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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 2『今のボクを誰も抜けないんだな』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 2『今のボクを誰も抜けないんだな』

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「ついに見つけましたよっ!
 ご近所の皆様方を不眠に陥れる悪い子は、ワタシこと『魔砲少女・ジナ』が許しませんですよっ!」

 珍走する集団に向け、名乗りを上げたジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)が上空から眠りに誘う歌を送る。空を颯爽と舞い、鮮やかな先制攻撃……に見えるが、ジーナの身体にはロープが巻きつけられ、その根元は林田 樹(はやしだ・いつき)の運転するバイクに繋がれていた。
「おーいジーナ、その格好で決めポーズ取っても、決まらないと思うぞ」
「樹様っ、野暮なツッコミは厳禁ですわよっ!!
 ……む、素直に眠らない輩が多いですわね。……分かりました、次はこいつをくらいやがれなのです!」
 子守唄には案外耐えた(姫子によってある意味夢を見させられているようなものゆえか)『ビッグ・ベアー』のメンバーも、爆炎とミサイルの嵐の前にはひとたまりもなかった。
(やれやれ……てっきり見回りがてらのツーリングかと思ったら、何だこの妙ちきりんな珍走団は。
 まあ、なんだ。ジーナが張り切ってるのをサポートするのも、パートナーの役目だろう。ジーナが狙い撃ちにされないよう、立ち回ってみるか)
 いつの間にか巻き込まれていたことに呆れつつ、攻撃してくる以上やられるわけにはいかないと、樹はバイクの調子を常に確認しつつ細かなハンドリングで攻撃を回避する。
「うっと、ゆうぞくのみにゃしゃ〜ん!
 よいこはにぇるじかんれす〜、おうちにかえってくらしゃいれす〜!」

 その間に、メガホンを取り出した林田 コタロー(はやしだ・こたろう)が舌っ足らずな声を張り上げて説得を試みる。
「ぎゃはははは! 何アイツ、超ウケんだけど!
 おねんねちまちょうね〜、ってかぁ!? ぎゃはははははは――いってぇ!!」
 コタローの口調に笑っていたメンバーが、どう見てもメスにしか見えない箒の体当たりを食らって脱落する。中身が漏れ出さないか心配される所だが、多分大丈夫だろう。
「ねーたんねーたん、うしろのみなしゃんに、うたっれくらしゃい!」
 自分では効果を挙げられないと思ったコタローが、今度は樹にメガホンを渡す。これで子守唄を歌って欲しい、とのコタローの頼みに、まあいいだろう、とばかりにメガホンを受け取る樹。
「い、樹様、少々お待ち下さい! こたちゃん、これ付けてっ!」
「う? なにもきこえないお?」
 樹の歌のことをよ〜く知っているジーナが自分と、コタローに耳栓をして『その時』に備える。
「ささ、樹様、ご存分にやっちゃって下さいませ!」
「うむ、分かった、存分に歌わせてもらう」
 すぅ、と息を吸って、樹が自慢の歌声を披露する――!

「捕鯨〜〜〜!!」

 瞬間、何機かのバイクが突如ズドン、と爆発炎上する。文字上では擁護しているが「ほげええええええ」にしか聞こえない音波が、駆動機械を致命的に狂わせたのだ。
「ひゃ〜、樹様の歌は怪音波ですものねっ! ワタシまで異常をきたしそうですわっ」
 胸の中でじたばたと暴れるコタローを宥めつつ、自らも狂ってしまわぬよう耐えるジーナ。

「防衛〜〜〜〜〜!!」

 これもまた「ぼえええええええ」にしか聞こえない音波で、さらに数機のバイクが爆発で宙を舞い、自らも音波で気絶したゆる族が地面を転がる。
「ふむ。久々に歌うと気持ちいいな。
 ……おや、随分と敵の数が減ったようだが……ふふ、ジーナ、相当張り切ってるようだな」
 清々しい表情で歌い終わった樹、なんとも恐ろしい子、である。

 今回のバイクレースは、『バイクレース』と銘打ってはいるものの、結構何でもありのものであった。
 『乗り物』に乗ってさえいればいいというルール――これには姫子が、バイクレースのことをよく分かってなかったことが後になって考えられた理由である――の中、各人は嗜好を凝らした乗り物や、乗り物の使い方で勝負を挑む。

