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花屋の一念発起

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花屋の一念発起

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「メシエ、お前は何て酷い事を言うんだ」

 エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は隣に立つメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある) に怒っていた。
 その理由は、エースがあれこれ考えている時にメシエがうっかり呟いた言葉だった。

「今回は、品種改良に失敗した不良品処理なのだろう、要するに。期待された性能を出せない失敗作など焼却処分で良いと思うのだが」

 呟いた本人はエースの大反対にため息を洩らしていた。

 そもそも二人がいるのは一面が花だらけになってしまった店内だった。他のみんなはそれぞれ不満を口にする花を手に事務室に行ってしまったが、彼らはまだ残っていた。

 なぜなら、

『痛い、痛い、痛い、ちぎれるーーーーーー』

 悲鳴にも聞こえる金切り声が原因だった。

 壁に張り付いた増殖する花から伸びた蔦が不満を口にする花の付け根に巻き付き、宙づり状態になってしまっているのだ。花を女性と同じく大切に思うエースは放っておけず、残っていたのだ。

「好きで品種改良に失敗した訳じゃないだろう。それに生まれた彼女達には何の罪も無い事じゃないか。植物だって生物。意志も感情もある。ちゃんと彼女達を尊重してあげなきゃ駄目だぜ」
 エースはつらつらと花を愛する気持ちを言葉にしていく。

「とにかく、彼女を助け出すことが俺達のやるべきことだ。あんな苦しそうな声聞いてられないだろう」
 エースは視線を不満を口にする花に向けた。よく響くはずの金切り声は蔦に絡まれて元気がない。

「それなら、良い救出作戦を聞かせてもらいたのだが」
 メシエは、エースが花に並ならぬ愛情を注いでいることを知っているので折れることにした。

「……そうだな」
 再び熟考を始めた。増殖する花も傷付けずどうやって不満を口にする花を助けるのか。少しばかり難題だ。燃やせば解決は一瞬なのだが。

「……よく見れば、一面花だらけでは無いんだな」
 協力を決めたメシエは、店内を見渡した。何か見過ごしていることはないかと。
 すると少しずつ見えてきた。
 増殖する花、全てが元気に咲き誇っている訳ではないこと。どのように増殖するのか。

「彼女達を傷つけない方法を何か思いついたのか?」
 店内を注意深く観察しているメシエに訊ねた。

「咲いている花は枯れかけている花と違って常に大量の花粉を床に撒き散らしている。蔦も盛りの花の方が元気だ」

 メシエは目で増殖する花を追いながら観察結果を話した。元気に咲いている花は蔦も暴れまくり、花粉を大量に飛ばす。その花粉が床に着地して花を咲かせる。枯れかけの花は全くの逆だ。蔦の動きも鈍く、飛ばす花粉の量も無いに等しい。

「それが増殖の理由か」
 エースも増殖する花を確認して納得した。

「……栄養剤か何か生長を促進する薬で急激に生長させれば、望み通りあの花を助けることが出来るかもしれないが、普通の薬では劇的な効果は望めないだろう」

 観察結果から得た最良の作戦を思いついた。焼却処分が却下なら薬を使えばいい。『薬学』を持つメシエにはすぐにどのような薬を使えばいいのか見当はついていたが、この花屋の倉庫には無いことも分かっていた。普通の栄養剤よりも強力な物が一般的な花屋にあるとは考えられないため。実際に彼の言う通りではあった。

 そんなことを考えている時、店内の隅で床にへばりついている枯れている増殖する花から花粉を回収しているダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)を発見した。

「……品種改良ならば、何か持っているかもしれない」
 メシエはダリルに薬のことを訊ねに行った。

「……しかし」
 エースはメシエの計画に一つ危惧していた。生長をするということは、最後は枯れるということだ。自分達の手によって速く枯れさせようとしているのだ。