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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 2『今のボクを誰も抜けないんだな』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 2『今のボクを誰も抜けないんだな』

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「魔穂香、追いついた! 見える?」
「ええ、見えるわ。それじゃ美羽、合わせていくわよ」
「任せて! 最後に勝利するのは、私たちなんだから!」
 後方から、先頭集団に追いついた魔穂香と美羽がそれぞれ銃を構え、モップスの運転するバイクのタイヤを狙って撃つ。数発の弾丸の内一発がタイヤを、もう一発が姫子の乗るサイドカーとの連結部分を撃ち抜き、サイドカーがくるくると回転しながらコースを外れていく。
「す、スピードが落ちるんだな」
 姫子を失い、かつバイクに損傷を負ったモップスは、自分が振り落とされないようにするので精一杯であった。
「ここで、一気に加速……っ!」
 そこへコハクがジェットドラゴンを加速させ、間近に迫ったゴールを一番で通過しようとする。
「最後の……ラスト、スパートだああぁぁl!!」
「そう、今私は風になってる!」
「うぉぉぉぉ! 夢見る乙女の純情ド根性マジカルパワー! 決して諦めないのが魔法少女魂!
 この勝負、絶対に勝つんです! 最後に先頭に立ってるのは、私だ〜!!」
 と、ゴール直前になって猛然と追い上げてきたウルフィオナと郁乃、それに途中まで姫子の配下として魔法少女と戦闘を繰り広げていたはずの姫星が、戦っている間にレースに勝つのが目的に変わってしまったらしく、ほぼ同時に魔穂香と美羽、コハクたちとゴールと指示された場所を通過する。他の魔法少女も続々とゴールを果たす中、モップスのバイクはゴール数センチ手前でピタリと止まっていた。
「……負けたんだな。結局、ボクはどこまで行っても半端者なんだな。
 もう、人生に希望も何も持てないんだな。いっそここで一思いに殺してくれなんだな」
 言ってモップスが、身体を投げ出すようにして地面に寝転がる。それは自ら立ち上がることを放棄した者の姿。

「ばかーーー!」

 そんな叫び声が聞こえたかと思うと、イングリットがバイクでモップスを撥ね飛ばす。ゴールの向こうまで吹っ飛ばされ、壁に激突してようやく止まったモップスを、バイクから降りたイングリットが持ち上げる。
「おまえは私のライバルであることを忘れたのかにゃー!
 簡単に死ぬとか殺せとか言うんじゃないにゃーーー!」
 ぶんぶん、と身体を振り回され、意識を取り戻したモップスは洗脳が解けたのか、元の締まりのないというかだらしのない顔を露わにする。
「モップスさんが諦めない限り、希望はモップスさんの中にありますよ。
 もしまた見失った時は、その時は私が見つけ出してあげます。だから……もう少し、頑張ってみませんか?」
 メトゥスが微笑みながら、スッ、とモップスに手を差し出す。
「…………ボクはどうやら、皆に迷惑をかけてしまったみたいなんだな。
 ごめん、なんだな」
 イングリットから解放されたモップスが、魔法少女たちの前で静かに頭を垂れる。
「これに懲りたら、明日からおまえはイングリットと正義のフードファイター『たいがー&べあー』としてユニットを組むにゃ!」
「……グリちゃん、それ、本気なの?」

「いたたたたたた……もう、最後の最後で日和るなんて、彼も大したことなかったわね。
 こうなったら、もっと強力な種族、個人を味方につけて――」
「ひめこおねーちゃーん、あそぼー。きょうはぶきもってきてないのー」
 大破したサイドカーから起き上がった姫子が今後の計画に思いを馳せていると、とてとて、と駆けてきたアルコリアがにっこり、と微笑む。
「あ、あなたは! この前はよくも私をコテンパンにしてくれたわね!
 可愛い顔したって騙されないんだから――」
「えいっ」
 ドグォ、と何やら鈍い音が響き、アルコリアの手刀が姫子の腹部にめり込む。
「ひめこおねーちゃんがそんなになっちゃったのは、かわいがられてそだたなかったからだよー。
 アルちゃんがかわいがってあげるねぇ……?」
「ふ、ふざけないで! あなただって似たようなもの――ううっ!」
 耳元で囁かれた姫子が抵抗する前に、アルコリアが腹部を徹底的に痛めつける。並の一般人はおろか、契約者であっても致命傷となりうるであろう攻撃だが、姫子は痛がりつつも命の危険を感じさせる振る舞いを全く見せない。これが姫子自身の力なのか、それとも何らかの補正が入っているのは定かではないが、ともかく分かることはこれ以上、この場で姫子が何かを企むことは不可能であるということだろうか。

