First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
Next Last
リアクション
■いざゆけ仕入れ、準備が大事
――業者捜索組とマスコット販売組が雑貨店を後にするのとほぼ同時期。雑貨店内ではエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が骸骨マスコットが無くなってがらんどうとしてしまっている店内の現状に対し、呆気に取られていた。
「聞いてはいたけど、本当に在庫ゼロ……信じられないよ」
倉庫も見てみるが並べれそうな物はほとんど無し。徹底的な仕入れ改革を起こすほかない状況下であるのは間違いなさそうだ。
「――というわけで、事前に通常業務を手伝ってくれる人たちからどんな物を仕入れてみたいか聞いてみたんだけど」
仕入れの中心人物として動くことになっている小暮 秀幸(こぐれ・ひでゆき)は、どうやら事前にアンケート形式でどんな物を仕入れてみたいか? というのを聞いていたようだ。その結果をまとめた資料を目に通す。
「ファンシーグッズや紅茶の茶葉、中高生向けファッション小物に喫茶スペース……うん、これだけの要素があれば計算もしやすい。方向性も定まっているし、これなら再建できる確率は60%を超えるかと」
ばらけると思っていた意見が思いのほかまとまっていたので、秀幸も少し安心しているようだ。ただ、その中で一人……冥土院 兵聞(めいどいん・へぶん)だけがその意見に異を唱えた。
「待て待て待てぃっ! そこの眼鏡、我輩が魂と何か熱いモノをたっぷり込めて書いた『冥土院流御奉仕術極意「逆転の発想」をたくさん盛り込んだ仕入れ企画書』を無視するとはどういうつもりだ! あれには店を「一味違う超個性派雑貨店」へ生まれ変わらせるためのあらゆるノウハウ、キモカワを征する者は大和魂を燃え上がらせる全てを盛り込んだというのに!」
「――兵聞殿のは、他のとはベクトルが違ってて計算に入れられなかった。でも、一コーナーという形で置いておけば意外な形でいけるかもしれないな……」
兵聞の異議を汲んでか、すぐに仕入れ予定表へ訂正の書き込みを入れる秀幸。その近くでは白雪 椿(しらゆき・つばき)がパートナーのネオスフィア・ガーネット(ねおすふぃあ・がーねっと)と共に資料の整理や細々とした雑用をこなしていた。
「白雪……あまり無理はするな、な?」
「大丈夫です、皆さんの足手まといにはなるわけにはいきませんので……」
椿は優しく微笑んでそう決意を告げると、すぐに他の雑務に移る。
……ネオスフィア自体は目立ちたがりのためかこのような裏方よりも呼び込みなどの目立つほうへ行きたかったりする。しかし方向音痴であることと――なにより、椿が心配な面もあり、離れるに離れられずにいるのが現状だ。
(白雪が力不足になりそうならば、手伝うしかないな。……しかし、もし呼び込みをやったとして白雪がいると悪目立ちしそうだ。かといって白雪に派手なパフォーマンスは……だがマスコットとしてなら……ううむ)
頭の中で色々とめぐらせながら、ネオスフィアは椿の後を付いていく。まだしばらく、彼の思案は続きそうである。
そしてそれを尻目に、兵聞は意気揚々と色々なPOP案を考えているのであった……。
「『ホネまで愛して(はぁと)』、『熱烈御奉仕メイドのオススメ☆』……うん、これは絶対売れるPOPになる! 他にはえーっと……」
……なんか、ダメそうな匂いがプンプンとしているのは気のせいではないのかもしれない……。
エースや椿、そして『財産管理』による樹月 刀真(きづき・とうま)の助力もあり、仕入れ等のメドがついた秀幸。さっそく仕入れ担当はそれぞれに分かれて各問屋へ仕入れをしにいくことになったのだが……。
「やっぱり骸骨マスコットでの支出が痛いな……なるべく安く、多く仕入れるようにしないとまずいぞ」
刀真が言うには、帳簿から算出された仕入れに使える金額はそこまでないらしい。そのためいかに安く買い、多く仕入れるかがポイントになりそうだ。
漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)と封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)の二人がそれぞれ頼んだ『ヌイグルミや人形などのファンシーグッズ』と『紅茶の茶葉』は刀真が担当することに。秀幸も付いていき、効率的な計算の面から安く仕入れることに成功したようだ。
