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家に帰るとゴンザレスが死んだふりをしています。

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家に帰るとゴンザレスが死んだふりをしています。

リアクション

     ◆

 大食堂とリビングは、それこそ大きな扉を隔てた一枚壁であり、その間に備えてある壁も、扉を開けば大きな広間へと姿を変えるのが、彼女の家が訪問者全員が驚く由縁であり、この時はその扉を解放していて、自然、リビングと大食堂が繋がっている形を取っていた。
 食事も一段落着いたのか、一同は席を立ち、倒れている綾瀬の元へとやってきていた。
「そうだ。そろそろ晩飯も終わったところだし、僕も本来の役割に戻るとするよ」
 言いだしたのはカガチだった。
彼はそう言うと、数人が疑問の眼差しを向ける中、キッチンへと戻って行く。
「なぁラナ、あいつ何しに行ったんだ?」
 未散の問を受けたラナロックは、別段何を思うでもなく、普段通りの穏やかな笑顔のままに答える。
「死にに」
「……え?」
「いや、だから死にに」
「……どうしたお前どっかに頭でも打ったか」
 「ああ、成程。この子はイタイ子だ」と言う眼差しでラナロックを見つめながら、未散は棒読みの後に口を閉じた。
「さぁ皆さん! 大変です! 殺人事件が起きましたよ! ほら! 怪奇殺人のオンパレードですよ!」
 ウォウルが突然、そんな事を言い始めたものだから、とりあえず事情を知らない一同が言葉を失う。
「ウォウルさん、何故そんなに嬉しそうなんですか?」
 衿栖は驚きながらウォウルへと声を掛ける。
「何を言ってらっしゃるのやら……僕は他人の死を楽しいと思った事は、今までほんの少ししかないんですよ? コリスさん」
「可愛いけども! 私はリスではありません! 衿栖です! エ・リ・スっ!」
「おっと失礼」
「衿栖さん。とりあえずツッコミを入れるのは其処ではないですよ、少なくとも今の発言はもう少し重要な箇所がありました」
 二人のやり取りに、淡々と希鈴が言う。などとまあ、そんなこんなのやり取りをしている傍。しかし誰もが倒れ、地面に突っ伏している綾瀬に意識を集中しているが為に気付かれずにいる如月 正悟(きさらぎ・しょうご)は、訝しげに綾瀬の飲んでいたティーカップを覗き込んでいた。
「確かに……これはこれで面白そうなんだけど、何で俺がこんな事をせにゃならんのだろう……」
 独白。まさしくそれは独白だった。誰にも聞こえない様に小さく、しかしはっきりと彼はその言葉を口にして、意を決してその紅茶を飲み干す。

