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リアクション
■骸骨マスコット販売道 〜前編〜
――時を戻し、業者捜索組が出発したその直後のこと。
「疫病神、ね……」
骸骨マスコット販売組として行商に出るつもりでいた雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)は、不気味としか形容できない、ぬいぐるみに近い何かを一つつまみ上げ、じーっと見る。
……一族郎党に付けられた自らの異名と同じ異名(もっとも、呼び方は違うが)を持つ骸骨マスコットに、どこか思う部分もあるのだろう。何か一つ決意すると、リアカーにたんまりと数百個分積まれたマスコットたちへ、つまみ上げた物を戻していく。
(にしても、マスコットに祈ってくれだの、色々アドバイスやらなんやらもらっちゃったけど……役に立つのかしら?)
先ほど、店内清掃のほうで準備をしていた月夜が骸骨マスコット用の執事服数十着を、同じく北都からは「そのマスコットの不気味さを逆手にとってみるといいんじゃないかなぁ」というアドバイスをもらっていた。確かに骸骨マスコットに執事服を着せれば、不気味さはほんの少しだけ緩和できている……ような気がするし、北都のアドバイスも十分参考できるものだ。
そしてさらに、想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)に「雅羅さん、自身の災難がこのマスコットに移るようがっつり祈って欲しいんだ」と言われたり、なにやら珍妙なシチュエーションでの撮影をお願いされたりした。最初は訝しげだったものの、売るための準備と押し通されると……意外にも、なんかノリノリでやってたようだ。夢悠はその準備を終わらせると、リアカーを引いてどこかへ行商にいったようである。
「――きっと、なんとかなるわ。なんとかしなきゃ!」
そんなことを思い出しながら、勇ましく決意を改めると、雅羅と共に行くという御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)とバーバラキア・ロックブーケ(ばーばらきあ・ろっくぶーけ)、杜守 柚(ともり・ゆず)と杜守 三月(ともり・みつき)、そして四谷 大助(しや・だいすけ)とルシオン・エトランシュ(るしおん・えとらんしゅ)の六人という大所帯と一緒に、人が多く訪れる空京広場を目指し移動することになった。
その道中、千代が自身の考えた販売計画を説明する。ちょうど自分の考えていた計画とかなりの親和性があると踏んだルシオンは、その計画とうまく絡み合わせれないかと相談を持ちかけていった。
大助は思いつかなかったらしくルシオン任せ、「出かけましょう」とだけ言われてここまで付いてきたバーバラキアはここで初めて計画を聞かされて唖然としている。柚と三月にも役割を与えられ、雅羅のために頑張れると気合を入れ直していた。
果たして、千代が語ったその計画とは何か――待て、次回。
「それじゃあ、俺はこっちのほうを手伝ってくるから……後は任せたぞ」
店主は南天 葛(なんてん・かずら)と、そのパートナーであるダイア・セレスタイト(だいあ・せれすたいと)とヴァルベリト・オブシディアン(う゛ぁるべりと・おびしでぃあん)の計三人と一緒にとある山岳地方にある村へ行商しにいくことにしたようだ。
というのも、その村では龍や龍騎士、そしてスパルトイの人気があるということで、葛たちはそこへ行商に出ると聞き、新しい商売の鍵になるのでは? と店主は思って同行することにしたらしい。
また、捜索班の情報まとめ役として抜擢されているリカインも、確保情報をすぐ店主に伝えられるとのことで、店主と共に行動することに。そんなわけで合計で五人となった小さな行商団は山岳村に向けて空での移動(葛はレッサーフォトンドラゴンの白滝に、ヴァルベリトはレッサーワイバーン、他の三人と荷物はダイアの小型飛空挺アルバトロスに乗っている)を開始した。
他の人たちも準備を整えると、それぞれの売り場(と書いて戦場と読む)へと向かい始める。全ては店主の手助けをするために……骸骨マスコットを、売り捌くために!
