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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 2『今のボクを誰も抜けないんだな』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 2『今のボクを誰も抜けないんだな』

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●昼:カフェテリア『宿り樹に果実』

「ミリアさん、今日はどうぞよろしくお願いしますー」
「おば……豊美ちゃんの急な申し出にもかかわらず、快くお受けいただいたこと、感謝いたします」
 家事教室の会場となっている『宿り樹に果実』を訪れた飛鳥 豊美(あすかの・とよみ)飛鳥 馬宿が、出迎えたミリア・フォレスト(みりあ・ふぉれすと)に挨拶をする。
「皆さんが今日というひとときを楽しんでいただけるよう、私も講師の方、頑張りますわ」
 そう答えたミリアが、豊美ちゃんのやや後ろで緊張している様子の鵜野 讃良の前で屈み込み、目線を合わせる。
「はじめまして、うののさらら、です!」
「ミリア・フォレストです。ミリア、って呼んでね」
「はい、ミリアおねえさま! よろしくおねがいしますっ」
「ふふ、よくできました♪」
 ミリアに頭を撫でられて、讃良ちゃんの顔がほわん、と和む。すっかり緊張は解けたようだ。

 そんな運びで、かつて行われた料理教室の拡張版とでも言うべき、『家事教室』が幕を開けるのであった。

「ミリア先生、料理をする上で一番大切なことはなんでしょう」
 ハイ、と手を挙げた神代 明日香(かみしろ・あすか)の質問に、ミリアは少し考えて、食材の一つを手に取る。
「いい火加減を見たり、料理に合った味を整えたり、包丁さばきや道具の使い方、大切なことはたくさんありますわ。
 でも、一番大切なことは、自分を含めた誰かが、自分の作った料理を喜んでくれて、美味しく食べてくれること。そのために自分に出来ることをする、私はそう思いますわ」
 言い終えたミリアは、食材のいくつかに包丁を入れ、火に通し、あるいは味付けをしていく。その手さばきはまるで、彼女が実は魔法の使い手なのではと思わせるほどに、見事であった。
「自分を含めるんですか?」
 脳裏にエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)のことを思い浮かべていた明日香が、ふと湧いた疑問を口にする。明日香でなくとも、『誰かのために』料理をするのは楽しい、という考えは理解できても、『自分のために』という考えは理解しにくいかもしれない。
「そう。自分も、自分の料理を楽しむ大切な一人なの。
 料理、掃除、洗濯、家事はどれも特別なものじゃなくて、そして毎日やる必要があるもの。それなのに自分が対象から外れていたら、自分がかわいそうだもの」
 視線を向けてくるミリアに、明日香はちょっと考えて、同意でも否定でもない別の言葉を紡ぐ。
「……ミリアさんには、素敵な夫がいるじゃないですか」
「ふふ、そうね。はい、完成♪ さあ、一口どうぞ」
 盛り付けられた料理からふわっ、と漂う食欲をそそる香りに惹かれて、明日香は思わずスッ、と手を出し、出来立ての料理を口に入れた。
「……美味しい」
「ふふ♪」

「豊美さんも料理、できるんですよね。今日はどんな料理を作るんですか?」
「え、えっとですねー……(うぅ、ノルンさん、そんなまっすぐな目で見ないでくださいー。私、料理は全然できないんですー)」
 期待いっぱいといった様子のノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)に見上げられて、豊美ちゃんは心底困っていた。流石に身の回りの整理くらいは自分でやるが、その他の家事はだいたい馬宿が担当しており、本格的な料理となるとまったくできる気がしなかったからである。普段ならここで馬宿が「豊美ちゃんは料理をしたことがありませんから。ですから、今ここで皆さんに混じって料理の特訓をしているのです」とツッコミを入れるのだろうが、その馬宿もノルンの『豊美ちゃんはなんでもできるすごい魔法少女』の思いを壊すのが心苦しく思えたのか、少し離れた場所で大人しくしていた。
「ノルンさん、採れたての果実を使ったアイスがありますよ」
「!」
 すると背後からミリアの声が届き、耳にしたノルンがピコーン! と反応してとてとて、と駆けていく。ノルンと入れ替わりにやって来たミリアを見て、豊美ちゃんがほぅ、と安堵のため息をつく。
「た、助かりましたー。ミリアさん、ありがとうございますー」
「どういたしまして。豊美さん、ノルンさんの期待に応えるためにも、頑張ってくださいね」
「……はいですー」
 ミリアが何かとても大きな存在に見えて、豊美ちゃんははぁ、と嘆くようなため息をつく。

