イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

家に帰るとゴンザレスが死んだふりをしています。

リアクション公開中!

家に帰るとゴンザレスが死んだふりをしています。

リアクション

     ◆

 それから数十分後、と言う流れ。
リビングには結構な人数が集まっていたりする。また、入浴していた面々も戻ってきた為にそこは更に盛り上がっていた。
その中、永井 託(ながい・たく)はウォウルに入れて貰った紅茶を飲みながら一同に挨拶を終えたらしく、辺りをただただ見回していた。
「へぇ………ラナさんの家、こうなってるんだねぇ。すっごく大きなお屋敷だから、最初はビックリしたんだけど、まぁあれだよね。家、とかじゃなくてどっかのホテルとか思っちゃえば、そうでもないのかなって感じだね」
 さらっとそんな事を言いながら、指を掛けていたティーカップを口元へと運ぶ彼。内容物を一口啜ると、彼は思いだした様にウォウルを向いた。
「そう言えばウォークさん」
「はい?」
「(え、そこノーリアクション?!)体の具合は……どうなのかな? モーフさん」
「ええ、お陰様で。何とかなってますね」
 笑顔で返事を返すウォウルは、託のボケをスルーした。
「あれ、んで俺はぁ……このお二方は初めまして、だったよねぇ」
 二人のやりとりをニヤついた笑顔で見ている東條 カガチ(とうじょう・かがち)は、風呂上りと言う事、そしてゴンザレスを失った事によって呆然としているラナロックの視界へと入って彼女に手を振った。
「そうですね。初めましてですわ……私はラナロックです。お好きに呼びください。今日は遠路遥々……かは存じ上げませんが、お越しくださいまして本当にありがとうございます。どうか是非、楽しんで行ってくださいね」
「随分と棒読みなのだな。それに、楽しんで行ってくれ、と言う割には自分があまり楽しそうではないが……まぁ細かい事は良いか。それで? どうしておまえはそんなに呆けている」
「うぅ……うぅ! ゴンザレスぅぅ!」
 東條 葵(とうじょう・あおい)の言葉を聞いたラナロックは、ふと思い出したかの様に泣き始め、今度は一同がいるところからやや離れた、しかし同じ部屋の中にあるソファへと駆けて行く。
「なぁなぁ、この状況がわかる人がいるんならさぁ、是非とも俺たちに今の状況教えてくれたら嬉しいんだけどねぇ。君、知ってる?」
 カガチが不意に、託へと声を掛ける。
「いや、僕も知らない。だってそうでしょ、君たちと一緒に此処に着いた気がするんだけどねぇ……?」
「おっと、そいつぁそうだ。ごめんごめん」
 二人が二人でのんびりと、そんなやり取りをしている。
「そうですよウォウルさん。あちきたちもまだ細かな詳細とかを教えて貰ってないですけどねぇ」
「ま……言葉の代わりに銃弾なら、結構貰ったけどね」
 頭にタオルを巻いている二人、レティシアとミスティが隣に佇むウォウルを、何処か恨めしそうに見やった。
「いえいえ、悪意はなかったのですよ。ただ、貴女方があまりにも良いリアクションを取ってしまったんでね」
「他人の所為にするのは良くないですよ、ウォウルさん」
 ウォウルの発言に対して、雅羅が呆れながらそう言うと、隣でレティシア、ミスティがうんうんと頷いた。深々と。
「じゃあ、さっそくどういう状況か説明して貰おうかな。ね? モールさん」
「そうしますか。では皆様、とりあえずお座りくださいよ。今からお話しますので。お飲み物は、どうします?」
 立っている面々を席に促す彼に向かい、頭にタオルを乗せていたカノコが肘を机に着き、体を乗り出してウォウルへ言う。
「毒が入ってなきゃあなんでも! あ、でも紅茶美味しかったからもう一杯貰おうかなっ!」
「んー……私はオレンジジュースが良いかな! あ、でもお風呂上りだから……珈琲牛乳だよね! 此処はやっぱり!」
 考えながら、と言った様子だった美羽も、どうやら結論に達したのか元気よく飲み物の注文を出す。
「私は紅茶でいいですよ。今色々と頼むのもあれですから。それにウォウルさん――」
 ベアトリーチェがにっこりと笑って彼の名を呼ぶ。
「毒入れたら、一緒に逝きましょうね? 大丈夫です、一思いに、人想いに断ってあげますから。未練とか命とか体とか、色々と」
「だから笑顔笑顔! ベアちゃん怖いよっ!」
 ウォウルが苦笑するのを見ながら、ベアトリーチェが席に着いた。