「うーわー! あ、この紅茶ちょっと美味しい……」

 叫ぶ。 そして倒れた。
「うわっ! 棒読みだ! って言うか何で毒が盛られてるのわかってて飲んだ!?」
 綾瀬の近くで随分な人数が集まって威からか、その人波を押し退けて漸く表にやってきたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)が早々にツッコミを入れる。
「新たな事件が!?」
「ウォウルさん! そんな劇画調で驚きのリアクションをしている最中であれだが、今確実に彼は自らの意志で以て被害者になったぞ!」
 更に続くエヴァルトのツッコミ。
「何と言うかその……元気ハツラツ、エヴァルト殿! ですな!」
 さわやかな、実に爽やかすぎる笑みと純白の歯を輝かせ、彼の隣にやってきたハルが親指を突き立てた。
「良いから早くこの怪事件の真相を突き止めろよ!」
 元気ハツラツ、エヴァルトさん――ではなく、既に元気ではないはずの正悟君のツッコミだった。
「んだよこの面倒事はよぉ………人が折角いい気分で酒食らってるってぇのによお……説明しろよ、ラナロック」
 眉間にこれでもか、と、目一杯に皺を寄せながら、後ろからアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)がラナロックたちの元へとやってくる。彼の左斜め上にはウーマ・ンボー(うーま・んぼー)、そして彼の服の袖にはペト・ペト(ぺと・ぺと)が張り付いていて、彼等はそのままにウォウル、ラナロックたちの近くへと歩み寄る。と――
「あ! ベアちゃん! 犯人が分かったよ! あの人だ! 全部あの人がやったんだよ間違えないよ! って事でぇ――」
「あ、美羽さ――」
「一杯居るから割愛するけど――これはみんなの分!」
「端折り過ぎだー!」
 アキュート目掛けて駆け寄る美羽に、エヴァルト、正悟の合体ツッコミが入ったりする。
が、そんな事などこの際気にしない彼女は、思い切り足を振り上げ、アキュートの首へと蹴りを放った。とりあえず、の行動だろう。
「っておおおおおい!!! いきなりかよ!」
 近くに飛翔(と言うか寧ろ浮遊)していたウーマの背びれを掴んだアキュートは、美羽から放たれる殺人キックと自らの首の間にウーマを上手に滑り込ませ、彼女の蹴りの威力を吸収した。
「な、何故だー!」
「ちぃ!」
 蹴りを止められた美羽は、ちょっともう女の子としてはどうなの、と言う表情を舌打ちと共に向け、蹴りの反動を利用してアキュートから距離を取る。
「舌打ちしたよ! ねぇ小鳥遊さん確実に殺そうとしたよね!? ねぇ!」
「くっ……負けん! 俺とてツッコむぞ! 俺とて死んでいる筈の男に負けてなるものかっ! うおぉぉぉ!」
 正悟とエヴァルトは、ある意味熾烈なバトルを繰り広げている。
「人殺しは駄目なんだよ!」
「いや! 今絶対お前俺の事殺すつもりだったろ! ってか今の当たってたらマジでやばかったぞ!」
 盾として利用したウーマを振り回しながら怒りの咆哮を吐き出すアキュートさんも、もう立派な殺人(笑)犯である。
「美羽さん! ちゃんと事情を聞かないと……犯人さんだって、きっと理由があるんです」
「俺を勝手に犯人にするなよっ!」
「そうだね、ベアちゃん」
「いや、話全然聞かないね! もう完全にアウェーだね!」
「アキュートさん。私、貴方へのご恩は一生忘れません。そう、例え貴方が凶悪な殺人犯だったとしても……私は貴方を……」
「待てまてまて! 俺はもうそう言う役回りになったのか!? そうなのか!?」
 とまぁ、こんなパニックがこれから十五分続き――。
「ごめんなさい。あまりにも悪そうな顔の人だったんで」
「すみません。美羽さんが本気だったのでつい……」
 美羽とベアトリーチェは殊の外懸命にアキュートに頭を下げていた。
「あぁ……まぁ、そりゃあいいんだ。わかってくれりゃあ、それで……よ」
「そうですわよ。 彼、とても心が広い方ですの」
「マテ。オマエモアヤマレヨ」
「あらあら、アキュートさん。また凄い顔になってますわよ」
「誰の所為だよ!」
 どうやら一部で持たれていた『アキュートが犯人説』はこうして収束した訳であり、そしてすべてが振り出しに戻る。
「時にアキュートよ」
「なんだよマンボウ」
「それがしには謝罪はないのかね」
「ねぇよ」
「うむ。そうか! ならば良いが!」
 多分わざとだった。わざとアキュートの前に現れたウーマが、もうそれは全力に、持てる全ての力を以て――発光した。
「ペト、眩しいです」
「馬鹿野郎! 光るな! 無意味に光るんじゃあねぇとあれほど!」
「いつもより余計に光っているぞ!」
 これでもか、と言う発光には、流石にアキュート、ペトだけではなくその場の一同が顔を覆った。
「よし、このくらいでよいだろう。それよりもアキュートよ」
「………」
「それがしはちと厠に行ってこようと思う」

 「……っ!?」

 彼の発言に、一同が目を丸めた。驚きのあまり、もう目を見開くしかなかったわけである。そしてその場全員の驚きと言うか疑問を、ある種言ってはいけない最高のツッコミを、彼は述べるのだ。

