First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last
リアクション
「お姉ちゃん……!」
ウイユは、ちらりと見えた姉の背中に向かって細い声で叫んだ。しかし、戦闘の音に阻まれて届かない。
一行の中でもかなり後ろの方を歩いていたウイユは、先頭集団が戦闘を開始したころようやく追いついたのだ。もう少し、もう少し自分が前を歩いていればと後悔が過る。
しかし、目の前では敵味方入り乱れての激しい戦闘が行われている。危ないから、と後方のチームに匿われてしまう。
「うーいゆちゃん」
そんなウイユに、優しい――気味の悪いほどに優しい声をかけたのは、牛皮消アルコリアだった。
「お約束、忘れてないわよねぇ?」
ウイユの顔に自らの顔をずいっと近づけてにっこりと笑う。
その、無邪気なほどの笑顔に、ウイユはいっそ恐ろしささえ感じた。
出発前にアルコリアから提示された、「お約束」を思い出して。
――「お願い」の対価には、「覚悟」が必要だよ?
そういうアルコリアから求められたのは、ウイユ自身。
アンリを取り戻す、その願いがかなえられるなら、自分はどうなってもいい、という「約束」。
ウイユは悲壮な決意を宿した瞳で、コクリと頷く。
「うんうん、その決意、忘れないでねぇ?」
――まあ、実際には成功してもキス一つで勘弁してあげますけど。
ウイユの覚悟のほどを確かめられたことに満足したアルコリアは、ふふ、と愉しそうな笑顔を浮かべ、パートナーたちを連れて歩き出す。
「さて、数が多いですねえ」
総数ではこちらが押しているが、あちらにはかなりの使い手の契約者が数人。そしてこちらには、アルコリアから見ればヒヨッコと呼んでもいいレベルの契約者も少なくない。
どこから切り込もうか、と見定めていると。
「てめえもいやがったか!」
声と共に、巨大な剣が降ってきた――梟雄剣ヴァルザドーンを操る、白津竜造だ。
アルコリアは素早くそれを回避したが、竜造は端からよけられることを想定していたのだろう。すかさずヴァルザドーンを地面から引き抜くと、軽々と取回して構えなおす。大剣をやすやすと操れるのは、金剛力のなせる業だ。
しかし、対するアルコリアもまた、全く同じ剣を取り出し、構えてみせる。こちらは鍛え上げた己の肉体のみの力だが、竜造に金剛力があってもまだ、その取り回しにはアルコリアの方が余裕が見える。
竜造の顔に、一筋の汗が落ちる。
「いくぜぇえええ!」
己を鼓舞するように気合の声を上げ、竜造は剣を振り上げた。
巨大な刀身を、己を中心にして円を描くように薙ぎ払う。
その攻撃力は生半可なものではない。
しかし、アルコリアは避けようともせず、全く同じ構えでヴァルザドーンを振るう。
ガギィィ、と重たい金属がぶつかる音がして、衝撃波が大気を振るわせる。
本来であれば周囲の敵をまとめてなぎ倒すほどの威力を秘めた一撃が、しかしまるでただのチャンバラのように繰り出される。
「なかなかやりますねぇ」
空恐ろしいほどの力で大剣をぶつけあいながら、しかし尚アルコリアには余裕がある。
竜造はぎり、と奥歯を噛み締めながら、得物をぐいと押して、その反動を利用して一旦引いた。
と。
突然空間が爆発した。
爆発は小規模で、それによる直接のダメージはない。しかし、体に軽いしびれを感じる。
「誰ですの!」
すかさず、ナコト・オールドワンが手にした天文博士の望遠鏡に光を灯す。
隠れているものを暴き出す力のある、その光が照らしだすと、光学モザイクと隠行の術を駆使して身を隠していた松岡徹雄が、その姿を暴かれる。
見つかっちまったか、と思いながら、徹雄は再び機晶爆弾を空中へ放つ。
しかしそれはナコトによって察知されていた。ナコトはアウィケンナの宝笏を振るうと、放たれた機晶爆弾をすかさず叩き落とす。
さらにそこへ、シーマ・スプレイグが突っ込んで来る。
ブースターを使った突撃は、相応の威力でもって徹雄の体を吹き飛ばす。
徹雄は急ぎ受け身の姿勢を取るが、その勢いの前にはひとたまりもなく床に転がる。
――今だよっ!
そこへ、光学迷彩を使って身を隠しているラズン・カプリッチオが、奇襲可能な道が開けたことを告げる。
アルコリアが、竜造を遠ざける。
シーマが、プロジェクターでアルコリアの幻影を空中に投影してみせる。
徹雄が態勢を立て直すが、ナコトが立ちふさがる。
「行け、アル! 奴を打ち倒せ!」
シーマの声が響く。アルコリアが駆ける。
身をひそめたままのラズンが、アクセルギアを起動する。
戦闘の輪を、抜けた――
と、思った、その時。
「行かせません」
床に落ちた影の中から、ぬぅ、と、一体の機晶姫が姿を現した。
ラズンがすかさず真空波を放つと、機晶姫の体が大きく傷つく。が、それでも彼女は止まらない。アルコリアの前に立ちふさがる。
アルコリアはためらいなく大剣を振るい、機晶石を破壊する。
しかしその一瞬あれば、竜造たちが追いついてくるには十分すぎた。
徹雄の放ったしびれ粉が、アルコリアたちの動きを鈍らせる。
「くっ……」
あと一歩だったのに、とアルコリアは舌打ちし、得物を再び握りしめる。
死闘は、まだ続く。
First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last