「さて、じゃあ皆さん。そろそろ話しておくとしよう。あぁ、皆さんに出した飲み物には毒とか混ぜてないから、安心して飲んでください」
 そうウォウルが言い終ったところで、リビングの扉が開き奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)雲入 弥狐(くもいり・みこ)がやってきた。
「うわ、中も広いねぇ!」
 弥弧が元気に飛び跳ねながらやってきたのに対し、沙夢は静かに、どころか少し警戒した様な面持ちでやってきた。
「お邪魔します」
「おやおや、いらっしゃい。丁度良い所に来たね、ささ。君たちもそこに座ってください。これから丁度、今起こっている事を説明しますので」
「今起こっている事……? それは玄関で伸びていた毛むくじゃらのあれと何か関係あるのかしら」
 沙夢がさっそく、その話題に触れる。
「そうですよ。いやね、この家の主であるラナロック……ああ、今あっちのソファで伸びている彼女なんですがね。彼女が大事にしていた熊のぬいぐるみ(笑)である『ゴンザレス君』が、我々が買い物から帰ってきたとき何者かによって殺害されていたのですよ。そして皆さんには、これからそれを解いてもらいたいのです。ああ、とは言え、これは強制しません。それに正直なところ、パーティを盛り上げる演出なので乗って来れる方のみでかまいませんよ」
「へぇ……何だか変な話だけど、まぁ良いわ。わかった、乗ろうじゃない。兎に角あれが、まあ生きている物、もしくは生きていた者、として仮定すればいいんでしょ?」
「そういう事です」
 沙夢の要約に頷いたウォウルが、現状わかっている事をつらつらと述べ始め、数人はそれを真剣に聞き、また数人はぼーっとしながらその話を聞いていた。
「なるほどね。じゃあ完全な密室殺人、ではないけど、限りなくそれに近い。って、そういう事ね」
「そうなるのかな、やっぱり。でもベアちゃん」
「なんですか?」
「どうやってそのゴンザレスさんを殺害したのか、って言うのはまだ手がかりそのものがないから置いておいても、精々ゴンザレスさんが殺害された動機とかは、まぁ探してみた方がいいのかな? ほら、こういうのってよくわからないからさ。疑わしい人をかったぱしから疑って行く、って言うのが良いんでしょ?」
「まあ……そうですよね」
 真剣に話している彼女たちを見ていてか、カガチがポン、と手を叩き立ち上がる。
「時間も時間だね。ほら、腹が減っては何とやら。って言うじゃない。だから此処で、晩御飯前の前菜でも食べてみる? スープとかまでなら結構自身、あるんだよねぇ、俺」
「ならば私も手伝おう」
 カガチに続き、葵も立ち上がった。
「おお! なんか凄いのが出来そうやね! カノコそっちのが楽しみやぁ!」
「あはは、まぁそんなに早くは出来ないと思うけど、考えが似詰まる頃にはお鍋の方が煮詰まってると思うからさ」
「上手い事言ったところで悪いが、鍋が煮詰まっては困るのではないか? 折角の味が台無しだ」
「あ、そう言う細かいツッコミはなしだよ」
 カガチと葵の短いやりとりに笑顔を溢しながら、一同は彼等をキッチンへと見送った。
「さて、ではゴンザレス殺害の事について、もう少し皆さんで詰めてみましょうか」
 ウォウルが改めて、と切り出した時である。インターホンが数回鳴った後、扉の開く音がした。数人――否、結構な数の人数がやってきたのだろう。足音は複数あった。
「お邪魔します! やー! ラナちゃんのお家はおっきいって聞いてたけど、ほんとにおっきかったんだね! ビックリしちゃった!」
「こらノア。いきなりそんな事を言うやつがあるか。と言う事で、今日はパーティだそうだからな、俺も存分に料理の腕を振るうとしよう。ところでウォウル――」
 レンとノアの姿だった。レンがウォウルへと質問を投げかけようとした時、更に後ろから声が響いた。
「お久しぶりです。ウォウルさん、あれ……ラナさんは……」
「やあ。って、結構もう集まってるんだね」
 レンの後ろからひょっこり顔を出したのは柚と三月だった。二人は辺りを見回しながらそんな事を言うと、レンの陰から出てくる。
「お邪魔します。僕もレンさんと一緒に料理を頑張ろうと思ってます。楽しいパーティにしましょうね」
「陽、んなこたいいんだよ。それよりも、だ。なんで玄関にへんな毛むくじゃらが転がってんだ?」
 丁寧に挨拶をする陽と、対照的に腕を組み、さっそく考え込んでいるフィリス。一同が改めて今やってきた一同へと挨拶し、事の事情を代わる代わる説明し始めた。

