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リアクション
■骸骨マスコット販売道 〜中編〜
――空京内を駆ける軍用バイク。そこにはサイドカー側に乗って目的地を指示するディンス・マーケット(でぃんす・まーけっと)と、そのパートナーであり実際に軍用バイクを運転しているトゥーラ・イチバ(とぅーら・いちば)がいた。
ディンスの背には骸骨マスコットをリュックに詰めており、銃型HCで検索しヒットした、ホラーなどを扱うイベント企画会社やゴシック系やパンク系バンドが所属している事務所に向かい、それを売り込もうという魂胆のようだ。
「――この企画を持ち込めば、きっと爆売れシマス。そしたら大量注文が殺到シテ……」
「あの……確かに商品を売るというのは大事ですが、骸骨の代わりにされてしまうぬいぐるみが哀れです……」
――ディンスの持ち込もうとしている企画とは、骸骨マスコットを入場チケット代わりにしてみないか? というもの。回数券式にし、一回使うごとに手足を取るなり、赤い絵の具を手足に塗るなりして使用回数をわかりやすくできる、という利点を用いるらしい。雰囲気も出るから話題性も高い、と説明もするつもりのようだ。
だがボロボロになっていくという悲運を背負わされるかもしれないマスコットに情が移ったらしいトゥーラは、積極的に賛同できない。売り込みという販売形態に挑戦しようとするディンスの心意気は買っているのだが……。
「大丈夫ヨ、この子達もきっと役に立てることに誇りを持つハズ――着いたみたいですネ」
どうやら、目的地の雑居ビルに到着したようだ。ここからはディンス一人で売り込みにいくつもりらしい。
「ここからが本番です。君のやりたいようにやってみて、助けが必要なら言ってください」
トゥーラの言葉に頷くと、ディンスは身なりを整えて雑居ビルの中へと入っていった。
「――運が味方してくれますように……ノミノバザール・スークアゴラ!」
懐からお守りと環菜の生写真を取り出し、商売の成功を祈るトゥーラ。はたして、どうなることか……。
――結果から言うと、最後に立ち寄った一社が少しだけ購入してくれただけだった。やはり、チケットにするという形は難しいらしく、しかも元々の出所が悪徳業者による一品物ということもあり数も少なく、正規の問屋を押さえられない以上、長期的な運用を見込めない……というのが大部分での検討結果のようだ。
「お疲れ様でした……でも、よかったでしたね。最後の会社が買ってくれて」
「そうですネ……」
思ったより商売は難しい。そう痛感したディンスであったが、最後の一社(個人でお化け屋敷を経営している小さなカフェ)で少しだけなら扱ってもいいと言われ、利益には少し遠いものの在庫の一部を買ってくれたことに、感謝の気持ちで一杯だった。
「君もお疲れ様、後で洗って包帯を巻いてあげますね」
トゥーラは、デモンストレーションとして手足を赤く塗られたりちょん切られていたりした一体の骸骨マスコットを手にすると、そう優しく告げて――雑貨店へ向け、軍用バイクを走らせるのであった。
――空京のとある大通り。ここでは佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)と真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)、そしてシエル・リメイカー(しえる・りめいかー)とシオン・トレーダー(しおん・とれーだー)の四人が露店行商に挑んでいた。
問題はやはり骸骨マスコットの不気味さである。シオンは商品を見るなり、かなり難色そうな表情を浮かべている。同じトレーダーである真名美とも色々考えた結果、少しアレンジして売ってみたらどうだろうという意見でまとめたようだ。さっそくシオンはシエルを呼んで、相談の結果を伝える。
「人形用の服? んー……確かにこのままだとあれだけど、一工夫すればなんとか……よし、乗ったわ! 再製屋の腕の見せ所、というわけでみんな。ボロ切れや布を手に入れてきてくれないかしら? 技術や道具はここにあるけど、素材は見つけてこないとね!」
……というわけで、アレンジ担当であるシエルの指示で、三人は布やボロ切れを集めてくることに。幸い、すぐ近くに布屋があったため布の切れ端などを比較的簡単に確保できたようだ。シエルは素材を渡されると、すぐさま作業に移る。再製屋という名に恥じない作業の様子は見事なもので、次々と様々なアレンジのされた骸骨マスコットが完成していった。
真名美とシオンはシエルの作業を並行させる形で、アレンジされたマスコットを机を並べ、一つ1100Gにて販売を開始……したのだが。
やはりその不気味さがネックなのか、なかなかお客さんが立ち止まってくれない。何とか注意を引こうと真名美たちは頑張るしかなかった。
(商人は物じゃなくて心を売るもの――絶対に、頑張る!)