「……まぁ、望の言っていることは分かりました。
 主として納得はいたしかねますが、安眠のためとあらば仕方ありませんわね」
「どの所属にも属さない魔法少女であるからこそ、ですよ。本来この方が私に合ってますし。
 さあお嬢様、私を肩車なさい」
「……身なりはちっこいですのに、態度は相変わらずですわね。振り落とされても拾ってあげませんわよ」
「そんなヤワなタマではありませんよ」
 可愛げがないですわね、と小さく口にしつつ、ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)がようじょの姿になった風森 望(かぜもり・のぞみ)を肩車する。
「では、ヴァルキリーの真髄、お見せしますわよっ!」
 瞬間、ノートの背中に光る翼が展開されると、徐々に放つ光が強くなっていく。
「3、2、1……ゴー!」
 弾かれたように、ノートの身体が一気に加速する。常人なら身体がバラバラになってもおかしくないほどの加速力、しかし契約者である二人にはまあ耐えられる力がかかる。
「8秒後、R200カーブ……敵影なし。ならばこの進路で……!」
 前方のコース形状を把握、最適な進入角と速度を導き出したノートが、その通りに自身を振る舞わせる。とかくバカ扱いされがちな普段の振る舞いからは想像し難い格好であった。
「望、この先20秒、下り坂ですわよ!」
「心得ました、ではその間、お嬢様はお休み下さい」
 言って望が、ここまで持っていたジェイダス人形を展開、その上にノートが乗り休憩する。美貌で知られるジェイダスが地面を這いつくばり、徐々に削られていく様はなんとも哀れである。
 と、ここでようやく、前方に数台のバイクが見えてきた。魔法少女たちと激しい銃撃戦を展開しているようだ。
「どうしますの? 下り坂がそろそろ終わってしまいますわよ」
「予想以上に乗り物の損傷が激しいですね。これは2回目は使えないでしょう。ならば……」
 策を思いついた望が、人形に何やら術を施す。
「さあお嬢様、その人形を蹴り飛ばして向こうの下郎にぶつけてしまってください」
「……生き生きとしているように感じるのは、わたくしの思い違いかしらっ?」
 渋々、ノートが人形の尻を蹴り、翼を展開させて通常飛行に入る。その間に勢いを付けられた人形は族の集団へ向かい、一台のバイクと激しくぶつかる。
「まずは視界を潰して、その後ゆっくりと熊狩りと参りましょう」
 ため息を吐くノートの頭の上で、望がマスケット銃を構え、人形を狙い撃つ。人形が破裂した直後、周囲を強烈な光が襲い族の視界を遮り、そこへ装填を終えた望の銃撃が襲う。

「結、今のが空京を騒がせている暴走するゆる族たちだよ。夜にあんな大きな音を立てたら近所迷惑だよね!
 だからレースに参加するの! 私も結も魔法少女なんだし、街の平和を守るのが私たちのお仕事だよっ!」
「う、うん、それは分かったけど……けど、乗り物はどうするの、プレシアちゃん?」
 プレシア・クライン(ぷれしあ・くらいん)の勢いに押されつつ尋ねる堂島 結(どうじま・ゆい)に、プレシアは胸を張ってここまで乗って来た自転車を指さす。
「私には、これがあるよ!」
「え、じゃあ私は? 『あるばとろす』取られたら私、乗るものがないよ」
 二人はここまで、飛空艇にも移行する高機能な自転車『あるばとろす』でやって来ており、他に乗り物を用意していない……はずであった。
「それがあるじゃない!」
「こ、これ? 確かに乗り物だけど、確か水上用だった気が」
「魔法少女なんだから、飛ばせばいいじゃない!」
「何その理論……とりあえず、えいっ」
 結がカプセルを投げると、ボンッ、と音と煙幕が生じる。そして現れたのは所々にチョコレートが付着しているボートであった。
「……ねえ、本当にこれで参加するの?」
「もちろん! さあ行くよ結、ゴールのテープを切るのは私たちだー!」
 もうすっかりその気なプレシアがスタートを切るのを、はぁ、とため息をつきつつ結が追う。
「お、おいなんだあれ、自転車と……ボートだと!?」
「すげえ……ボートが空浮いてやがる……飛空艇ならぬ『飛空挺』か」
「感心してる場合じゃねぇ! あんなもんさっさと撃ち落としちまえ!」
 近付いて来た自転車とボートに衝撃を受けつつ、『ビッグ・ベアー』のメンバーが二人に銃撃を見舞う。
「そんな攻撃で、私たちを止められると思うなー!」
 プレシアは機動力でそれらを回避し、結はというと、ボートに身を潜めることで銃撃をボートで受けて被害を免れる。流石ボート、銃撃程度ではなんともない。
「今度はこっちから反撃だよ! プレシアちゃんが光条兵器を貸してくれたから、これでっ!」
 結がプレシアの光条兵器『クラージュ・シュバリエ』を掲げると、そこから輝く光が放たれ、爆走するバイクを貫いて裁きを下す。
「ちくしょうーーー! こんなヤツらにやられるなんてーーー!」
 バイクを破壊されたゆる族が、大層悔しがるように地面を叩く姿が見えた。確かに、自転車やボートに負けるのは屈辱以外の何者でもないだろう。

