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リアクション
●4:戦闘、開始
緋柱透乃が、クライ・ハヴォックで仲間の注意を促す。
それとほぼ同時、牛皮消アルコリアもまた同じ術を発動させ、これで条件は互いに五分だ。
「待てや!」
真っ先に商人を追って飛び出したのは日下部社だった。
「846プロダクション社長!日下部社とは俺の事やー!」
騒々しい名乗りを上げると、商人の背中を目指して走り出す。
しかしそこへすかさず透乃と陽子が立ちふさがった。
「邪魔はさせない、って言ったはずだよ」
にぃ、と口元に笑みを浮かべると、赤い闘気の籠った両の拳を軽く打ち合わせる。
「お前ら、なしてあないな連中の肩持つんや!」
「そんなの私たちの勝手でしょ。ま、ああいう人たちとコネを作っとくのは悪くないかなってね」
いいからやろうよ、と戦闘の構えを取る透乃。
しかし社は手を覆う鉄甲を構えるでもなく、飄々とした態度を崩さない。
「来ないならこっちから行くよ!」
いつまでもやる気を見せない社に、しびれを切らした透乃は自分から突っ込んでいく。
鍛え上げらえた肉体から繰り出されるしなやかな拳は、破壊力十分。
正面から喰らえばひとたまりもない。が、社は積み重ねた経験とカンでもって直撃を避ける。
「もうっ……のらりくらりとー!」
正面からぶつかれば社に勝ち目はないだろう。
しかし、社が正面からのぶつかり合いを避けるように動いているため、透乃はいつもの調子が出せずにいる。
――よっしゃ、このままもうちょい……
「うきゃあああぁぁぁ!!」
社が内心、作戦に手ごたえを感じた、その時。
社のパートナー、日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)の悲鳴が響いた。
「ちー!」
その声に慌てて社は、そちらを振り向く。
「油断も隙もありませんね」
陽子がやれやれと言わんばかりの顔で、千尋の身に着けていたブラックコートを抑えている。
身を隠して黒の商人のもとへ近づこうとしていた千尋だったが、神の目のスキルを持つ陽子は欺けなかった。
「やだー、下ろしてぇー!」
首根っこを掴まれた格好の千尋はじたばたと足をばたつかせる。
「ちーを離せ!」
「あれ、よそ見してる余裕、あるのかな?」
動揺を見せる社に、隙が生まれる。
そこを見逃す透乃ではない。すかさず強烈な左ストレートを叩き込む。
歴戦の経験が、社に直撃を避けさせた。それでもダメージは避けられない。社は少し後ろへ飛ばされ、その場で腹を押さえる。
「ああっ、やー兄!」
今度は千尋が動揺を見せる番だった。
「人の心配をしている余裕はありませんよ」
しかし陽子は容赦なく、千尋の体を放り出すと、得物を取り出し追撃の構えを取る。
千尋は目をぎゅっとつぶると、叫んだ。
「助けて、キノコマーーーーーン!」
すると、千尋の声にこたえるようにどこからともなく、頭がキノコ様の……いや、キノコ頭の「何か」が現れる。
陽子は愛用の凶刃の鎖をひゅん、と唸らせ、千尋に向かって放つ。
が、それより一歩早く、キノコマンが素早く千尋と陽子の間に割り込んだ。
ざくり、と音がして、キノコマンの体に刃がめり込む。
「キノコマン!」
主を守るという仕事を果たしたキノコマンは、ぐ、といい笑顔でサムズアップを見せると、その場にばたりと倒れた。
「ありがとう、キノコマン……!」
君のことは忘れない、と映画のクライマックス張りの感動シーン。しかし、キノコマンが主を守ってくれるのは一度きりだ。
「邪魔が入りましたね。でも今度は外しませんよ」
改めて得物を構えなおす陽子に、千尋はうう、と後ずさる。
「いたいけな女の子をいたぶるのは感心しませんわ」
とそこへ、颯爽と割って入ったのは、冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)だ。
「あら、少女といえど契約者。実力が未知数である以上、手加減は無用のはずです」
「……良心の問題です。ここからは、私がお相手いたしますわ」
小夜子は手にしたを、魔銃モービッド・エンジェルを構える。隙がない。
なるほど片手間に対応できる相手ではなさそうだ。陽子は凶刃の鎖を両手で構えると、息をつめて小夜子に対峙する。
一瞬二人はにらみ合う。
動いたのは同時だった。
小夜子はトリガーを引くと同時に飛ぶ。
一瞬前まで小夜子がいた場所を凶刃が抉り、また陽子は最小限の動きで銃弾を回避した。
陽子が鎖を繰ると、刃はまるで生きているかのように正確に小夜子を狙う。
小夜子はしかし、刃を避けて飛び回りつつ、空中から精密な射撃でもって陽子へ銃弾を叩き込む。
周囲でも戦闘が行われている中、そこだけが時間が早回しで進んでいるようだ。
小夜子が距離を詰めようとすると、陽子の操る刃がすかさず進路を塞ぐ。
近距離戦は苦手なようだ。
よし、と小夜子は頭の中で策を練る。
ひょぅ、と音を立てて襲ってきた刃を、小夜子は地面を蹴って避ける、と同時に、光術を炸裂させた。
「……っ!」
あまりに初歩的な術だ。陽子はすかさず目をつぶって躱す。
しかし、そこに一瞬の隙ができた。
それを見逃す小夜子ではない。一気に加速すると、陽子の懐へと飛び込む。
走る間に、武器は妖刀・金色夜叉に持ち替えている。闇の力を宿す短刀だ。
気合の声を上げるようなことはせず、一気に切り付ける。
が。
「あいにく、接近戦も得意なんです」
ナックル状に赤く光る陽子の左手が、小夜子の振りかざした短刀を受け止めた。
彼女自身の宿す光条兵器「緋想」だ。
く、と小夜子の顔に焦りが浮かぶ。が、落ち着いてすぐに刃を引くと、続けざまに刃を繰り出す。
陽子は冷静に、その一撃一撃をナックルで弾き飛ばす。
実力はほぼ五分。
決め手に欠けるまま、消耗戦のような戦闘が続く。
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