「ゆる族も結構ストレスが溜まる種族のようだからな。少しくらいは好きにさせてやりたいところだが、他人に迷惑をかけるのはアカン。
 故に止められるのは当然の結果だ。これを機に少しは反省するのだ。もしまだ何か不満があるのなら、契約を解除するのも手ではないのか?」
「そ、それは流石に……そこまで不満があるわけじゃないけど……」
「だったら、パートナーと話し合う機会を持ってみてはどうかしら。すぐには解決しないかもしれないけれど、解決のきっかけにはなるかもしれないわよ」
 事が終わり、一箇所に集められた元メンバーたちは、マグナ・ジ・アース(まぐな・じあーす)リーシャ・メテオホルン(りーしゃ・めておほるん)のお説教を受けていた。街の建物や一般人に危害は出ていないものの、迷惑をかけたことは咎められなければならない。
「……それにだ! ゆる族を止めに来た魔法少女とやら! 止めに来たのに被害と周囲への迷惑を拡大させてどうする!」
 ひとしきりゆる族に対して説教をしたマグナが、今度は魔法少女――といってもこの場にいたのは魔法少女の代表ということで残された魔穂香と六兵衛だけであったが――に矛先を向ける。
「……ねえ、なんで私が怒られなくちゃいけないの? ていうかここ、別空間なんでしょ。被害も迷惑もないんじゃないの。
 ていうか撃ち抜いていい?」
「我慢して下さいッス、魔穂香さん。社会人には我慢も必要なんスよ。
 あるいは、聞いているふりをして聞き流すのも一つのスキルッスよ」
「なるほどね……確かにそのスキルはさっさと取得したいわ」
「お前たち、聞いているのか!!」
 ……その後、アルコリアにボコボコにされた姫子が空間を解放するまで、マグナの説教は続いたのであった。



「……ただいま、なんだな」
 モップスが家の扉をくぐる。事件の経緯を聞いた豊美ちゃんから「詳しい話や、モップスさんの処分については日を改めて場を設けます。今日はまず、リンネさんの所に帰ってあげて下さい」との言葉を受けてその通りにしたモップスは、何があるのかと半分期待、半分怯えつつもリビングへと足を運ぶ。その途中でふとモップスは、部屋がちゃんと掃除されていることに気付いた。
「……綺麗になってるんだな。……まさか、リンネがやってくれたんだな?」
 心に浮かんだ疑問は、次の瞬間確信に変わる。リビングではスタンドライトが点けられ、その下でリンネがすぅ、すぅ、と寝息を立てていた。そしてその横には中くらいの大きさのお椀が置かれ、中にはジャガイモ、人参、玉葱、肉……そう、リンネが昼間花音とネージュから教わった『肉じゃが』が盛られていた。
「リンネ……早く帰ってあげられなくて、ごめんなんだな」
 多分、自分が帰るまで待っているつもりだったのだろうが、慣れない家事をしたことで疲れ果ててしまったのだろう。
 モップスは寝室へ行き、毛布を持って来てリンネにかけてやった後で、肉じゃがを一口口に入れる。
「……美味しいんだな」
 味は自分の作るものに比べれば、であったが、何より作る人の温かみが感じられた。二口、三口と手を進めていくモップスは、ふと先ほどまでお椀があった場所に手紙が置かれているのに気付く。
 モップスがそれを手に取ると、中には女の子らしい文字で、今まで家事を一手に引き受けてくれたモップスへの感謝と、これからはモップスの手を借りないで頑張るから、というリンネの思いが綴られていた。
「…………うっ」
 一通り目を通したモップスが、涙を思わず手紙で拭きそうになって慌てて傍にあったティッシュで拭う。ついでに鼻もかんで、スッキリした顔でモップスは手紙を大切にしまい、立ち上がる。
「おやすみ、リンネ。……ありがとう、なんだな」
 お礼の言葉を告げたモップスへ、リンネがうん、と頷いたような気がした――。



