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リアクション
「わいるどに決めるにゃー!」
「ちょ、ちょっとグリちゃん! スピード出しすぎだってばー!」
白黒のパワードスーツを纏い、まるで戦隊モノのヒーローが乗るような改造が施されたバイクを操るイングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)の横で、秋月 葵(あきづき・あおい)がぐわんぐわんと左右に揺れるのを必死に堪える。サイドカーをつけているにもかかわらずの運転なので、中にいる葵は大変であった。
「もー、料理教室に行くつもりだったのに、結局なんかよくわかんないレースに巻き込まれちゃったよ。
それにしてもモップス、リンネちゃんと何かあったのかな? ていうか、よくあの足でバイク乗れたよね」
葵の言葉に、イングリットは不愉快とばかりにまくし立てる。
「そんなことはどうでもいいにゃ! モップスはイングリットがフードファイトの“強敵”として認めた永遠のライバルにゃ!
それを忘れてこんな暴走行為に耽るなんて、許せないにゃ! イングリットがぶん殴ってでも目を覚まさせてやるにゃ! 大食いを忘れた熊は、タダの熊にゃー!」
「グリちゃん、意味分かんないよ……。とにかく、たとえ成り行きであっても戦いである以上、負けるわけにはいかないよね。
だって私、愛と正義の魔法少女なんだもん」
「葵の言ってることもよく分かんないにゃ。……むむ、葵、怪しいヤツらが現れたみたい」
イングリットの言う通り、それまで姿を消していた『ビッグ・ベアー』のメンバーが突然姿を現すと、一斉に銃を構える。どうやら光学迷彩で隠れていたようだ。
「今日はサイドカーの中だから、控えめに……っと!
戦力全開! それじゃ、ショータイム始めるよ♪」
対する葵も、変身してステッキのレーザー照射で迎え撃つ。無数の弾丸と光線が炸裂する――。
「機晶の輝き身に纏い、魔法少女スペース☆メトゥス、参上です!」
魔法少女な名乗りをあげ、メトゥス・テルティウス(めとぅす・てるてぃうす)が前を走る『ビッグ・ベアー』のメンバーに呼びかける。
「あなたたちは辛い事から逃げているだけ。しかも、自由だ自由だと口にしておきながら他者の自由を蔑ろにしています。
皆さん、パートナーに不満があるなら、もっと別の方法を取るべきです」
「うるせぇ! それができりゃ苦労はねぇんだよ!」
返事の代わりに向けられる銃弾を避け、威嚇の意味を込めて上空から雷を落としたメトゥスが、なおも微笑みを浮かべつつ呼びかける。
「でしたら、皆さんで一緒にセッションなどいかがでしょう?
その事自体に意味はなくとも、きっと一つのきっかけにはなると思うんです」
「……なんだか、周りが周りだけに、もっとも魔法少女らしいことしてないかしら、あの子。
まぁ、直接的な暴力に訴えてるわけじゃないしね。このくらいでいいんじゃないかしら」
メトゥスの魔法少女としての活動を後ろで見守りながら、須藤 雷華(すとう・らいか)が周りの騒音に負けない勢いでエレキギターをかき鳴らす。「私のは音楽だから。騒音とは違うから」と主張するのは伊達じゃないとばかりに、明るいテンポの曲は魔法少女の夜に相応しいと言えた。
(スペース、ね……。いいじゃない、過去や出自がどうであろうと、希望を持つことは悪い事じゃない、そう思うの)
スペースは英語のspaceではなく、ラテン語のspes。意味は『希望』。ただし英語の方の『空白』という意味も、多分皮肉を込めているのかな……ととりとめのない考えを雷華は頭に浮かべる。
けれど、とりあえずその考えは一旦捨てて、今はメトゥスが思うままに動けるようにと考える。魔法少女どうこう関係なく、誰かのために動けることはきっと幸せ、そう思いながら。
「モップスさん……毎日リンネさんに使われて、ストレスが溜まっていたのでしょう。そこを姫子さんに付け入られてしまったのですね。
……ですがモップスさん、姫子さん、あなた方は『自由』の恐ろしさを分かっていない」
姫宮 みこと(ひめみや・みこと)が、巨大なメスにしか見えない乗り物に搭乗し、出発する準備を行う。今回は『退魔少女バサラプリンセスみこと』の格好ではなく素の状態ながら、その姿はとても凛々しく映った。何か自分の使命を果たそうとする者に備わった、力に溢れているようにも見えた。
「バサラ、すなわち傾奇者の不文律にいわく、自由とは野垂れ死にする自由、いつどこで誰に殺されても文句の言えない自由と表裏一体であるのです。
バサラの名を冠する一人として、あなた方に自由の何たるかを教えて差し上げましょう!」
「な、なんだかみことがやる気なのだわ。あたしが纏われる余地もないくらいのやる気なのよ」
今までにこんなことがあっただろうかと、早乙女 蘭丸(さおとめ・らんまる)が呆然としている間に、準備を終えたみことは『レティ・ランセット』で『ビッグ・ベアー』を追い始めた。
「ああっ、ま、待ってよみこと! とにかく、こうなったらあたしもこれでみことを守らなくちゃ!