「おまえ……トイレ行くのか! ってか厠なのかよ!」

 最後はやっぱり、元気ハツラツエヴァルトさんだった。



「うわぁ! 遅くなっちゃったよぉ! どうしよう、皆もう凄く盛り上がってるのかなぁ……なんかこう、盛り上がってるところにお邪魔するのって、どうもあれなんだよね……」
 言いながら、いそいそと屋敷へと足を踏み込み、勝手知ったる体で足を進めているのは琳 鳳明(りん・ほうめい)だった。彼女は以前にこの屋敷へとやってきている為、道はわかっているらしい。何に目を取られるでもなく、目的地目掛けて一目散の彼女は、一枚の扉の前で足を止め、服装チェックをした。
「訓練の後で急いできたからこの格好のまま、なんだけど……大丈夫だったかな……心配だなぁ。皆お洒落してたらちょっと気が引けるし……でもでも、こんなところで悩んでてもしょうがないし、もしそうなったらラナさんに服……借りれないかぁ。あの人小柄だからなぁ……」
 ひとりそんなことをゴチりながら、しかし意を決して扉に手を掛け、ゆっくりとそれを押した。中に広がっていたのは――何だかよくわからない光景。と、彼女のパートナーで
あるヒラニィが真っ先に彼女を見つけたのか、慌てて走ってくる。
「ちょうど良かった! 鳳明、来い!」
「え……え? え!? 何なに? 何かなっ!?」
「説明は後じゃ! 兎に角来い!」
 半ば強引に手を引かれ、来て早々に転がる無数の亡骸(役の人々)のもとへと連れて来られた鳳明。
「何……何この惨劇。え? なんか一杯人が倒れてるけど……」
「そう、これは殺人事件じゃ! そして鳳明、ぬしの出番なのだ! さぁ、解決しろ! 早く、ほら早く!」
「いきなり何言いだすのさ!? 私まだ全然状況が見え――」
「そんなもん要らんし! とりあえず犯人は誰」
「え」
「もーう! 折角わしが鳳明に活躍の場を設けたと言うに……早く! もっと早く!」
「いやいやいや! ってか何で急かされるのさ!」
「早くしなければ次の犯行が行われてしまう! だから早くしろって」
 悪そうな顔だった。焦っている、真剣そうでいる、と言う表情のヒラニィはしかし、何処か黒い物を纏っていた。
「そ、そっか」
「納得しちゃうんだね!」
 返事を返した彼女の近く、横たわっている正悟のツッコミに、本気で驚いたのか、短く悲鳴を上げた鳳明。恐る恐る正悟へと近づいて行くと、彼の顔をまじまじと見つめる。
「今……声がしたよね?」
 下を俯き、小刻みに肩を震わせる一同。
「え、何違うの? ほんと? ただの空耳だったのかな……。だってそうだよね、皆お友達がこんなになってたら……うん、そうだよね」
 素敵な自己解釈で停止した思考。と、キッチンからは美味しそうなサラダを持ってレンが登場する。
「来たか。粗方みんなで夕食は済ませてしまったからな、お前たち後から組の分だ。此処に置いておくぞ」
「レンさん! ちょうどいい所に! この状況、一体何が……」
「ん? あぁ、俺は知らん。何が面白いんだか……と、何でもない。そう言えばさっき、キッチンにも一人転がってたぞ」
「キッチンにも!? ってかレンさん何でそんな平然としてるの!?」
「いちいちおたおたしてると、お前たちの夕食が作れんだろう?」
 しらっとした様子で、開いているテーブルに持っていたサラダを置き始めるレン。と、その後ろからは陽が、魚と野菜が彩良く盛られている大皿を持ってやってきた。どうやらその魚、食べる前に皮を切ると何やらサプライズがあるのだろう。手にはデザートナイフサイズをやや大きくしたような包丁を手にやってくる。
「あれ、どうしたの? って、えぇ!? 何この事態!」
 大声を上げて驚く陽。が、彼は此処で致命的なミスを犯してしまったのだ。キッチンにいた彼等はこの場の状況を全く理解出来ていないままにやってきた。レンはサラダのみを両手に持っていた為にあれだが、しかし陽は違うのだ。しっかりとその手に、落とさない様に力強くその手に、凶器となるものが握られているのだから。
「このタイミングで!」
 震えていた内の一人――セレンフィリティが思わずツッコみながら吹き出す。
「え、何? え……え?」
 かわりばんこだった。この状況を見回し、自分の手にするそれを見て、更に状況を見て、手にするそれを見て。繰り返す事五回半。
「ち、違うよ! 僕じゃないんだ! 僕はただ!」
「鳳明! 犯人検挙じゃ!」
「駄目だよ! 相手は武装しているよ! 素手で行くには危ない! しかもこれだけ功名な手口なんだ……あれだけではなく、何かを隠し持っているかもしれない!」
 真剣だった。兎に角一生懸命だった。だから隣にいて、だから口火を切ったヒラニィが地面に倒れる。笑いが堪えられなかったらしい。僅かに震えながら倒れるその様を前に、全く状況を解していない鳳明が目を見開き、慌てる。
「そんな……ヒラニィちゃん、までっ!?」
「え、僕何もしてないよ!」
「そんなの嘘だ! ヒラニィちゃんに何をしたの!」
「え、待ってよ……どういう――」

