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家に帰るとゴンザレスが死んだふりをしています。

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家に帰るとゴンザレスが死んだふりをしています。

リアクション

     ◆

 屋敷内――リビングには泣きじゃくるラナロックがいて、思わず動きを止める雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)がいて、さしてリアクションをしないウォウルがいて――。

「御機嫌よう、皆々様」

 笑顔で紅茶を啜る中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)の姿があった。
「おや、これはこれは。綾瀬さん」
 買い込んでいた紙袋を徐にテーブルへと置いたウォウルが挨拶をする。
「雅羅様に関しては良いリアクション。なのですが、流石にウォウルさんは詰まらないですわね」
 良いながら優雅にカップをソーサーに戻す綾瀬。彼女の着用している漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)が数度、何処からともなく吹く風に揺れた。
「それはそれは。ご期待に添えて何よりですよ」
「ところで皆々様。何故ラナロック様はお泣きに?」
 恐る恐る、と言った体でウォウルに倣って紙袋をテーブルに置きながら、雅羅が肩を竦めた。
「帰ってきたらゴンザレスさんが倒れていて、で、良いんですよね? ウォウルさん」
「えぇ。合ってますよ」
「ゴンザレス?様……ですか」
 要領が掴めてないのか、綾瀬は小首を傾げながらにラナロックへと顔を向ける。
両の眼は閉ざされて、どころか表面に露出していない為にその表情は掴みにくいがしかし、それにしても彼女の疑問は明白だった。
「ゴンザレスは……ゴンザレスは……どんな時では私を一人ぼっちにはしなかった……そのゴンザレスが、さっき――」
「と、まあこんな感じなんですよ。まいっちゃうでしょう?」
 ウォウルは苦笑ながらにそう繋げ、やれやれとばかりに席へと着いた。
「そうだ、雅美さんも疲れたでしょ。とりあえず休憩しましょう。ラナ、君もね」
「え、あ……はい」
「………うわぁーん、ゴンザレスぅ!」
 彼に言われ、雅羅は席に着き、ラナロックは机に飛びつかんばかりに座ると、机に突っ伏して大泣きし始める。
「ラナ先輩……元気出して」
「あらあら。何だか大変な事になってますわね」
 雅羅、綾瀬が困惑の表情を浮かべてラナロックを見ると、タイミングを計ったかの様にリビングの扉が開け放たれる。結構勢いよく。
「ちゃお! 皆さんご機嫌麗しくぅ! って、あれまぁ……これは何事でしょうねぇ」
「ちょっとレティ……なんだかそんなテンションの登場は不味い状況みたいだけど……」
 現れたのはレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)。突然の登場にウォウル、雅羅、綾瀬が二人の方へと目をやった。
「いらっしゃい。お二人とも」
「んー、これは一体どういう状況なのか、説明して貰いたいんですけどねぇ、ウォウルさん?」
 良くわからないポーズのままに硬直しながら、レティシアがウォウルへと目だけを向けた。隣のミスティとしても、どうやらこの状況には些か困っているらしく、レティシアの陰に隠れる様にしておどおどしているだけである。
「どういう状況、と言われましても…ね。そうだ、一先ずお二人とも、玄関を見に行ってみてくださいよ」
「玄関?」
「ですか?」
 そこはしっかり分担して台詞なんかを言ってみたりする二人が、ふと玄関へと目をやり、「暫しお待ちを」と言い捨て、彼等の前から姿を消す。
 数える事、二十六秒後――。

「うわっ! 何これムサっ!?」
「ひぃ!? 熊の着ぐるみ着たむっきむきのマネキンがっ!?」
 レティシア、ミスティの声だった。
(因みに前者がレティシアの感想、後者がミスティの感想である事は言うまでもない。)
「おや? どうしました? ラナ」
「………」
 今まで突っ伏していたラナロックがすっくと立ち上がった事に気付いたウォウルが言葉を掛けるが返事はなく、無言のままに部屋を出て行ったラナロックが何をしに行ったのか、二十六秒後には判明した。

 ※注:音声のみでお楽しみください。

「ら、ラナさん!? ちょ、何かなぁ……その綺麗なお手に握られている物はぁ………?」

 銃声――。

「レティ……何でこんな事になって――きゃあ!」

 銃声――?