「『ゆる族の者は主人にこき使われ、鬱憤が溜まっている』。……諸君らの言い分はオレも耳にした。
 そして今また、さしたる抵抗もできずに敗れる……こんな所で終われるかとは思わないか?」

 そこに声が聞こえ、うつむいていた『ビッグ・ベアー』のメンバーがハッ、と顔を上げる。
「……あっ! お前はまさか、数日前から空京を馬で駆け回っているという……」
「知っていたか。なら、話は早い」
 馬上から瀬山 裕輝(せやま・ひろき)がスッ、と手を伸ばし、微笑を称え、こう告げる。

「ゆる族の諸君に告げる! 『妬み隊』に入らんか!?」

「あーんもー、アリッサちゃんが目つけてたのに、先にやられたー!」
 その様子を、陰から目の当たりにしたアリッサ・ブランド(ありっさ・ぶらんど)が忌々しげに地団駄を踏む。アリッサの腹の中ではこのバイクレース中、戦闘などで脱落した『ビッグ・ベアー』のメンバーを懐柔し、自分の下僕にするつもりでいたのだが、まさか同じ事を考えていた者がいたとは思わなかっただろう。相手が数日前から仕込みを入れていたとなれば、悔しいがこの件では勝ち目がない。
「むぅ……こうなったら予定変更かなー。気が進まないけど、コース上でノビてるゆる族を当てにするしかないかー」
 ぶつぶつ、と呟きつつ方針を切り替えたアリッサが、くるりと振り返りフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)に向き直る。
「おねーさま、面白そうだからアリッサちゃんもレースに参加するよ〜。
 それでね、おねーさまにはお願いがあるのー」
 ごにょごにょごにょ、とアリッサがフレンディスの耳元で「コース上でノビてるゆる族を介抱してあげて」と伝える。こうすればきっと、フレンディスは「アリッサちゃんはなんて優しいんでしょう」と快く受けてくれるに違いないと思いながら。
「アリッサちゃん……お友達の心配をするなんて、なんて優しいんでしょう。
 うん、いいことです! レースに参加するアリッサちゃんが心配ですが、アリッサちゃんのたっての頼みとあれば、私、頑張ります!」
 ぐっ、と拳を握って決意を露わにするフレンディスの陰で、アリッサがにへへ、と微笑む――。

「おうおうおう! 今日からオレたちゃ『妬み隊』だぜ!
 世界は妬みで溢れてる! 極上の妬みを求めて、オレたちゃ走るぜ!」

 コース上に、数台の元『ビッグ・ベアー』のメンバーを引き連れ、裕輝が馬を走らせる。バイクと並走しているにもかかわらず、馬はまったく息を乱す気配を見せない。己を鍛え上げた者のみが乗ることを許されるかの馬は、本気を出せば小型飛空艇の3倍の速度を出すことが出来るのだ。
「素晴らしい。いや、ホンマに悪くないで。
 そやそや、その妬み、恨み、嫉む心をウチの隊、妬み隊で発揮してみぃ。
 こここそ、他人や他事を妬ましく想うモンに相応しい場所や!」
 集団の中心で裕輝が高らかに宣言し、メンバーがおぅ、とそれに続く。……実の所裕輝自身はネタのつもりでいたのだが、予想外に物事がハマってしまったため、まぁ、流れに任せるかと集団のリーダーを務めているのであった。

「にへへー、ここでババーンと真打ち、登場だもんね〜。
 鎧系魔法少女マジカルアーマーアリッサちゃん見参! アリッサちゃんの前にいる子はぜーんぶ、排除しちゃうよ☆

 愛用の箒の上で仁王立ちし、魔法少女な名乗りをあげ、やはり『ビッグ・ベアー』のメンバーを率いたアリッサがレースに乱入を果たす。
「アリッサちゃん、楽しそうでよかったですね。
 お友達もこんなに増えました。どんどん増やしていきましょう」
 アリッサの横を“並走”していたフレンディスが、足の動きを早くして速度を上げ、ぷすぷす、と煙を立てて倒れている『ビッグ・ベアー』のメンバーを介抱してしまう。
 『千里走りは乗り物に含まれますか』の回答は、イエス、である。そして他にも、自らの足で勝利という栄光を勝ち取ろうとする者たちがいた――。