「今回の騒動も、姫子さんが関わっていたんですよね。……ウマヤド、これで彼女が諦めてくれると思いますか?」
 数日後、モップスへの処分を言い渡し、ひとまず事件を解決に終えた『豊浦宮』では、豊美ちゃんと馬宿、讃良ちゃん、魔穂香と六兵衛が集まっていた。
「おそらく、それはないかと。一度は身を潜めるなりして様子を見るかもしれませんが、彼女のことです、決定的な何かを持ち出してくるはずでしょう」
「ねえ、こっちから手を打つことってできないの? いつも後手に回らされるのは気に入らないんだけど」
「魔穂香さんの言うことはもっともッスけど、簡単に出来たら苦労はないんスよ。肝心の姫子という人の消息が掴めないんス。社員総出で目撃情報を探っても、どうしても辿り着けないッス。まるで煙を相手にしてるみたいッスね」
 一同の間に、重い空気が流れる。とにかく、と豊美ちゃんが声を上げ、雰囲気の打開を図る。
「家事教室の方は成功だったんですよね? それにリンネさんとモップスさんの仲も、前より良くなったはずです。
 今回はこれでよしとしましょう。……後は、讃良ちゃん、あなた次第なのかもしれませんね」
「? わたし?」
 一斉に視線を向けられ、讃良がきょとん、と首を傾げる。
 これから自身に振りかかる運命を、今まだ彼女は知る由もない――。



「別に、会えなくなるわけじゃないんだな。リンネに何かあったらすぐに戻ってくるんだな。
 ボクたちは、変わらずパートナーなんだから」
 引越しの準備を終えたモップスが、涙目のリンネに向き直る。モップスは処分の結果、リンネとは離れた場所で『豊浦宮』の訪問を受けつつ、自活することになった。しばらく時間を見て、大丈夫だと判断されれば元通りにすることも出来るとのことであった。
「べ、別に心配なんてしてないんだもん! ちょっと花粉症なだけなんだからっ」
 プイッ、とリンネがそっぽを向いてしまう。博季とリリーが慰める中、幽綺子が寄ってきてモップスに呟く。
「『義妹』が迷惑をかけたわね。お詫びといっては何だけど……いつか一度だけ、私がモップスの言う事を聞いてあげる」
「それなら……ボクがいない間、リンネのことを守ってあげて欲しいんだな」
 モップスの願いに、幽綺子はしかし首を振る。
「それは叶えられないわ。……だってもう、私の中では当たり前のことになっているもの。
 私が聞きたいのは、あなたの願い」
「……考えておくんだな」
 今度はモップスが、視線を逸らす番であった。

「……行ってしまいましたね。やっぱり……淋しいですよね」
 遠くなる姿を見送った博季が、リンネの気持ちを慮るように呟く。
「うん……でも、悪くない。きっといい形なんだと思う」
 パートナーだからといって、死ぬまで互いに一緒、というわけでは決して無い。どちらかが別の誰かと恋に落ちる、あるいはもっと別の理由で別れることは、ごく普通にあり得る。そういう中で二人の“別れ”は前向きで、これからに希望があるように見えた。
「……リンネさんとモップスさんが納得をしているのなら、僕が何か口を挟むことは出来ません。
 ただ、二人の関係がこれからも続く事を願うばかりです」
「うん。ありがとう、博季くん。
 私、これからは博季くんと一緒に家事、頑張るからね」
 微笑むリンネを見て、博季は思わず抱きしめたい衝動にかられる。
「今回のことで、僕、分かりました。……リンネさん、僕と一緒にやろう。僕と、一緒に。
 疲れている時は任せてくれて構わないから。僕とリンネさんの家庭なんだから……二人で大切に、守っていこう?
 こうやって、今日みたいに一歩ずつ、ね?」
 返事の代わりに、ぽふ、と博季の胸に頭を沈めるリンネ。
 ――“二人”の関係は、一つの事件を経てまた一段と強くなったようである――。



「いたたたたたた……もう、何なのよあの子。今度会ったら復讐してやるんだから。
 ……そうね、種族を味方につけるというのは悪くない案だわ。問題はどの種族を味方につけ、かつ誰を担ぐか、よね」
 とある場所にて、姫子が今後の計画について思案を巡らせる。
「……そうね、しばらくはイルミンスールに滞在してみて、色々と見てみようかしら。
 とりあえず、次の候補は……」
 呟きながら、姫子の前に映し出されたのは――。

「ふぅ……今日の会議も、長引きましたわね。
 必要なこととはいえ……流石に連日続くと、羽根を伸ばしたくなりますわね」

 果たして今度は、何を企むつもりなのか――。

『終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 2』 完

担当マスターより

▼担当マスター

猫宮烈

▼マスターコメント

猫宮烈です。
『終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 2』、いかがでしたでしょうか。

姫子はモップスとの接触を機に、イルミンスールに興味を持ったようです。次に狙われてしまうのは果たして誰か……?(まあ、大分ネタバレしてますが
今回のシナリオですが、バイクレースの方がなかなか、全員が主役になれない要素になってしまった感があるように思います。これは今後の糧にして、次はなるべく参加してくださる皆さんが主役になるようなシナリオを組めるようにしたいと思います。

それでは、次の機会にまた、どうぞよろしくお願いいたします。