魔法少女コスチュームでなくても、あたしのみことに手を出すやつは許さないんだから!」
慌てて蘭丸も『レティ・インジェクター』に乗り、みことの後を追う。随分飛んだような気がした後、ようやく見つけたみことはその巨大なメスで、『ビッグ・ベアー』のメンバーであるゆる族に『自由』の真髄を教え込んでいた。
「や、やめろ、やめてくれ、それだけは――ぎゃーーー!」
そう、自由とは、どのようなことをされても文句の言えないもの。たとえみことの巨大メスに背中をファスナーに沿って切開されるものであったとしても! ……とはいえ流石に見せられないよ! という状況にはならないのは、このシナリオが魔法少女シナリオだから。ことごとく爆発して地面を転がっていくゆる族は、どうにしろ哀れであるが。
「うわ……みこと、案外ソッチの方には耐性あるんだよねー。それなのにあたしの色仕掛けにはメロメロなんだからっ♪
それじゃ、邪魔してくるレーサーは、あたしのお注射でマヒさせちゃうぞっ♪」
なんだか今日のみことは頼もしく見えることを嬉しく思いながら、蘭丸もいざという時には自身の乗り物で“お注射”をするべく準備を整える。
モップスを取り巻いていたメンバーの数を減らした、あるいは振り切ったことで魔法少女(むろん、そうでない者も含むが)たちは視界の向こうに、モップスと姫子の乗るバイクを捉える。
「聞けば、サイドカーの少女があの着ぐるみをたぶらかしたそうだが、唆される方が悪いのだ。
転倒しようがクラッシュしようが、まあ着ぐるみなら問題あるまい!」
「元はいい奴で、今は操られているだけ? そう、関係ないね!
悪い奴は正義の味方にボコボコにされる運命なんだよ!」
ローラーブレードのような形状のパーツを装備して疾走するエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)と、会津 サトミ(あいづ・さとみ)と共にジェットドラゴンに乗り込んだ若松 未散(わかまつ・みちる)が、もう全てモップスが悪いと言わんばかりに彼をフルボッコにするべく距離を詰める。こんなんでも多分、愛されているんだと思っておきたい……多分。
「……あなた、思っていた以上に人望がないのね」
「う、うるさいんだな! どうせボクはこんな扱いなんだな!」
姫子にもそのことを突っ込まれ、モップスが逆上する。取り巻きが蹴散らされては、自身の戦闘力は大したことないモップスではあっけなく制圧されてしまう……かに見えたが。
「闇夜を舞うは終焉の化身なり。
百魔姫将キララ☆キメラ、姫子様のために参上です!」
それまで集団の影に隠れるようにして飛行していた次百 姫星(つぐもも・きらら)が、姫子認定魔法少女として姫子の危機に颯爽と名乗りをあげる。
「よく来てくれたわ! 褒美としてあなたには力を授けます、憎き魔法少女を一掃なさい!」
姫子が念を込めると、姫星の身体から光が生じる。自分が何か強い力に背中を押されているような、それでいてどこまでも行ってしまいそうな勢いのまま、姫星がエヴァルトと未散を槍で同時攻撃する。
「しまった、プロミネンストリックが!」
槍の一閃が、わずかに回避の遅れたエヴァルトの装備していたプロミネンストリックの片一方を破壊する。驚異的な身体能力でなんとか転倒こそ免れたものの、片方だけになってしまっては今後の戦闘に支障をきたすと判断したエヴァルトが、一旦撤退を図る。
「ふーん、邪魔するってわけ! まあ、名乗りを受けたからにはこっちも返さないとね?