――夕方、空京とヒラニプラを繋ぐ鉄道の入口である駅。その駅前で、リアカーに積んだ骸骨マスコットを売ろうとしていたのは遠野 歌菜(とおの・かな)と月崎 羽純(つきざき・はすみ)の二人。羽純はある物を付属された骸骨マスコットを見て、とある疑問を抱いていた。
「……こんな不気味としかいえない物が恋の御守りとして成立するのか?」
ある物、とは歌菜考案の『恋占いおみくじ』なるもの。骸骨マスコットを恋の応援マスコットとし、売ってしまおうという計画である。なお、恋占いおみくじ自体にはそれほどコストはかかっていないようだ。
「は〜い、皆さん注目〜!!」
売れるのだろうか……という、そんな羽純の不安をよそに、歌菜は大きな声で駅前にいる人々を呼び止める。特にこの時間は学生が多いようで、なんだなんだと興味を持って人が集まってきた。
今がチャンスと見計らったか、歌菜はさらに人を集めるために『変身!』をした。輝く光に包まれ、そこから出てきたのは……。
「恋の夢・愛の希望を振り撒く魔法少女アイドル、マジカル☆カナです! 今日は皆さんの恋の助力に参上しました!」
……リリカルな魔法少女コスチュームを身に纏った魔法少女・マジカル☆カナだ。周囲の人だかりの一部から「おお〜っ」と声が上がる。
「今日持ってきたのは、この恋のマスコット! このマスコットはちょっと……というか結構怖いんですけど、あなたの恋を助けるマスコットで、一体一体手作りなんですよ」
まるでテレビ通販のような感覚で、商品である骸骨マスコット(恋占いおみくじ付き)を紹介する歌菜。ただの露店、と知ると何人かは人だかりから離れ、マスコットの不気味さを見て離れる人が数人。……なるほど、これは難しそうだと営業スマイル中の羽純は思った。
「気になったコはぜひ手に取ってみてください。波長が合えば、そのコがあなたのために応援する、たった一つのマスコットですよ♪ 私もこのマスコットのおかげで、こちらの羽純くんと結婚することができました!」
……思わず営業スマイルが崩れそうになるほど、羽純はずっこけそうになった。何とか我慢してスマイルは崩さずにすんだが。
「お、おい……そのマスコットのおかげで俺と結ばれたとか大う――むぐっ」
ツッコミをいれようとした羽純の口を、歌菜がすぐに手で塞ぐ。その速さ、かなりのものである。
「と、とにかく! このマスコットには現在の恋の行方と、これからの助言が付いています。このコを身に付けて助言に従えば、この恋――あなたの勝利です♪」
と、気を取り直して説明し、最後に決めポーズを決めて商品説明の締めとした。お値段も手頃さと、ちゃんと利益が出るくらいのバランスの取れた額での提供となる。
――これからの時期、恋の一大イベントがあるからだろうか……女学生を中心に結構売れている様子。骸骨マスコットの不気味さも、恋する乙女の力にかかればものともないらしい。
結果、少しの売れ残りはあるものの、数百個のほとんどを売ったようだ。思わぬ結果に羽純も驚きを隠せずにいる。
「ここまで売れるとはな……しかし、んな適当でいいのか?」
雑貨店への帰り際、リアカーを引く羽純がそう尋ねる。その横を歩く歌菜は、羽純に寄り添いながら返答していった。
「――占いとかお守りってね、女の子にとっては『信じるもの』じゃなくて、『道標』なんだよ。良い結果なら気分良く頑張れるし、悪い結果ならそれを覆そうと頑張ることができる、一つの可能性を見るための魔法の道標なんだから」
……羽純はそんな歌菜の言葉に、納得するしかなかった。恋する乙女は、本当に強いものである……。
――空京広場では、雅羅と柚、そして三月の三人が通りかかり、そこで行商をしようという話をしていた。
「この執事服、可愛いですね。これならこう髪形も変えて、チークをつけた感じにして、キモカワ風にしてみるのはどうでしょう? あ、海賊の服も似合いそうです!」
「魔除けという形で売ってみるといいんじゃないかな。この髑髏柄のTシャツと一緒に売ってみるとか」
「そうね……せっかくだし両方の方法で売ってみようかしら」
やいのやいのとどう売ろうか相談していたその時――近くの植え込みの裏から悪の女幹部の衣装を身に纏った千代が姿を現した!