 途中参加――永井 託選手。

「あれほどやめろと言ったのに……僕の忠告を無視してまで、やる事だったのかな」
「え、託君まで!?」
「此処まで来て逃げるのは往生際が悪いってもんだよ。陽君」
「えー……それより、ちょっとこのお皿置いてきていい? 手が疲れて来ちゃった……」
「あ、うん。それはいいよ」
「ありがとう」
 緊張感が一気に途切れ、一同の震えが更に強いものとなる。
「鳳明さん。彼が恐らくは全ての犯人だよ」
「え、そこから?」
「うん。これはもう――残念だけど現行犯だね」
「待ってよ! 何もしてないし、ヒラニィさんも僕じゃないんだってば!」
「言い逃れは出来ないよ、陽君」
「でも、託さん。動機がないよ?」
「動機なら充分さ。彼は料理が得意なんだよ。自分が好きな事って言うのは、何でも打ち込んでみたくなるもの。そうでしょ?」
「確かに……」
 鳳明と託の迷推理が始まった。っていうか結構強引な推理、らしきものが始まった。
「彼はね、新しく買った調理器具を試したかったんだ……。それを以前から相談されていたんだよ。僕は」
「まさか――それで」
「そう、そのまさかだ。骨まで切れる包丁を買ったから、これで鮭の切り身も、鯵も簡単に調理できるよ! ……彼はそう、嬉々として僕に言ってくれた。なのに……なのに!」
「……言ってないし、買ってないよ……」
「でも待って、それだったらヒラニィちゃんはどうやって……」
 恐る恐る、鳳明が陽からヒラニィへと目を向ける。尚も震えるヒラニィの姿が、其処にはあった。
「それはね……以前に調理した時に取ったフグの毒袋を使ったんだ」
「! 僕フグの調理資格とか持ってないよ!」
「そうだったんだ……陽さん。悪い事は岩内から、ね? 今ならまだ、間に合うから」
「何が!? 何が間に合うの!? これ僕が今『うん』って言っちゃったら……なんかいろいろと取り返しのつかない事に成りそうだよ! フィリス、黙ってないで助けてよ!」
 話を突然に振られたフィリスは、真剣な顔で陽の横に立つと肩に手を置き、寂しそうな笑顔を浮かべてからサムズアップを顔の横へと持ってきて言った。
「どんまい。お前、もうおしまいだよ」
「何で!? 此処に来て最高の裏切りだよ!? って僕も何を口走ってるの!? 違うんだよ、今のは――」
「何よりの自白だね。ありがとう、陽君」
「託君……何故そんな――」
「話はあっちで聞くからさ」
 託、鳳明に両腕を拘束され、陽が連れ去られていく。と、今まで倒れていたヒラニィがすっくと立ち上がり、目にも止まらなぬ速さで三人の前に回り込んだ。手には何やら、持っている。

「っ!? ヒラニィちゃん!?」
「これを見よ! 鳳明!」

 輝く(様に見えているだけで実際は光ってはいないが)それを鳳明へと向けるヒラニィ。
それは一枚の看板で、其処にはしっかりと、何とも古典的な例の文字――『ドッキリ大成功』の文字が。
「………はい?」
 ゆっくりと隣を見ると、悪そうな笑顔をしている託と、大きくため息をつきながら、そんな託へと頬を向からせて睨みつける陽がいた。
「え……うそでしょ?」
「ホント」
 看板を再び見た鳳明。と、看板で隠れていたヒラニィの、これまた何とも悪そうな顔を見つけたらしい。勢いよく陽を掴む手を離し、拳を固めてヒラニィへと迫って行く。
「こらっ! 真剣に驚いた上に、ちょっと泣きそうだったんだよ!? どうしてこんな事するのさっ!」
「えーやつあたりー」
 がしっとヒラニィの頭を掴む鳳明。
「だって、酒が飲めないとかマジないし。だからな? ちょっと悪戯」
「………ヒラニィちゃん。ねぇヒラニィちゃん」
 この場の一同は、初めて人間が大爆発を起こした瞬間を目撃した、最初の存在になったことは言う間でもない。