イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

VSサイコイーター

リアクション公開中!

VSサイコイーター

リアクション


1.ボクと契約してサイコイーターになってよ!


 空京東地区の一角。天沼矛のある中央地区にも近い空きビル。そこが、“強化人間狩り”の犯人が彼らを呼び集めた場所だった。
 裏リクルートの応募で集められた彼らの仕事は所謂殺しの手伝いだ。指定された人を殺害すること、もしくは犯行を実行することで彼らは雇い主から報酬を貰う。
 今回の汚れ仕事は指定された強化人間を襲い、出来れば殺すことだ。しかし、そのキャッチが「ボクと契約してサイコイーターになってよ!」とはふざけたフレーズを使う。
「集まってくれたね。でも少し少ないかな……」
 コンクリート打ちっぱなしのビルの2階から、1階フロント階段前に集まる7人に“それ”は語りかけた。
「私らじゃ不満か?」
 リデル・リング・アートマン(りでるりんぐ・あーとまん)が雇用主に吹っ掛ける。
「そうじゃないよ。でも、人数がほしいのは確かだね」
 階段を中腹まで下りて“それ”はぬいぐるみ姿を見せた。
「ボクの名前はキュゥタ。よろしくだよ」
 白く愛くるしい“それ”が名乗る。
「あら可愛いコスプレ。ぬいぐるみの中が気になりますわ」
 キュゥタの容姿を見て、アルト・インフィニティア(あると・いんふぃにっと)がそう言う。
「コスプレじゃないよ。これがボクのありのままの姿さ。まあ、“強化人間狩り”っていうもう一つの姿もあるけどさ」
「あんたが今空京で話題の連続犯か」
 狐の面が言う。トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)は面の下で笑い、腕組みをして壁にもたれかかった。彼はどうにもこのキュゥタが連続犯である気がしなかった。キュゥタから殺戮者の狂気や、犯罪者独特の焦燥もない。“犯罪者としての罪悪感が欠如している。”と言っていいほどに“それ”は普通だった。
「雇い主が連続事件の犯人か……面倒なことにならないといいが」
 夜月 鴉(やづき・からす)は背後に隠れた白羽 凪(しろばね・なぎ)を気にしながら愚痴る。彼女が自分も強化人間である故に、キュゥタを警戒しているのだ。
 御剣 渚(みつるぎ・なぎさ)が鴉と凪に持ってきた仕事。鴉も仕事をこなすつもりはあるが、イキナリ雲行きの怪しい話になったと鴉は気を重くした。
「君たちの仕事は、指定された強化人間を襲う事。勿論、殺しでもいい。あと強化人間なら誰でも殺して構わないよ。それも契約の内だからね」
 つまり、それは今ここの誰かが凪や渚を殺してもギャラが発生するということ。凪は鴉の服にさらに強くしがみついた。
「しかし、どうやって強化人間を見分けるんだ? 彼らの見た目は普通の人間と変わらないだろう」
 渚は「彼ら」と言う言葉で自身が強化人間ではないと否定しつつ、キュゥタに質問を投げた。
「だから、ボクが指定した相手を襲ってくれればいいんだよ。いちいち強化人間かそうじゃないか確認するのは君たちも面倒だろう?」
 そう言って、キュゥタは一束のリストを体内から取り出した。
 そこには天御柱学院内に所属する“全ての”強化人間の名が連ねてあった。
「この中から好きな子を選ぶといいよ。あ、でも優先順位はブラウ・シュタイナーが一番だよ。彼は明日から契約者を集めて、大規模な捜査と自分たちの護衛をさせる気だ。彼自身厄介だし早めにヤっておいて損はない。その次が彼の率いるエキスパート部隊の強化人間だよ」
「エキスパート部隊を潰そうってか。なんか恨みでもあるんか?」
 リデルがキュゥタに尋ねたが、“それ”は「今はそうでもないよ」と訳の分からない答えを返した。
「君たちは強化人間の有用性と驚異がどれほどのものかしっているかい? この星にいる何億もの人の内、彼らはほんの1万人にも満たない。でも彼らのポテンシャルは普通の人間を遙かに凌駕する。今は相対的に数が少ない彼らでも、いつかは彼ら強化人間は普通の人間と取って代わって世界を牛耳るだろうね。
 分かるかい? 彼らが増えることで少しずつ僕らは住む世界を奪われていっているんだよ。
 ボクは既にその被害者さ。ボクは昔マスコット業で結構有名だったんだよ? でも、強化人間が現れてからは、どこの会社も、マスコットによるピーアール戦略を辞めて、社内に強化人間を雇用することで生産や業務効率を図る人事マネージメントにシフトした。ボクは用済みになった。だから、ボクみたいなのを増やすわけにはいかない。みんなの為にも強化人間は一人も残さずに消滅させないといけないって分かってもらえたかな?」
 「独善的だな」と狐は小さく呟いた。
「じゃあ、今までお前はそれだけの為に強化人間を襲っていたのか?」
 【ポータラカマスク】で顔を隠したウー・ジェン・スーが問う。
「それだけってひどい言い草だね。でもそれは君たちの為にもなっているんだよ? でも彼らなかなかしぶとくて死んでくれないんだよ。でも今日襲った子は弱そうだったし、死んでくているといいなぁ」
「――、」
 ウーはそれ以上は何も言わなかった。彼の動きは魔鎧が抑えていた。
「それじゃ、みんな上手くやってくれよ。君たちがブラウを襲っている間に、ボクは設楽 カノン(したら・かのん)を殺るから」
 ブラウに注意が回っている隙を狙って、カノンを襲う算段。しかし、そううまく行くだろうか。
「よろしく頼むよ。今日から君たちは“サイコイーター”だ」