「料理ってどうも苦手なんだよねー。これを適量とかあれを少々とか、よくわかんないしさ」
「ええ、その辺りはどうしても個人の味覚に左右されますから。同じ物を同じ量だけ入れる、でも出来上がった料理は毎回違ったものになる。
 そこが料理の難しい所でもありますし、また楽しい所でもありますわ」
「うーん、ボクはめんどくさーいって思っちゃうかも……うわっととと」
 包丁を手に、リンゴの皮むきに挑戦していた桐生 円(きりゅう・まどか)の手から、つるっ、とリンゴが滑り落ちそうになる。スライサーでの皮むきは比較的上手くいったものの、包丁の扱いはまだまだ慣れていないようだった。
「…………」
「……じーーー」
 円がミリアの指導を受けている隣で、材料を運ぶお手伝いをしていたペンギンたちは、先程からまっすぐな目で見つめてくる讃良ちゃんの対応に困っていた。今でこそ円にコック帽子を被らされ働かされているが、彼らは誇り高き(かどうかは定かではないが)ダークサイズの戦闘員。年端のゆかぬ子供の玩具になるつもりは、毛頭ない。
「……! !」
 検討の結果、彼らは串焼きに使用される予定の串を手に、威嚇行動に出る。串の扱いは手馴れているらしく、突きを繰り出す様はなかなか決まっていたのだが。
「わー! かわいいーーー!」
 しかし外見の愛らしさが、この場合はアダとなった。すっかり好奇心を刺激された讃良ちゃんがとてとてと駆け寄り、ぎゅむ、とペンギンを抱きかかえる。
「! !」
 やめろなにをする、と言いたげにじたばたと身体を動かすが、こういう時の子供はどこにそんな力があるんだと不思議になるくらい、力強い。んー、と頬ずりをしてくる讃良ちゃんから一向に逃れられず、その内バテたペンギンははぁ、と諦めのため息をついてなすがままにされていた。どこか末端の戦闘員の哀愁を感じさせる。
「……おー、完成したー。なんか綺麗にできたかもー」
 そうこうしている間に、円の目の前に盛り付けられたサラダが出来上がる。周りを葉物が彩り、中心にタマネギ、ジャガイモ、マヨネーズを絡めたシーチキンが収まっていた。
「はい、よくできました♪」
「ふふーん、ちょっといい気分かも。それじゃこの調子で次、串焼きいってみよー。
 えーと、火術でどばー、でいいのかなー?」
「あらあら、それだと真っ黒になってしまいますよ」
 参加する前は苦手意識のあった円も、今はすっかり料理を楽しんでいるのであった。

