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黒の商人と代償の生贄

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黒の商人と代償の生贄

リアクション

「大丈夫、アンリはかならず、俺たちが助け出す……」
 かすかに震えている(少なからずアルコリアの脅迫の所為だ)様子のウイユにそう声をかけたのは、天城 瑠夏(あまぎ・るか)だ。
 瑠夏自身、過去に姉を事故で亡くしている。それが心に深い傷を落とした。――ウイユには、そんな思いをさせたくない。
 決意を瞳に込めて、瑠夏は機昌姫の群れに向かう。
「瑠夏くん……」
 そんな瑠夏の様子に、パートナーであるシェリー・バウムガルト(しぇりー・ばうむがると)は心配そうな顔を浮かべながら後に続いた。
「さ、そろそろ私たちの出番かしら」
「ええ、そうね」
 二人の後から、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の二人も進み出る。
「あ……あの……」
 さあ往かん、としているセレンフィリティとセレアナのふたりに、ウイユがおずおずと声をかける。
「どうかした?」
 セレンフィリティが振り向いて答える。ウイユはその服装をじっと見つめ、
「……さむく、ないですか……」
 どうしても気になったことを突っ込んだ。
 セレンフィリティが纏っているのは毎度おなじみ、ビキニの水着と髪をまとめているリボンのみ。今回は水辺での戦闘なので、向いているといえばまあ向いているかもしれない。が、その代りいろいろなものを犠牲にしている。羞恥心とか。
「これが、美しき女戦士の装束なのよ!」
 しかしセレンフィリティは微塵も気にすることはない。むしろ嬉しそうに胸を張る。
 ウイユは、はぁ、と納得いかないような微妙な顔を浮かべているが、セレンフィリティはセレアナと顔を見合わせて飛び出していく。
 先に飛び出していった瑠夏とシェリーは、数体の機昌姫を相手取って戦闘に入っている。
 前線に立っているのはシェリーだ。
 手にした天の刃を的確に振るって、機晶姫たちの持つ砲門を破壊していく。
 そこから少し離れたところから、瑠夏が闇術で機昌姫の視界を奪い、歴戦の魔術の光弾で攻撃を行う。
 水源が近いと思われるこの場所で、あまり派手に暴れてはヒュドラが気づいてしまうと判断しての配慮だ。
 ――周囲はあまりそんなこと気にせずに派手な戦闘を繰り広げているので、どれほど効果があるかは謎だが。
 歴戦の魔術の光弾が一体の機昌姫に命中する。
 動きを止めた機晶姫の、体の中心を抉るようにシェリーは短刀を振るう。ぱきん、と軽い手ごたえがして機晶石が割れ、機晶姫の一体が機能を停止した。
 瑠夏の手を汚したくないが為、シェリーは執拗に、自らの手で止めを刺していく。
 そこへ。
「よっ、と」
 セレンフィリティが、擲弾銃バルバロスから、ライトニングウェポンを使って帯電させた弾丸を放った。
 弾丸はシェリーが狙っていた機晶姫に命中する。ばぢ、と電気が走る音がして、次の瞬間機晶姫は爆発、四散する。
「そんな思いつめた目してると、付け入られるわよ」
 驚き咄嗟に振り向いたシェリーに向かい、セレンフィリティはウインク一つ。
「思うところはあっても、戦闘中は冷静に、ね」
 そう言うと、セレンフィリティは言葉通り躊躇いなく、擲弾銃バルバロスに火を噴かせる。
 次から次へとバルバロスから放たれる帯電した弾丸は、違いなく機晶姫の心臓部に突き刺さり、その機能を停止させていく。
 飄々とした態度とは裏腹に、その射撃は冷静で、そして冷徹だ。
 機晶姫は、少しずつその数を減らし始める。


「きゃー、いやー、ですぅー!」
 些かわざとらしい悲鳴を上げながら逃げ惑っているのはルーシェリア・クレセント(るーしぇりあ・くれせんと)だ。その後ろを追うのはパートナーのアルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)
 あまり水源に近いところで戦うのは得策とは言えない。ルーシェリアたちは、少しでも機昌姫を水源から引き離そうと、わざと仕掛け、負けそうなフリをして逃走している。
 案の定数体の機晶姫が釣れた。
 トマス・ファーニナルたちがしっかりと固めてくれた道を、少しばかり引き返す。足場は良好だ。
「もう、十分ですぅ」
 ある程度の広さが確保されていることを確認し、ルーシェリアは足を止めて振り向いた。
 と同時に一斉射撃を始める機晶姫たちに向かい、逆に突っ込んでいく。
 接近戦では、銃は使いにくい。特に機晶姫たちに搭載されているのは砲身の長いビームライフルだ。懐に飛び込んでしまえば封じることができる。
 ルーシェリアとアルトリアの二人は、並んで機晶姫の懐に飛び込む。
 至近距離まで肉薄すると、機晶姫たちは足に装着したブレードを取り出してくる。が、ルーシェリアはすかさずソードブレイカーを取り出す。刀背の部分が櫛状になっている左手用の短剣だが、今は右手で持つ。
 振り下ろされたブレードを、櫛状の刀背に引っ掛けると、くいっ、と捻り上げる。すると、ぱきん、と透き通った音がして、機晶姫の持つブレードが真っ二つに折れた。
 そしてすかさずそこへ、ライトブリンガーの一撃を叩き込む。
 至近距離からの一撃を受け、機晶石の割れる音がした。
 追撃がないことを確認し、ルーシェリアは次の一体も同じように仕留めに掛かる。
 一方のアルトリアもまた、相手の懐に飛び込むなり、ソードブレイカーを使って相手のブレードを封じると、金剛力を乗せたなぎ払いを放つ。本来は大剣を使うことで力を発揮する技なので、ソードブレイカーではその威力はいまいちだ。機能停止させるには至らない。
 が、相手の態勢が崩れたところに、すかさず煉獄斬で斬りかかる。炎をまとった短剣は、機晶姫に機能停止させるに十分な威力でその体を貫いた。
 見事な手腕で、ルーシェリアたちについてきた機晶姫三体はあっという間に沈黙した。