……話を聞き、悪徳業者を許せないと思っていた出発当初。弥十郎から「なぁ、真奈美。商人というのは物じゃなくて心を売るんだよね」という一言を聞き、商魂に火がついた。そのため、たとえ売れなくても心は腐らせてはいけない……と、心から笑顔を浮かべて商売に挑んでいる。シオンにもその心意気が伝わっているらしく、同じように心からの笑みで声かけを行なっていた。
そのかいがあったのか……ついに足を止めて骸骨マスコットを見るお客さんが。弥十郎は商品説明をすると同時に、『コールドリーディング』による話術テクニックで語り始めた。
その語りは骸骨が不気味ながらも素敵なのか、それは隠すものがないから……というところから始め、口説き文句に近い見事な話術でお客さんの気持ちを骸骨マスコットに向けさせていく。
「――見つけてください、素敵なあなたを。そして、大事にしてください、素直なあなたを……」
そう説明を締める弥十郎。そして……お客さんは流れるような動きで骸骨マスコットを購入した。
「お買い上げ、ありがとうございます!!」
「あ、ありがとうございます!」
真名美が満面の笑みで感謝の意を述べると、釣られるようにシオンも心からの笑みを浮かべてお礼を続ける。
……そして、弥十郎の話術が周囲の人たちの耳にも入ったのか、知らぬ間に小さな列ができていたのだった。
――ここは、空京でも珍しいオタク商業が発展した通り。そこで販売に挑んでいるのは姫宮 みこと(ひめみや・みこと)と早乙女 蘭丸(さおとめ・らんまる)の二人だ。どうやら、かなりの盛況を誇っているようである。
「さぁこのマスコット、一個購入でもれなくこのあたし、早乙女 蘭丸かこちらの姫宮 みことのコスプレ写真が一枚付きます! さらに五個購入であたしかみことと握手! さらにさらに二十個同時購入であたしかみことがほっぺにチュー! そして――同時に百個購入してくださった方にはなんと! あたしかみこととの『一日デート権』をオマケに付けちゃいます!」
……一気にボルテージの上がる周囲のオタクたち。不気味なマスコットを買うだけで、こんな可愛い子たちが色々とサービスしてもらえるというのだから盛り上がらないほうがおかしい。
「は、はい! こちら一つ1260Gですから……」
ごっそりと複数購入するオタクたちに、みことはおたおたとしながらも、仕事と何とか思い込むようにしつつ、コスプレ写真を渡したり(これはしごとなんだ……)握手をしたり(しごとしごと……)ほっぺにチューをしたり(しごとしごとしごと……)……と思い込みを続けるも、恥ずかしさは溜まる一方である。
「ふぇっ!? 百個お買い上げ……ですか? あ、ありがとうございます……では、こちらは特典の『一日デート権』になります……」
ついには百個購入のお客さんまで出てくる始末。特典である『一日デート権』を手渡すみことの表情は、売られていく仔牛のような雰囲気だった。
……他のチームより多めに在庫を持ってきたにも関わらず、見事完売。みことと蘭丸、それぞれで一つ限定だった『一日デート権』も消化できたのは、さすがオタクの購買力というべきである……。
――この日、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)は『宣伝広告』や『根回し』を駆使して東奔西走していた。同じ商人仲間として、手を貸すのはやぶさかではなく、この骸骨マスコットの宣伝活動によってできるかもしれないコネクションや経験は、後々のパラミタ横断鉄道事業を進める上で、必要なものになるだろう。
(そのためにも、しっかり宣伝をこなして――夜までにはホテルに戻らないと!)
……新婚は、忙しいのである。
そんなわけか、一人で全てを宣伝しきれるわけもないので、陽太はパートナーの一人であるノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)にも宣伝の依頼をすることにした。
「宣伝するの? よくわからないけどわかった、頑張ってみるよ!」
陽太は事前に月島 悠(つきしま・ゆう)と麻上 翼(まがみ・つばさ)の二人とも協力し、その案である魔除け厄除け方向での宣伝・販売をすることにしたようだ。その旨や悠と翼もノーンの手伝いをしてくれることを伝えていく。ノーンへ全てを伝え終わると携帯電話を切り、すぐさま骸骨マスコットの通信販売が行なえるよう、パソコンを立ち上げるのであった。
――ノーンたちに用意された宣伝、及び販売場所は様々な広告媒体だった。TVやネットはもちろん、紙面や特設ミニライブなど……。なんというか、あきらかに過剰広告のような気がしないでもない。
「――わたし、みんなが楽しくなれるように歌ってあげることくらいしか『お返し』ができないけど……手伝ってくれると嬉しいな! このマスコット、“まよけ”の効果があるそーだよ! だからみんな、よかったら買ってみてね!」
特設ミニライブでは、『ファンの集い』で集まったファンたちへ『幸せの歌』を歌い、『震える魂』『熱狂』『名声』でアピール。その声援はまるで怒号と勘違いしそうである。
「なんだか、すごいことになっちゃったね……」
『乙女モード』にて、魔除けの札付き骸骨マスコット販売に携わっている悠は思わず驚いてしまう。翼も同様らしく、頷きながらお客さんの呼び込みを行なっている。
だがこれだけの大々的な宣伝でも、骸骨マスコットの不気味さでかなり相殺されてしまうらしい。だが売り上げはそこそこのようで、多大な宣伝が他のチームへの大きな支援にもなったようである。
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