ファンシーグッズの仕入れにはエースとそのパートナー、エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)も同行しており、こちらも秀幸の協力や『根回し』『財産管理』『博識』『トレジャーセンス』を駆使し、『中高生向けのファッション小物』を安く多く仕入れていく。特に回転率が高くなると予想される、バッグや携帯や髪につけるタイプのアクセサリーを中心に商品の仕入れをおこなった。
「何がダメだったんだろうな……俺は別に接客でも大丈夫だと思うんだが」
「うーん……聞いてる限りだと、言葉が硬かったからだと思うけど。やっぱりその辺りは柔らかさが重要になるから、適材適所に合わせたほうが成功確率は上がると思う」
「そういうものか……ううむ」
仕入れの荷物はかなり多くなるため、『金剛力』を使って大量の荷物を持つ刀真と、セリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)に接客が硬いとダメだしされ、秀幸と共に仕入れへ来ていたクローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)のエアカーによる運搬を中心に運んでいる最中である。その途中、なぜ接客がダメだったのかを友人である秀幸にボヤくクローラ。秀幸は横でダメだしの様子を見ていたらしく、それなりのアドバイスをしているようだった。
ともあれ、仕入れ品を自ら搬送することで経費の削減をし、クローラも選出を手伝った問屋を回って安く多く仕入れることでさらなる経費削減を狙っていた。
仕入れ品を店の前まで搬送すると、店先で待ち構えていたギャドル・アベロン(ぎゃどる・あべろん)がすぐに倉庫へ運び入れる。黙々と大量の荷物を運んでいるのは、あまり女性や子供と話すことはないため……らしい。いかつい顔ながらも黙って作業する様は、堅気な職人を思わせる。
倉庫に運ばれた仕入れ品は奥で控えていたルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)と、クローラに残りの仕入れ品搬送をお願いし、倉庫業務に回った刀真が仕分けして倉庫に収めていく。店内清掃にも行きたいと思っていた刀真であるが、接客担当に当たる人たちが大勢でやっているようなので、今はこちらの作業に集中していたほうがいい、と判断したようだ。
どうやらルファンはバイト自体が初めてらしく、刀真から簡単な流れを教わりながら、自分なりにしっかり頑張っていた。その真面目さは傍から見てもわかるだろう。
――そんなこんなで、慣れないとはいえきびきびとした動きでの仕入れは昼を回る前に何とか終わらせることができたのであった。
「お疲れ様、お昼作ったから皆さんどうぞー」
お昼休みとなり、セリオスがクローラや秀幸たちにおにぎりとお茶の差し入れを作って振舞っている。おにぎりの中身は梅干し、牛時雨煮、ツナマヨと種類豊富であり、その味も全員から好評のようだ。
「クローラもお疲れ様。これ、販促企画をまとめた奴だよ」
セリオスはパソコンの前で作業中のクローラに、マスコット販売班や通常業務班から事前に聞いておいた販促内容をまとめた資料とおにぎりとお茶を渡した。どうやら、この販促内容をイベント情報という形で各学校サーバーの掲示板や、タウン情報のHPに『根回し』を使って掲載依頼を出すつもりのようだ。
「お、ありがとう。――小暮、こういう活動もたまにはいいな」
「そうだね。自分もそう思うよ」
クローラはキーボードで入力を続けながら、秀幸と会話を進める。一通りの配膳を終えたのか、セリオスもその輪に加わり、正月はどう過ごしたかの話などで盛り上がっていった。
「そうだ、よかったら帰りにでも俺の家に寄るか? おせちと雑煮くらいなら出せるぞ」
と、笑いかけながら誘うクローラに、秀幸はにこりと応じた。
「お茶のおかわりいる方は言ってくださいね」
椿もセリオスの手伝いをしているようであり、しっかりと皆の役に立っているようだ。
(うーん……どうしたものか、白雪をマスコットとして扱うわけにも……)
……ネオスフィアは、いまだに悶々としているみたいではあるが。
――このお昼休みが終わったらすぐにでも開店となる。忙しくなるであろうその時まで、通常業務を手伝う人たちのひと時の休息は続いていく……。
First Previous |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
Next Last