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リアクション
“強化人間狩り”
空京の東地区――天御柱学院や海京の企業関係者の居住区――にて起きている。強化人間を狙った連続傷害事件。
死者は居ないが、重傷者は多数。その大半が強化人間のエキスパート部隊所属。犯人の手がかり一切なし――。
強化人間だけを狙いすましたかのように襲う犯人の手口は、被害者が人気のない路地に一人でいるところを背後から襲うというもの。それも逢魔が時、夕方から夜に掛けての人の顔がわからない時刻の犯行。
犯人の顔を見ている者は誰も居なく、被害者の多くは病院のベッドに横たわっているか、培養槽で負傷した細胞の回復させている最中だ。
そして、今日もまた、病院には新たな被害者が運ばれる。キャスターが廊下を走る音が聞こえる。
「また、なのか……」
病院にて培養槽に浸かる強化人間達の容態を看ている和泉 猛(いずみ・たける)が増える仕事に頭を抱えた。
培養槽内に浸かるパートナーのルネ・トワイライト(るね・とわいらいと)の調整を行っている最中だと言うのに、病院から強化人間の研究者と言う事で、一時的に雇用されていた。それもこれも、強化人間狩りの被害にあった重体患者が連日運ばれてくるからだ。
手術室に長い髪の女の子が運び込まれ、赤いランプが点灯した。
手術が終われば、猛が容態の回復を見る事になる。今手術を受けている子も培養槽にて治癒することになるだろう。
「猛!」
柊 真司(ひいらぎ・しんじ)が猛の名を呼んだ。病院では走ってはいけないと注意すべきところだが、真司の焦燥を見るに、そう言うのは辞めた。
「ヴェルリアはどこだ……?」
急いで此処に来たのだろう。荒い息遣いで真司が尋ねる。彼の後に、リーラ・タイルヒュン(りーら・たいるひゅん)が追いついた。
「あの子はヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)だったのか……、彼女なら今あの中だよ」
と、ランプの点灯した手術室を指す。真司に絶望が灯る。
「アイツは大丈夫なのか!?」
「俺に聞いても分からんよ。俺は医者じゃない」
真司がパートナーの身に起きた突然の出来事に困惑しているのは分かる。冷静を欠く彼を猛が宥める。
「ヴェルリアになにがあったの?」
真司よりは幾らか冷静なリーラが尋ねた。真司同様ヴェルリアの身に起きたことを知りたいようだ。
「強化人間狩りにあったんや、嬢ちゃん」
答えたのは猛ではなく、金髪のツンツン頭だった。服の色が反転しているが、その天御柱の生徒に真司は「おまえは?」と名を尋ねた。
「ワイはブラウ・シュタイナー。エキスパート部隊の空京東区の管区長や。以後よろしゅうな」
自己紹介をすませ、ブラウはリーラに握手を求めた。見た目ヤンキーだが、柔和な笑顔を見せる彼の手を恐る恐る彼女は握った。
「『電気使い』、『雷神』のブラウか」
真司もブラウの噂は耳にしている。学院随一の《サンダークラップ》と《テクノパシー》の使い手と名を馳せている。天御柱学院風紀委員会の一人。強化人間エキスパート部隊の空京東地区管区長。
「その呼び方は恥ずかしいから辞めてくれんか? 呼び捨てでえーで」
なかなかに気さくな人のようだ。
「なら、ブラウ。ヴェルリアに何があったか知っているのか? その“強化人間狩り”とは何だ?」
真司の質問にブラウは答えた。
「“強化人間狩り”は最近ワイの管轄区で横行している強化人間だけを的にした傷害事件や。お前んとこの嬢ちゃんも強化人間なんやろ? 運悪く闇討ちにあったんや」
ヴェルリアは空京で一人迷子になっていたところを、背後から襲われたらしい。夕方の人気のない路地で行われた犯行から、一連の“強化人間狩り”の犯人の仕業だとブラウは睨んでいる。
「運悪くってなんだ……っ!」
「そうカリカリせんと、お前の気持ちはよー分かる。まあ、ワイの管轄で起きたことやからワイにも責任があるが、怒らんといてや。ワイらの部隊も大分被害にあっとるんや」
「このとおりや」とブラウが頭を垂れた。
ブラウの率いる強化人間エキスパート部隊に所属する多くの強化人間も“強化人間狩り”の被害に合っている。寧ろ、この事件の被害者の大半がブラウの部隊から出ていた。今も彼らの療養のため、猛は大忙しだ。
「お前んとこの嬢ちゃんは大怪我しとるが、命に別状はあらへん。しばらくは安静にせんとあかんやろうが」
その言葉に多少ホッとする真司とリーラ。
「ところでブラウ。何故に病院に来たのだ? 被害者の見舞いに来ただけでは無いのでだろう?」
「せや、研究者のお前に協力を仰ぎにきたんや。“クリーンな”無所属の専門家の協力がほしいんや」
ブラウの答えに猛の顔が曇る。
「“強化人間狩り”の犯人捜査協力か……、すまないが俺も強化人間を扱っている時点でクリーンではないんよ。それに、今は培養槽で寝ている強化人間達の面倒も看ないといけないのだよ」
ブラウからの要請より先に、病院からの仕事がある故にここを離れるわけにはいかない猛。
「俺の代わりにベネトナーシュに手伝いをさせる。それでいいか?」
「しかたあらへんな。起きた奴から何か聞けたら、ワイに連絡してくれ。ほな、お前はどうする?」
ブラウはそう猛に約束付け、続いて真司に協力を求めた。しかし、真司は首を横に振った。
「そっか。無事とはいえ身内が心配やもんな。ワイは明日から本格的に事件に取り組む。山葉校長と{SNM9998850#コリマ}校長にも協力者を募る要請もしとる。気が向いたら手ー貸してくれ」
「ほな」と、別れの挨拶をしてブラウは三人の元から去った。
「ルージュといい、ブラウといい、立て続けに……、大変なのは分かるがこちらとて一つ身しかなのだよ……。で、真司、お前さんはどうするよ? 手術が終わるまでここで待つか?」
「……、いやヴェルリアのことはおまえに任せる」
「え?」
「そうか」と頷く猛にヴェルリアを任せて真司も手術室前から去った。リーラは彼の行動を予測できず、遅れて真司の後を追った。
「真司、どうしたのよ? ヴェルリアの事はこのまま?」
「このままで済ませるか……」
そう真司はリーラに呟くように答えた。
このままでは済ませない。しかし、ブラウに協力する気もない。真司は己のやり方で、犯人の首をとる気だった。
――絶対に見つけて殺してやる。
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