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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 2『今のボクを誰も抜けないんだな』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 2『今のボクを誰も抜けないんだな』

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「この機会に、娘達に手の込んだものを作ってやりたいと思ったのでな。
 流石に校長に『母親の味』を出せというのは無理があるし、是非ここはミリア君に教授願えれば、と」
「娘さん思いのいいお父さん、ですね。ミーミルさんもよく、ネラさんとヴィオラさんと一緒に料理や掃除の仕方を学びに来るんですよ。「お父さんやお母さんの役に立ちたい」って
 いつか、皆さんでキッチンに立って、料理を楽しめるようになるといいですね」
「……そうか。それは……ああ、楽しみだな」
 ミリアの言葉を聞き、普段は厳格なアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)の顔がふっ、と緩む。と、鍋からシュー、と良い香りを含んだ蒸気が漏れ始める。
「このタイミングで、火を弱くするんです」
「こうだろうか……っと、消えてしまったか。いやはや、なかなか思い通りに行かないものだな」
「慣れていないだけですわ。アルツールさんは飲み込みが速いですから、何度か経験すればすぐに覚えてしまいます。
 今火を起こしますから、もう一度挑戦してみましょう」
「ああ、よろしく頼む」
 しばらくして火が起こされ、アルツールが慎重な手付きで火加減を調節し、煮込みの技術を習得していく。自分の作った料理で身も心も温まってもらいたい、その思いが料理を美味しくすることをよく分かっているミリアは、彼の頑張る背中をそっと応援する。
「むふふ……ここで家事をマスターして女子力をアップすれば、もしかしてあの先輩がミーナのことをほめてくれたりするかも?
 頭なでなで、あわよくばぎゅーっ……むふ、むふふ」
「? じょしりょく、とはどんなものでしょう?」
「はわっ!?」
 頭の中でキマシタワーな妄想を繰り広げていたミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)が、ミリアの純粋な疑問にハッ、と目を覚まして慌てて向き直る。
「え、えっと、女子力、女子力……うーん、何て言ったらいいんだろう。
 ミーナが読んだ本には、『女子が生まれつき持っている能力に加えて、女性であることを自覚して努力してく力』って書いてあったのよ」
 記憶を頼りに、ミーナが答える。その会話を聞きつけ、馬宿が話に加わる。
「ついこの間買い出しに出かけた際、俺のことを「女子力が高い」と噂していた者がいたが、その意味からすると甚だ誤用ということになるな。
 俺は自分のことを女性と思ったことはないのでな」
「はぁ……その女子力とやらが高いと、どうなるのでしょう」
「先輩……ゲフンゴフン、えっと……男子のウケがよくなるんじゃないかな、普通に考えると」
 うっかり自分の性癖を口にしそうになって、慌ててミーナが言い直す。
「女子力という言葉があるのなら、男子力という言葉はないのだろうか。いや、いっそ人間力としてもいいのではないか?」
「う……それちょっと大げさ過ぎない? もし家事ができない人イコール人間力が低いってなったら、なんかとってもみじめに聞こえるよ」
 その後もあれやこれやの意見の応酬が続いた結果、結論としては『まぁ、家事はできた方がいいのは間違いない』という所に落ち着いた。
「というわけで、女子力アップのため、ご指導お願いしますっ」
「ええ、私で良ければ♪」
 ミリアとミーナが連れ立って歩いていくのを見送り、馬宿はふぅ、と息を吐く。
「っ……、流石に、本調子ではないか。族の方は今晩に決着がつけばいいが……」
 めまいを覚え、馬宿は一人カフェテリアを抜け出し、外に出る。一時は空を飛んだり、離れた地に不時着していたりもした世界樹イルミンスールも、今は元の位置に戻り、徐々に復興の兆しが見えつつあった。
「ふぅ……静かなのはいい――」
 馬宿の耳が微かな足音を捉え、体調からか過剰な動作でそちらを振り返ると、驚いた様子のリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の姿があった。
「どうしたの? 随分と殺気立ってるじゃない」
「……あぁ、リカインか。すまない、色々とあって、な」
