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黒の商人と代償の生贄

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黒の商人と代償の生贄

リアクション

●エピローグ

 さて。

 イコナ・ユア・クックブックが無事にヒュドラを封印し、水中に落ちた魔石は源鉄心が回収した。
 イコナの根回しによって教導団とは話がついているし、ヒュドラの封じられた魔石は鉄心があずかることとなった。
 アンリも無事に戻ってきた。
 ウイユに怪我もない。

 ただ。

 水源の洞窟は、割とめちゃめちゃだった。
 ヒュドラが居なくなったことで、少しずつ湖の水位が上がり始めている。ほどなく本来の水位を取り戻すと思われた、が。
「これ、このままだと氾濫するよね」
 土木工事係のトマス・ファーニナルが、戦いの終わった後の水源を見てつぶやいた。
 本来川が流れていたのであう部分には、水が削った自然の堤防ができている。
 しかし、ヒュドラとの戦いの影響は思ったより大きく、天然の堤は何か所か切れてしまっていた。みるみる水位は上がっていく。
「まずいですねぇ」
 魯粛がのんびりとした口調で言う。が、その額には冷や汗。
「と、とりあえずボクに任せて!」
 レキ・フォートアウフが、連れていたゴーレムを切れた堤の前に立たせる。それでひとまず一か所は、水があふれ出すことは防げそうだ。
「よ、よし、僕たちもできることをしよう」
 トマスとテノーリオ・メイベアは、握りしめた匠のシャベルでもって大急ぎで応急処置にあたる。
 その様子をあーだこーだと口の中で何事か呟きながら見ていたドクター・バベル(どくたー・ばべる)が、うむ、と納得したように腕を組んだ。
「やはり、こんな不安定な水源は看過しておけんな!」
 ばばん、と仁王立ちして大声で叫ぶドクターに、一同が注目する。
「考えてもみろ、今後このようなことが起こらぬとは限らんのだぞ。そのたびに契約者が助けてくれるわけでもない! 村の者たちが自衛できる仕組みを作るべきだ」
「それはもっともですが……どうやって……」
 アンリがおずおずと問いかける。
 するとドクターはにやりと笑って、自身の理論を散々披露した挙句、最後にこう結んだ。
「水源に支流をつくるのだ!」
「支流、ですか……?」
「そうだ! 今回も、一つ間違えば土石流が村を襲う可能性があったのだろう? それは流れが一本しかないからだ。水源の川が複数あれば、リスクは分散できる」
「け、けれど、そのような灌漑工事をする予算は、村には……」
「なぁに、働き手ならここに山ほどいるではないか。のう、水源をめちゃくちゃにしてくれた諸君?」
 ドクターの提案に、意義を唱える者はあんまりいなかった。

 ドクターが連れてきていた算術士と施工管理技士、それから土木工事に精通したテノーリオが素早く施工計画を立て、さっそく工事が始まった。
 水源の湖を滅茶苦茶にしてしまったのは事実だし、いずれにせよ村の将来が気にならないでもない。
 何人かはやってられるか、と離脱してしまったが、大半は残って工事を手伝った。
 契約者たちの力をもってすれば、灌漑工事などあっという間――というわけにもいかず、数日を要することにはなったが、それでも普通に工事をするより遥かに迅速に、水源の湖は整備され、新たな支流が作られた。
「ふん、これで次の論文が書けるな」
 工事が完成した後、ドクターは顔を少し赤く染めながらそう言った。
「この度は、本当にありがとうございました……皆さんのお蔭で、村は救われました」
 そんなドクターに、村長をはじめ、村の人々が深く頭を下げる。
「べ、別に論文の題材にこの村が適していただけだ! 村がどうなろうと知ったことじゃねえ、だから感謝とかすんな!」
 ほかの、工事に携わった契約者の面々は、いえいえとかなんのこれくらいとか、めいめい笑顔で答えているが、先頭に立たされたドクターは顔を真っ赤にして手を振る。
「俺はマッドなんだ、こんな真っ当なことして感謝されて喜ぶと思うなよーーー!」
 照れ隠しなのかなんなのか、ドクターは夕日の光る方へ向かって駆けだした。
 それを見送る皆の顔には、最高の笑顔が浮かんでいた。




おしまい。
 

担当マスターより

▼担当マスター

常葉ゆら

▼マスターコメント

ご参加いただいた皆様、またリアクションにおつきあいいただきました皆様、ありがとうございました。
水源は少し破壊されてしまったものの、アンリを取戻し、ヒュドラも封じることができました。

今回は、思い通りにいかなかったという方が多いかと思います。すみません。
特に、「アンリを助ける」部分にアクションが集中しました。
さらに、機晶姫と戦う・アンリを助ける・ヒュドラを倒す、がどの順序で起こるのかの想定が割合バラバラだったため、どうしても採用できないアクションも多く、申し訳ない思いでいっぱいです。ガイドにもう一工夫必要だったかも。
もろもろ判断の結果、今回はこのような判定とさせていただきました。

ところで、リアクション執筆中に胃腸炎に罹ってしまい二日ほど寝込む羽目になりました。
どうやら流行中の様子、皆様もどうぞお気をつけて。
……その関係で、個人メッセージが今回ちょっとそっけないのですが、お許しを。

いよいよ12月、クリスマスシーズンですね。次回はそんなシナリオが出る予定です。
よろしければまたおつきあいのほど、お願いいたします。