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リアクション
「ふむ……機晶姫か、礼を言おう……おかげでシグの戦闘データを収集できる」
ずらりと並ぶ機晶姫たちを前にして、銀星 七緒(ぎんせい・ななお)は表情の乏しい顔にしかし、ほのかな笑みを浮かべる。
「シグ、このままAタイプパーツの実戦テストだ……データ収集もな」
パートナーのシグルーン・メタファム(しぐるーん・めたふぁむ)に落ち着いて指示を出すと、七緒自身は得物の鞭を取り出す。
そして、黒の商人のもとへ向かおうとする、が、機晶姫たちに進路を阻まれる。
「行くぞ、シグ」
「は、はい……!」
本当は、臆病で争い事は好きではない。けれど、強くなることで仲間を守れるのなら、そのためにデータ収集が必要なのなら。シグルーンは、きっと瞳に決意を見せ、七緒の声に答え、戦闘態勢を取る。
「メタファー・ワン……行きまーす!」
叫ぶと、シグルーンはシールドを構える。そして、七緒の進路を塞ぐ機晶姫に向かって駆けだす。
敵の接近を感知した相手の機晶姫は素早く方向を変えてこちらへと向かってくる。
しかしシグルーンは焦らず、作戦通りに、頭部に装着した小型のバルカン砲でもって牽制射撃を行う。シグルーンのカメラアイとリンクしているため照準はとても正確だ。
そして、相手の足が止まった隙に、二基取付らえたブースターを全開にして突っ込んでいく。
敵機晶姫もまた、ビームライフルでこちらを狙ってくる。が、こちらの移動速度はヘリファルテ並み。そうそう当たるものでもない。
シールドに当たったのは数発。シールドが多少損傷するが、シグルーンは構わずそのまま突っ込んでいく。
ブースターのフル加速からのタックルは強烈で、食らった機晶姫はひとたまりもなく態勢を崩す。
しかしシグルーンは休むことなく、今度はライトブレードを取り出すと、一気に切り付けた。
相手の機晶姫はきれいに両断され、機能を停止する。
「まず、ひとつ……!」
撃墜数をカウントして、シグルーンは立ち上がる。そして同じ戦法で、二体、三体と機晶姫を撃破していく。
しかし。
「あっ……!」
四体目へ向かう最中、敵からのレーザー攻撃を受けたシールドがついに限界を迎えた。シグルーンは仕方なく、機晶エネルギーを放出するタイプのビームバズーカを放ち、その場を素早く離脱する。高エネルギーの武器によるヒットアンドアウェイだ。
シールドの耐久性に関するデータを内部のメモリに記録すると、シグルーンはバルカンとライフルを頼りに、ほかの人々の支援に徹する。
「行くよ……!」
若松 未散(わかまつ・みちる)は小声で合図した。
パートナーのハル・オールストローム(はる・おーるすとろーむ)と未散の二人は、それぞれ隠れ身、霧隠れの術を使ってアンリ救出に向かう手筈だ。
会津 サトミ(あいづ・さとみ)は、機晶姫に二人の存在が気づかれないよう、前を向いたまま頷く。
「絶対に、アンリを取り戻すんだ……!」
未散の声には固い決意が滲んでいる。口にはしないが、過去に姉を失ったことを思い出しているのだろう。
サトミは少し、複雑な気持ちで未散を見送った。
そして、身をひそめたまま走り出した未散とハルが機晶姫に気づかれないよう、レーザーナギナタを構えると素早くそれを振り回し、機晶姫たちに向かっていく。
ハルと未散はその隙をついて、立ちふさがる機晶姫の横をすり抜けた。
身を隠している効果もあり、二人は機晶姫たちの包囲網を抜けた、かに見えた。
しかし、包囲を抜けたところで数体の機晶姫が二人に気づき、ビームライフルによる射撃が二人を襲う。
「くっ……行ってください、未散くん」
すかさずハルが火之迦具土と名付けた小銃を取り出し、未散の前に立ちふさがった。
十分な威力のある火之迦具土を、機晶姫たちは警戒しているようだ。砲撃がそちらに集中する。
未散はコクリと頷いて走り出す。視線の先には、水源へ向かおうとしている黒の商人とアンリの姿を捉えている。
――あと少し、あと少しだ……
手を伸ばす。
だが。
ひょう、と空を割く音がして、機晶姫の一体が未散の前に立ちふさがる。
あ、と思う間もなく黒の商人の背中は見えなくなってしまう。
「お願い……どいて、どいてよっ!」
未散の顔に、焦りと絶望が浮かぶ。
――姉妹は、一緒にいなきゃだめなんだから!
声には出さずに叫ぶと、未散は機晶石を狙い、鎖鎌で死角からの攻撃を試みる。
けれど、焦りがあるからだろう。思うように攻撃が決められない。
「みっちゃん……」
その様子を遠くから眺めていたサトミは、ぽつりと未散の名を呼んだ。
やはり未散の中には、実の姉への想いが強く残っている。自分は、ただ姉妹ごっこを演じているだけに過ぎない。
未散にとって、自分は姉の代りでしかないのか――サトミの心に、重たいものが渦巻く。
それは、戦闘中に決してしてはいけないことだ。サトミの操るナギナタは、どんどん精彩を欠いていく。
そして、ついに。
「うわあああっ!」
機晶姫の放ったビームライフルが、サトミの肩を焼く。サトミはひとたまりもなく、得物を取り落してうずくまる。
「サトミン!」
その悲鳴に、未散が振り向く。
一度蹲ってしまえば、あとは集中攻撃を受けるばかりだ。戦いを重ねる中で身を守る術は体得しているので、致命傷には達しないが、少しずつ少しずつ、サトミの体力は削り取られていく。
もうだめか、と覚悟を決めたその時。
「サトミ!」
未散が、サトミを庇うように両手を広げ、立っていた。
機晶姫の放つライフルが、未散の体を掠めていく。無数の傷を作りながら、しかし未散はその場を動かない。
そこへ、ハルが落ち着いた射撃で機晶姫たちを機能停止に追い込む。しばらくの後、機晶姫たちは完全に沈黙した。
「みっちゃん……」
「サトミン……大丈夫?」
浅い息を繰り返しているサトミを抱き起こす。
「うん、何とか……」
するとサトミは、何とか自力で体を起こし、その場に座り直した。
しかしその顔には覇気がなく、目も伏し目がちだ。
未散はぐっと意を決して、サトミの手を取る。
「サトミン……ううん、サトミ、今まで誰かの代りなんてさせてて、ごめん」
なんとなく、サトミの不調も、その原因もは感じていたのだろう。未散はサトミの手を取ったまま、頭を下げた。
「私にとってサトミは、姉さんに似てるからとかに関係なく、大切な存在だよ」
「……ありがとう……」
改めてサトミの目を見てそう告げる未散の瞳は、心なしか潤んでいる。
サトミもまた、頬を紅潮させていた。
「僕も……これからは、未散を守る剣として生きる。もう、迷わない」
きっぱりと言い切ると、サトミは改めて未散の前に傅くと、その手の甲に、誓いの証として、唇を落とした。
姉妹ごっこは、もう、おしまい。
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