「ラナさん! 落ち着きましょうよ! ねっ!? あちきたちと此処はゆっくりお話しして、それから――」

 銃声――。

「うわぁーん! 何でこうなるのぉ!?」


 数分後――。

 肩で息をしながら、何故か若干ボロボロになった二人がリビングに戻ってきていた。ラナロックは再び先ほどの場所で机に突っ伏し泣いている。
「で、まぁそういう事です」
「……いや、意味わからないですからねぇ……」
「怖い……やっぱりラナさん怖い……!」
 席に促され、息も絶え絶えに席へと着いた二人が改めて彼等を見渡す。
「えっとぉ……要は、あの熊の着ぐるみを着たガチムチマッチョのマネキンさ――」
 随分と硬い音が響く。そう何か――何か撃鉄の起きる様な、そんな音が響いた。
「も、もとい……ゴンザレスさんが何者かによって殺害(?)された、んですよねぇ?」
「その様ですわ」
「私には今いち現状理解、出来ないけどね」
 優雅に紅茶を啜っている綾瀬と、此処でのやり取りをただただ呆然と見ているだけの雅羅が言った。
「まぁ、そんな訳なんですよ。何か彼女を励ます事が出来ればいいんですけどね」
 ウォウルの言葉に暫く考え込む一同。と、眉間に皺を寄せていたレティシアがふと、何かひらめいたらしく手を打った。
「そうだ! ラナさん! 何をするにしても、まずは真っ新な状態にするのが良いですよ。ねぇ?ミスティ?」
「真っ新?」
「……?」
「此処はあちきに名案がありますのよぉ!」
 そう言うと、レティシアは満面の笑みを浮かべてラナロックの手を握る。
「ウォウルさん、雅羅さんに綾瀬さん。少々ラナロックさんをお借りします、よ?」
「それは良いですけど。他に何か?」
「レティ?」
 突然に言葉を止めた彼女は、しかし途端に悪い笑みを浮かべ、にんまりと綾瀬、雅羅の両名を見やる。不敵な笑み――。
「そうですねぇ。イッヒッヒ。これはこれで良い感じのひらめきですねぇ……」
「レティッヒーシアさん?」
「なんでしょね、ウォウルさん。ってかそれ誰。言い辛いし。ってか読み辛いし」
「おっとすみません、間違えました」
 悪びれもせず、眉ひとつ動かす事無く返事を返したウォウルはしかし、彼女の企みが気になるのか、掌を宙に泳がせて彼女の言葉を待つ。『細かい詳細を』と言う意味合いのそう行為。
「いえね、真っ新にするんですよ。心も体も、ね」
「ほう」
「更にいうなれば、まぁあれですよ。サービスカット、というやつですかねぇ」
「ほうほう」
「むっさいヤローは置いておいて、此処には何とうら若き乙女が四人もいます」
「いますね。いや、僕がむっさいヤローかはさて置いて」
「だから心身ともに綺麗になってくると同時に、ちょっとしたサービスカットの演出が最適かとね、あちきはひらめいてしまったのでぇすっ」
「成る程。大人の事情と言うやつですね」
「ウォウルさん、レティもそうだけど、一体何の話?」
 やりとりを聞いていたミスティが肩を竦めて割って入る。
「いえいえ、それはこちらの話。ささ! 皆々様、お風呂に向けてレッツゴー」
「え、ちょっと! 何で私まで!?」
「雅羅さん、文句は言わない!」
「うふふ、あまり引っ張らないでいただけますかレティシア様。手が取れちゃいますわよ」
「あんたが言うとなんか洒落になってない気がするのはあちきだけですかねぇ……」
「レティシアさん………」
「ラナさんまで! なんですか!?」
「お風呂、反対ですわよ」
「…………」
 ばたばたと、文字通りバタバタと去って行く彼女たちを、ウォウルは笑顔で見送った。


 で――ところ変わって脱衣場。
レティシアの陰謀(?)により、半ば強制的に服を脱がさせられている彼女たちの姿が其処にはあった。
「うわっ、ラナさん……そんな……」
「レティ、何処見てんのよ」
「それに綾瀬さんもなんかこう……」
「あら、それ以上言うと潰しますわよ? 主に眼球を」
 にっこりと、綾瀬は笑みを浮かべて二本の指を立てる。
「ま……まぁまぁ! ってぇ事で、いっちょさっぱりしますかねぇ!」
「レ、レティ! 女の子だけだって、ちゃんと前は隠しなさいよぉ!」
「ラナロック様……彼女、レティシア様はあんな調子ですけど、事実思考に間隔を置くのは必要な事、ですわよ」
「……はい」
「それに、最近色々あった訳ですし、此処はのんびり、日頃の疲れを癒してみては如何かでは?」
「そう……します。しますけど……」
 ラナロックが口籠る。
「あら? 何が不都合でもおありですの?」
「いえ……これこそ大人の事情と言うやつなのですが」
「ちょっとお二人ともぉ! そんなところでそんな恰好してたら風邪ひいちゃいますよぉ? あちきたちだっていい加減浴槽入りた……って浴槽でかっ!? って風呂その物がでかい!」
「レティ……あんまり声張ると反響して煩いからっ!」
 既に脱衣所からは煙で中が見えないが、どうやらレティシア、ミスティのリアクションの通り、相当大きなつくりになっているのだろう。何度も言うが、煙で全く中は見えないが。
と、口籠っていたラナロックが急にふと、笑みを浮かべる。
「まぁ、それはこの際――置いておきます」
「……………」
 綾瀬はやはり腑に落ちないのか、言葉を呑み、首を傾げるが彼女の後をついていく。
「(作者的に今後のサービスカットは限界があるから無理。と言うのは、黙っておきましょうかしら)」
 ラナロックの危惧は、がっつり大人の事情だったりする。