喧嘩と聞いたら即参上! 武闘派魔法少女マジカルコンジュラー☆みちる! さあ、今回も楽しく喧嘩しようじゃないか!」
向けられた槍の一撃を、防御に最適な位置かつ鉄のフラワシで受け止めた未散が名乗りをあげ返し、同乗していたサトミに攻撃を一任する。
「未散の邪魔する奴がいたから即参上! マジカル魔銃士、魔砲少女☆サトミ! 悪い奴は僕の闇で、真っ黒に塗り潰してあげるね……」
黒い笑顔を浮かべながら、見た目はマスケット銃のような小銃の狙いを姫星に定め、光の弾丸を発射する。本来は煌々とした光のはずだが、ヤンデレ系魔法少女であるが故にその弾は妙にどす黒かった。
「その程度の攻撃で私が倒せると思ったら、大間違いなんですよ!」
しかし姫星も一歩も譲らず、放たれた弾丸を飛行したまま槍を振った衝撃で打ち払う。モブのゆる族と契約者という違いはもちろんあるが、姫星一人で『ビッグ・ベアー』のメンバー十数人分の働きをしているように見えた。
「……はぁ、どうせボクなんて、こんな扱いなんだな――」
自分の取り巻きはポイポイとやられ、姫子の方は熱い戦いを繰り広げている現実から目を逸らしたくなったモップスだが、喜ばしいことに(?)、そんな彼にも味方をするものが登場した。
「フハハハハ! 我が名は悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、ドクター・ハデス!!
我らオリュンポスは、虐げられたゆる族に味方しようではないか!」
機晶バイクに乗ったドクター・ハデス(どくたー・はです)が、運転をオートにした上でバイクの上に設置した機晶スナイパーライフルでの射撃を見舞う。天才科学者を自称しているだけあって、高速かつ移動する中でもハデスの射撃は正確であり、ことごとく魔法少女たちを翻弄していく。
「さあ、正義の魔法少女とその仲間たちよ! モップスたちのように、正義に虐げられし者の恨みを思い知るがいいっ!」
用意した機晶爆弾を投下し、コースのあちこちで盛大な爆発が生じる――。
「……ねぇ……流石にこの状況、まずいんじゃない?
この車防弾仕様になってるわけじゃないし、弾がタイヤにでも当たったらそれで終わりだし――」
「カンナ、レースの時に「もしもこうなったら」なんて考えるものじゃないの。
レーサーがレースの時に考えることはただ一つ! 誰よりも速く、速く走ること、それだけ!
……そう、私は風になる!
先程からすぐ傍を飛び過ぎる銃弾、そして周りでひっきりなしに生じる爆発に、助手席の斑目 カンナ(まだらめ・かんな)が心配そうな表情を浮かべるが、運転する九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)はそんなの自分には関係ないとばかりに、運転に集中する。ドリンクホルダーには水を入れた紙コップがセットされ、その水を零さないように、しかし誰よりも速く駆け抜けることが今のローズ……いや、『ワイルドロザリーヌ』のディスティニーらしい。
「…………。
まぁ……安全運転で頼むわ。こんな時にわざわざ寄ってくるバイクなんてないだろうから、ね」
見れば、契約者同士の戦いに移行した頃から、『ビッグ・ベアー』のメンバーの姿は忽然と姿を消していた。やはり彼らでは契約者の戦いに付いていくことは出来なかったようである。
(それに……もうそろそろゴールが近いわ。それまでには決着がつくと思うけど……ホント、どうなるのかしらね)
先程見えた看板に(わざわざ看板が用意されていることにカンナは少し疑問を覚えた)『ゴールまであとちょっと♪』とあったのを思い出して、カンナははぁ、と息をつく。
「……くそっ、流石にバテてきたぜ。
いや、力尽きるのはまだまだ先だ! ゴールまであと少し、それまでが勝負!」
「ぜぇはぁ……も、もう無理かも〜。
うぅん、ここで終わりになんて出来ない! あとちょっと、頑張るぞ〜!」
ローズとカンナの運転する車の後方では、ウルフィオナと郁乃が疲労の顔を浮かべつつも、一瞬の勝機を逃すまいと必死に喰らいつこうとする。
「おっ、先頭の集団が見えてきおったで! そやそや、これからが『妬み隊』の本領発揮や!」
「やっと追いついたよー。にへへ、さーてこっからどうやってあそぼっかなー」
さらにその後方では、『ビッグ・ベアー』のメンバーを取り込んだ裕輝とアリッサが続いていた。彼らまで先頭集団に加わるとなると、相当の混乱が予想されることになるが、果たして結末は――。
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