(―・・・ゴースト兵達ごめん。また、救えなかった)」
村人が殺されたという事を陣から聞き、僧侶の家系でもある彼にとってはかなりショックだった。
外を眺めながら命を奪われた者たちに冥福を祈る。
「もうこれ以上、死者を増やしたくないよ・・・」
ボウルに入れた米を研ぎながら、どうにかして旅人を守りたいと対策を考える。
釜で炊き始めた頃、宿の中に入ろうとする熊谷 直実(くまがや・なおざね)の姿を見つけて走り寄る。
「ねぇおっさん。旅人さんを守るための何かいい方法ないかな?」
「ふむ・・・意外な場所に隠せば見つかりにくいかもな。穴を掘ってそこに隠すか」
そう言うと直実はシャベルを手に宿泊所の中に穴を掘り、寝やすいように底に筵を敷く。
「簡単に入れないようにしないとな・・・」
穴の位置がばれないように地面へ均一に細工し、テントのような簡易宿泊所の周りに木造の板壁を掘った土で固定し、出入り口を1箇所にする。
「こっちは旅人さんの身を隠すために、ダミーを用意しておこうかな」
ジェイダス人形に迷彩塗装を施し、弥十郎は旅人を見ながら彼に似せるよう細工する。
「おっとお粥が出来る頃だね。焦げちゃったら大変!」
バケツの中の水を柄杓ですくって急いで手を洗い、卵を菜箸でかき混ぜて釜の中に入れる。
「いい香りだね♪」
ふんわりとかたまり、さっと杓文字でかき混ぜ、雑穀の粥を器に盛り付ける。
「出来ましたよ、召し上がれ」
弥十郎はテーブルの上に器を乗せて旅人に箸を渡す。
「傷がまだ治りかけだから、これなら食べられると思って」
「わざわざ気を使ってくれたんだっぺか?あんたいい人だなぁ」
「料理を作る時は食べてもらう人の体調を常に考えてるからね」
満足そうに食べきる彼を見て、嬉しそうに微笑む。
「旅人さん・・・またあの襲撃者が来るかもれないんです。そこで考えたんですけど、しばらくおっさんが掘った穴の中に隠れていてください」
「だどもあんたはどうするだ?」
「そこは準備しておいたんで大丈夫ですよ。変装して敵をひきつけてくれる仲間がいるんで今度こそ守りますから。不便だけど我慢してくださいね」
旅人をそこへ入れると弥十郎は、端っこに空気穴を空けた丈夫な板で穴の上に蓋をして土を被せる。
さらに上に筵を敷いて偽旅人が伏せっているように人形で見せかけ、天井の明りを消した。
「服はリュックの中から借りるか。どうだ似ているか?」
「ちょっと背が高いけどだいたい似てるかな」
「そうか」
直実は鏡でかつらがずれていないかチェックする。
「俺も似てるかな?」
旅人の姿を見て変装したカガチが弥十郎に聞く。
「うん、そんな感じだと思うよ。陣さんたちから得た情報を掘ったひび割れた装甲板を、どこか目立つところに置いてくれないかな」
「寺子屋の前に置いておこうかな。それじゃあ俺は村の中に行くから、じゃあね」
カガチは彼らに片手を振り、葵を連れて村へ入っていく。
「俺と兄さんは入り口あたりにいるかな。メールに送ったやつ、持ってきてくれた?」
「これだろ?」
「ありがとう兄さん!」
ナラカの蜘蛛糸をカバンにしまうと真は、左之助に持ってきてもらったブライトフィストに持ち替える。
「さてと、どこから来るかな」
真たちはいつ襲撃してくるか分からない、敵が潜む村を睨むように見据える。
「駄目だぁ、護符が効いてないわ〜。皆に悪いことしちゃったわねぇ、他の方法で上手く伝達出来ていればいいなぁ」
師王 アスカ(しおう・あすか)は手作りの護符の効果がなかったことにしょんぼりとする。
「はぁ〜・・・後で謝らないと・・・ん?どうしたのルーツ?」
倉庫の中でしゃがみ込み、項垂れて深いため息をつく。
ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)の方へ視線を向けると、彼は高台の傍にある倉庫の扉をそっと開け、外の様子をじっと覗き見ている。
「何やってるの?」
「しっ。声を出すな、相手に気づかれてしまう」
「誰かいるわねぇ、何を話してるのかしら」
2人はヒソヒソと話し、1人で呟いている女の声を聞こうと耳を澄ます。
「魂を吸収?オメガの・・・?ここからじゃよく聞こえないわねぇっ、何に吸収させようとしてるのぉ!?」
「アスカ、声が大きいぞ!」
「あっ・・・!」
ルーツに言われ、アスカは慌てて両手で口を塞ぐ。
「そこにいるのは誰!?」
「(やばっ、見つかっちゃったわねぇ。皆がオメガの魂を探す時間を稼ぐために一芝居しようかしら)」
「出て来ないなら風の餌食にするわよぉ」
「そんなに警戒しないで、困ってるのかなぁと思って見てたのよぉ〜。何か探してるみたいねぇ、私たちが協力してあげようか?」
小屋から出たアスカは両手を挙げ、女に敵意のないと態度で表す。
「どこかの学校の生徒がこの村に来ているみたいじゃない?あなたたち・・・私の敵側じゃないのぉ〜」
「いやねぇ〜、その人たちと一緒にしないでほしいわぁ〜。悪いことがだぁすきなの♪」
「へぇー・・・じゃあこんなことでも協力してくれるのかしら?」
女は人差し指を口元に当て、どんな悪いことでも協力するのかとアスカに問いかける。
「(フフッ、話しに乗って来たわね)」
ようやく相手が警戒心を解いてきたのかと思い、アスカはニッと笑う。
「いいわよぉ♪あなたの探しているものを聞かせてちょうだい」
「オメガっていう魔女の魂が、闇世界化した日早田村の中に彷徨っているのよ。村の外にある宿泊所に泊まっている旅人を殺して、その魂をドッペルゲンガーに吸収させやすくしたいのよぉ」
「(旅人を殺すですって?しかも魂をドッペルゲンガーに吸収させるってどういうことなのよぉ!?)」
女の計画を聞いたアスカは驚きのあまり目を丸くする。
「あらぁどうしたの、そんな顔して。まさか今更いやっていうわけじゃないわよねぇ?」
「―・・・やるわ。面白そうじゃないのぉ〜♪」
考えるように間を空けて、アスカはいやだという感情を抑え、作り笑顔で答える。
本当は協力したくないが、この女がオメガの魂を見つけられないよう、仲間のために時間稼ぎしようという企みだ。
「私はアスカ。あなたの名前、聞いてなかったわよね。教えてくれない?」
「エリよ、よろしくねアスカ」
女は偽名を名乗り、軽く自己紹介を済ませる。
「後は鏡を使って私のドッペルゲンガーにコンタクトを取って、オメガのドッペルゲンガーに話しを通してもらわなきゃね♪」
「深夜の12時に合わせ鏡をしてそんなことしていた生徒がいたわねぇ。一応戻って来れたみたいだけど、かなり危険じゃないのぉ?」
「これくらいしなきゃ計画が進まないのぉ〜。ことが済んだら私の命をくれてやる代わりにね♪」
目的のために願いをかけるようにエリは手鏡を撫でる。
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