「そこの三人! 我らヒミツ結社に無断で空京広場で行商するなんて、いい度胸じゃないのさ!」
……もちろん、事前に広場の管理会社から行商許可をもらっているし、ここに来るまでの道中で雅羅たちに説明は済ませてある。
とにかく派手に、大きな声で演技を始めたことにより、広場にいる人たちが何事かと注目しだす。それを見計らい、雅羅たちも演技を開始する。
「きゃーっ! こ、このままじゃ悪の女幹部にやられて、ここで行商できないわ!」
「だ、誰かー助けてー!」
……それにしてもこの雅羅たち、ノリノリである。そして雅羅は、うまい具合に一度植え込みの裏に隠れるように後ずさっていった。
「待てぇッ!」
その時である。反対側の茂みから、髑髏ペイントをあしらったフルフェイスに黒のライダースーツに、白のラインでペイントした簡易骸骨ボディという、骸骨マスコットに似せた出で立ちで登場したのは――!
「これ以上の悪事、許すまじッ! 悪の女幹部ッ! 空京の平和を乱す奴はこのパンキッシュヒーロー『骸骨仮面』が成敗してくれるッ!」
……お気づきの人も多いだろうが、これは俗に言う『ヒーローショー』というものである。千代の考えた計画とは、約十年近く前から再燃しているヒーロー人気にあやかろうと、骸骨マスコットをヒーロー物として扱うというものだった。そして、そう扱わせるためにド派手にやっているのがこのヒーローショーであった。
(この行き所のない気持ち……全部あの「悪の女幹部」に叩きつけてやる!)
ちなみに、この骸骨仮面の中身はバーバラキアである。そのバーバラキア……いや、骸骨仮面は必殺『ドクロヤイバー』(バーバラキアの光条兵器である「必中の光刃」。人や布類は斬らないよう設定済み)を取り出して構えると、悪の女幹部が意気揚々と喋りだす。
「はんっ、またあんたかい! 今日こそは息の根を止めさせてもらうわよ! 出でよ、デスおくん、デスこちゃん!」
その号令に合わせ植え込み裏から、さらに二体の着ぐるみが勢いよく飛び出す。シルクハットにタキシード姿がデスおくん、血濡れの赤いリボンに赤ワンピース姿がデスこちゃんである。
(『デスおくん』と『デスこちゃん』は不吉さが特徴ッス! 大さんと雅羅さんの薄幸コンビなら絶対イケるッス! 頑張れッスよー!)
(くっそ、ルシオンのヤツ好き勝手言いやがって……誰が薄幸コンビだ、誰が。絶対面白がってやってるに違いないだろ……)
(さすがにちょっと恥ずかしいけど、あれを売るためだしやるしかないわね……!)
茂みの中から、応援するルシオン。ルシオンは元々、大助の着ているデスおくんと雅羅が着込んでいるデスこちゃんの着ぐるみを使って骸骨マスコットを販売する予定だった。しかしそこへ千代のヒーローショー計画を聞いてうまく組み込めないかと話を持ちかけ、今に至るわけである。
大助自身はルシオンの着ぐるみ案に難色を示していたが、雅羅がいる手前断るわけにもいかない。そんなわけで、大助は雅羅と共に着ぐるみを着てヒーローショーに参加している。
――そうこうしている内に、ヒーローショーは佳境を迎えていた。周りの目を釘付けにするため手抜きはできず、ド派手な動きで骸骨仮面はデスおくんとデスこちゃんを退け(まだ後で使うのでその辺り注意しつつ)、悪の女幹部にも最後の一撃を繰り出していった!
「うわあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
そのまま植え込みの裏へ吹っ飛ばされる悪の女幹部こと千代。すぐにルシオンの手伝いのもと早着替えをする。ちょうど舞台(広場の広いところ)では骸骨仮面が決めポーズを決めてショーを締めているところだった。
「にひひっ、不吉な骸骨をちょちょいっと追加して……はいっ、デスおくんVer1.1の完成ッス♪ さ、ここからが薄幸着ぐるみコンビの真骨頂ッスよー!」
「何が真骨頂だ……って、おいルシオン。今隠したカメラ出せ」
「な、何のことッスかー?」
……この後、ルシオンの隠したカメラは没収されたとか。
この後は骸骨仮面の握手会を兼ねた骸骨マスコットの販売会がある。大助と雅羅の着ぐるみ組や、進行役の千代、販売役の柚と三月、マスコット用の服を量産するルシオン……と、全員に役割は振られているため、気は抜けない。
「雅羅、こうなったらとことん頑張っていこう。それこそ、全部売り切るくらいに!」
「――もちろんっ!」
ルシオン以外には温厚な口調で話す大助が、雅羅と共に気合を入れ直す。そして、販売会は始まり……不気味さを打ち消すほどのド派手なアクションとキモカワが受けたのか、様々な衣装やデスおくんやデスこちゃん風に改良されたマスコット、三月案のTシャツとのセット販売、柚や大助が考案したマスコット入り福袋が飛ぶように売れていった。
結果、こちらもかなりの利益を出す形でほぼ完売という文句なしの売り上げをたたき出したのであった。
――ここはパラ実の生徒がわざわざきてたむろしている、空京奥のパラ実裏路地分校(という名の、ただの裏路地)。このような治安の悪そうな場所に、パーカーのフードを被りサングラスをかけマスクをした、とてつもなく怪しい格好の夢悠が行商にやってきた。無論、こんな怪しいやつをほっとくわけないとパラ実生徒がぐるりと囲んでしまう。
「おぅおぅおぅ、こんな所に何のようじゃワレ。ここがパラ実の分校と知ってんのか、あぁ!?」
パラ実生徒の恫喝にも動じず、マスクの奥に隠された唇を上向きにして夢悠は……商売を始めた。
「――ぐるりと囲むヒャッハいお兄さん方、良い物あるよ」
「あぁん!?」
「……このマスコットなんだけどね、なんとあの雅羅・サンダース三世から生で搾り出した“災難”を込めた『カラミティ髑髏』ってんだ。これさえあれば「俺に近づくと怪我するぜ!」がマジで言える! そこの平凡モヒカンも陰のあるマジでパネェ大物に変身間違いなし! この退屈しない暗黒でノワールな人生の特急券を、今なら通常価格10000Gのところ……災難特価3000Gでどうだ!」
畳みかけるようにして売り口上を述べる夢悠。雅羅の災難具合はパラ実にまで響いているらしく、思わぬ行商にざわつき始めた。
「おっと、無理やり奪おうと思わないほうがいいぜ。天下のパラ実生が金を払う代償もなしに格を上げようなんざ、根性無しもいいところ! 男を見せるなら今しかないぜ!」
と、無理やり奪おうと考えているパラ実生へ釘を刺しておきながら、夢悠は雅羅に頼み込んで撮影させてもらった『生絞り現場』をパラ実生たちに見せていく。出発前に撮影した珍妙なシチュエーションは、これのためだったらしい……。
だが、これのおかげでより信憑性が増したのか、すぐにパラ実生たちは食いついた。これはちょろい、かなりちょろい。
そんなちょろい商売(?)のおかげか、夢悠はかなりの利益を上げたのであった……。
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