「なるほどな。まぁそれは良いとして、早速だがウォウル。キッチンを借りるぞ」
「どうぞ」
 陽から買い物袋を受け取ったレンは、座る間もなくキッチンへと向かった。向かって足を進めていた時である。
「カガチ! 大丈夫かカガチ!」
 先にキッチンへと言っていた葵の叫び声。一同は慌ててキッチンへと向かった。
「こ、これは!」
「新しい事件だね! にしても凄い……無残な姿だね。合掌しなくちゃっ!」
 キッチンに倒れているカガチに向かい、美羽が合掌して瞼を閉じた。
「どうしたんだよ」
 至極面倒そうにフィリスが葵に尋ねると、葵はキッチンに突然何者かが現れ、カガチに包丁で切り付けて去って行った。と説明し始めた。
「なるほど。そういう事ですか」
「ウォウルさん。なんだかこれは、大波乱の予感がしてきたねぇ……」
 託も苦笑し、一同を見回した。
「……これもなのか?」
 無表情、冷淡なままにレンが言うと、ウォウルは何とも愉快そうに頷いた。彼の言葉を肯定した。だからだろう。
「ならばいいか。ちょっと失礼するぞ」
 しゃがんだ彼はそのまま、倒れているカガチをキッチンの端にまで押しやり、料理を始める。
「飯が出来たらそちらに持って行こう、手間取ったら申し訳ないが、なるべく早い目に作って持って行くよ」
「お願いしますよ。パーティの要は料理なのですから」
「知っているさ。俺を誰だと思っているやら」
 彼はそう笑うと、ウォウルに手で「あっち行け」と追い払う動作をする。
「それでは、新たな犯行も増えた事ですし、僕たちは元いたリビングに戻るとしましょう。
「ねぇねぇ! 何か手伝うことない!?」
 ノアが元気よくレンに尋ねるが、彼は「お前も遊んで来い。少しは楽しんでこいよ」とだけ言うと、以降黙々と料理を始めるのだ。
「レンさん。さっそく何か手伝わせてください!」
「陽、お前ほんとお人好しだよな。オレはあっちで適当にやってんぞ」
「うん! フィリスも楽しんできてよ!」
「んー、まぁそうだな。ぼちぼちやっとくよ」
 後ろ手で彼に手を振るフィリスと二人に笑顔で手を振っていたノアがキッチンから離れて行く。
「なんだ……これ、ばらばらにすれば完全な証拠隠滅が出来ただろうに。我ながら失敗したな」
「おーい。死体ったって死んでなからなぁ。聞こえてるよ、葵」
「何、気の所為さ。さ、俺も何か手伝うとしよう」
 葵の言葉にツッコむ死したはずのカガチ。が、それは全く動じなかったかしく、葵はレンたちと晩御飯の仕度をし始めるのだ。