「豊美ちゃん久し振りー! ちょっと離れてた間に魔法少女、すっごい増えたよねー!」
「わむっ、ルカルカさーん、苦しい、苦しいですよー」
 豊美ちゃんと再会できた喜びを全身で表現してきたルカルカ・ルー(るかるか・るー)に、豊美ちゃんはもみくちゃにされる。女子同士でキャッキャしている光景、だがルカルカが相手となると、豊美ちゃんでは少々、いや、かなりパワー不足であったかもしれない。
「きゅう〜……」
「ルカルカ、気持ちはわかるが、もう少し加減してもらえないだろうか」
「てへ♪ ごめんなさーい。あっ、ミリアも今日はよろしくね。お土産にパンダまん、どうぞっ!
 これ有名なんだー、とってもおいしいよー」
「ふふ、ありがとうございます♪」
 ぐるぐると目を回している豊美ちゃんを背後に、嗜める馬宿にぺろ、と舌を出して、ルカルカはミリアへ挨拶をしに行く。
「前はもう、自分で言うのも何だけどすっごい料理しか作れなかったけど、今は普通にできるよ。彼もちゃんと食べてくれるしね♪
 そーそーミリア結婚したんだよね、おめでとー! 旦那さんとはうまく行ってるの?」
「ええ、涼介さんは私にとても良くしてくださいますわ」
「きゃーもー、サラっと言われたら聞いてるこっちが恥ずかしいじゃない、このっこのっ」
 そのまま二人、ガールズトークに突入する。その様子を横目でちら、と見ていた玖珂 美鈴(くが・みれい)がふぅ、と小さくため息をつく。
「……魔法少女、か。……私もなってみたい、な」
「ん? 何だ美鈴、魔法少女に興味あんのか? ってかそもそも魔法少女って何なんだろな。
 普通に魔法を覚えるんじゃダメなのか?」
 これまでの経験か、どうしても自己流になってしまうのを矯正するべく料理に励んでいたカイ・フリートベルク(かい・ふりーとべるく)が、美鈴の呟きに反応して言葉を返す。
「ん……何て言ったらいいかな……それとはちょっと違う、というか……。
 困ってる人達を、魔法で助けたりする、のかな」
 美鈴の言葉を耳にしたカイの手が、ぴた、と止まる。
「……困ってる奴を、ね」
 その時のカイは、普段見せる底抜けに明るいものとは異なり、どこか遠くを見ているような、虚しさを感じさせる表情になっていた。
「……あ、もちろん魔法で誰かの役に立ってる人はいっぱい居るし、それは凄く立派なことで……。
 でも、魔法少女は……えと、何だろう? あれ? ……どうしよう。言ってて訳わかんなくなってきた……」
 なにやら迷宮に迷い込もうとしている美鈴に、カイの表情が戻る。何でもないというようにケラケラと笑い、口を開く。
「まぁ、単に魔法使う女を魔法少女って言うのとは、違うのかもな。
 そんな時はさ、ほら、本物の魔法少女に聞いてみたらどうだ?」
 カイが示した先、介抱を受けて回復した豊美ちゃんが立ち上がる。リボンと服の乱れを直して、うん、と頷いた豊美ちゃんが向けられている視線に気付いたか、二人の元へ向かって来た。
「どうしましたかー?」
「あ、えと、その、あの……あぅあぅ」
 豊美ちゃんを前にしてもじもじする美鈴を、後ろからカイが笑いをこらえつつ見守る。急かすでもなく、立ち去るでもなく言葉を待つ豊美ちゃん。
「……魔法少女のこと……教えて……ほしい、な……
 消え入りそうな声で、それでも懸命に言葉を紡いだ美鈴を豊美ちゃんは笑顔で迎える。
「はい、いいですよー。うーん、何から教えましょうかー。
 あっ、よかったら一緒にお料理を学びながら、お話しませんかー」
「……えと」
 ちら、と美鈴の視線がカイを捉える。
「行ってこいよ。直接話せるこんな機会、滅多にねぇぞ」
「……うん」
 口元に笑みを浮かべ、そして二人がテーブルへと向かっていく。
「魔法少女は、皆さんに安心と幸せをお届けするんです。それは武器の扱いが上手い人、魔法が使える人、何か特別な力を持っている人がなれるものというわけではありません。
 人を思いやる心、楽しんでもらいたいと思う心、幸せを感じることが大切なんです」
 豊美ちゃんの言葉を、美鈴は頷きながら聞き入れていく。