 詫びの言葉をかける馬宿の隣に、リカインが立つ。女性としては大柄な部類に入るリカインと男性としては普通の馬宿は、並ぶとそれほど背丈は変わらない。故にお互い、横を向くだけで視線が合う。
「馬宿君を不調にさせている、例の族の影響?」
「聞いていたか。まったく、騒がせてくれる。
 ただの族でも厄介というのに、関わりのある者がいるとなれば、我々が動く必要があった」
「モップスもそうだし、えっと、姫子君だっけ? 讃良君と元が同じ英霊だっていう」
「……ああ。今回で決着がつけばいいが……」
 歯切れの悪い回答を返す馬宿を見、リカインはそれ以上問い詰めることはしなかった。
「君は教室には参加しないのか?」
「うーん、確かにお世辞にも得意とは言えないレベルだし、参加した方がよかったような気もしたんだけど。
 ほら、体調がよくないにもかかわらず、豊美君に付き合ってわざわざイルミンスールまでやって来た人のことを心配しにきたわけよ」
 少々回りくどい言い回しではあったが、馬宿はそれが自分のことであるのを即座に把握する。
「そうか、それは……そうだな、ここは素直に礼を言っておこう。ありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」
 そのまま二人、特に言葉を交わすでもなく、近付く春の風を浴びながら流れる時に身を任せていた。

「おや、あなたは……今日は御神楽さんは一緒ではないのだね」
 自分の所に近付いて来た人物、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)が声を掛ける。
「はい、今はエリシアとノーンと一緒に、宿屋にいます。仕事が重なって随分と疲れているだろうから、何か元気の出るものを作ってあげられればなと」
「そうか、それならクリームシチューなんてどうだい? 春が近付いているとはいえまだ寒い、じっくりと煮込んだクリームシチューは身体を温めてくれるよ」
「クリームシチュー……いいですね。ぜひ、教えてもらえますか?」
「もちろんだとも。……エイボン、私が席を外している間、ミリアさんのサポートを頼むよ」
「ええ、お任せ下さい、兄さま。務めは果たしてみせますわ」
 エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)にミリアのサポートを任せた涼介は、陽太と共に調理場の一つへ向かい、早速クリームシチューの仕込みに取り掛かる。涼介はもちろんのこと、陽太も普段から家事を多くこなしていることもあって、二人は手際よく準備を進めていく。
「こうして一度、涼介さんとはお話してみたかったんですよ。同じ時期に結婚した縁というか、親近感があって」
「私もあなたのことはよく話に聞く。元蒼空学園の校長を迎え入れたことは、色々と大変だったのではないかい?」
「大変なんてことないですよ。俺は環菜を幸せにしたい、支えてあげたい。そのために必要だと思うことは全て、やってあげるつもりですから」
「ははっ、これは実に頼もしい。パワーでは私が負けてしまいそうだ」
「若さで突っ走ってるだけかもしれないですけどね。もうあと数ヶ月で二十歳になるっていうのに」
「……おや、そうだったのか。若く見えるからもっと下と思っていたが、私と同じとは」
「あれ、そうだったんですか? てっきりもっと年上かと思ってました」
 そう、実はこの二人、同い年である。外見は陽太の方が数年幼く見えるが、誕生日で言うと陽太の方が一週間だけ先輩なのである。
「同い年であるなら、変に肩肘張る必要はないかな? 互いに呼び捨てにしあうのもいいかもしれない」
「そんな、それはちょっと俺の方が抵抗ありますよ。実際、涼介さんの方が大人びて見えますし。
 涼介さん、と呼ばせて下さい」
「なるほど、では私は陽太君、と呼ばせてもらおう。
 君の言うようにこれも縁というもの。これからもよろしく頼む」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
 二人が交流を深めた所で、鍋からふわっ、と良い香りの漂う蒸気が漏れ始める。
「さあ、クリームシチューがもうじき完成だ」
「楽しみですね……わ、涼介さん、なんか俺達すごい注目されてますよ」
 見れば確かに、二人の周りには良い香りに釣られて、数名の参加者がクリームシチューの完成を待っているようであった。
「おやおや、すっかり期待されてしまったようだ。
 ではご馳走がてら、今まで料理をしたことがない人にも料理に興味を持ってもらえるよう、働きかけてみるか」
「お手伝いしますよ、涼介さん」
 そして二人は、クリームシチューを振る舞いながら参加者の質問に答えていく。