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水晶の花に願いをこめて……

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水晶の花に願いをこめて……
水晶の花に願いをこめて…… 水晶の花に願いをこめて……

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〜 一日目・午後1時 〜


 「一日目で随分と来たものねぇ、予想以上だわ」

日が真上に差し掛かったあたり
ぽつぽつとだが増えはじめた来訪者の姿にリネン・エルフト(りねん・えるふと)は溜息をついて呟いた

雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)が警護を名乗り出た杜守 柚(ともり・ゆず)達と共に少しはやめの昼食を終え
小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)達の用意したデザートに気持ちをほころばせていたあたりから
ぽつりぽつりと少しずつ来訪者が増え始めた
正当な願掛けの理由の者から、噂のものを一目みたいと足を運ぶ者、そのささやかなミステリーに挑む者
一斉にごった返すわけではないが【ちょっと話題にあがった、わが町の史跡に足を運ぶ】程度の足の切れなさがあり
リネンが林道を歩いてここに向かう頃には、何度かすれ違うものに挨拶をする位にはなっていた

 「昨日までは、まだ隠れた休憩スポット位だったのにねぇ」

元々憩いの場としてここを利用していた美羽が溜息をつく
それを隣で見ながら、ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)がおかしそうに返答をする
 
 「学園図書館でも資料を探す生徒さんを多く見かけました
  風土史関係なんて滅多に借りる人がいないので、司書スタッフも忙しそうでしたよ」
 「元々、雅羅さんが学校に広めたおかげで話題にはなってますからねぇ
  あちきも口コミに貢献しましたし、明日からはもっと人が来るかもしれませんよ?」
 「……ありがたいけど、あんまり賑やかになられても困るのよねぇ」

自慢げにレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)が胸を張って続くのをみて、やや困った様に肩をすくめる雅羅
だがそんな困惑など意に介さぬ勢いで、レティシアは腕をぶんぶんと振って言葉を返した

 「なにをおっしゃるやら、物事の流れを変えるには多くのヒトの注目を集めるのが第一歩なんですよぅ
  多くの大衆の協力を経てこそ、そこからアクションが始まるんです!まずはここを知ってもらわないと」
 「実際に資料整理や遺跡情報などは、いろんな方のサポートと情報交換が増えたので進んでいるんです
  明日までには学園側に提出できるレポートが、完成すると思いますよ」

端末から、このために作られた情報交換用のローカルネットのコミュニティを覗き込みながらミスティが続く
学園の掲示板経由にて、雅羅がこの場所のことを大きく宣伝したのは、この隠れたややロマン漂う憩いの場所を
最後まで有意義に利用してもらう……という目的だった

だが生来の学園の生真面目さがそうさせるのか
この噂の場所を楽しむという目的とは別に、この遺跡……せめてこの祭壇だけでも何とか保存できないか、という意識も
生徒たちの中で起こったようで、そんな者同士で手を組み、学園側に交渉すると同時に必要な資料を集めるべく
一部の生徒たちが図書館を中心に昨日から奔走をはじめているのだという
ちょっと前までその中に混じって動いていたレティシアとミスティだけでなく
リネンのパートナーであるユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)も未だ調べ者に明け暮れている

一方の交渉組の方もルカルカ・ルー(るかるか・るー)を筆頭に学園だけでなく研究組織も相手に渡り歩いている最中で
その一員であるリネンが様子を見にやってきた……という流れで今に至る
学園所属ならともかくルカルカはシャンバラ教導団
それに聞けば空京からもエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が協力を名乗り出ているというのは有難い限りなわけで
それだけでも雅羅は立ち上がった意味があったと、胸がほんのりと温かくなる

そんな彼女の胸のうちを、長い付き合いで察しているのか
その肩に触れ、アルセーネ・竹取(あるせーね・たけとり)が笑みと共にそっと語りかけた

 「さ、まだまだ生徒さんが来るのなら、こちらも動かないといけませんわ
  まだ一日目が始まったばかりです、頑張りましょう……雅羅」


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 「あったあった!これですよダーリン☆」

林道にいた杜守 柚(ともり・ゆず)に場所を教えてもらい
たどり着いた祭壇の前で浮かぶ花を指差しながらイリア・ヘラー(いりあ・へらー)が陽気に後ろに話しかける
やれやれ、と苦笑と共に少し遅れて到着したルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)は周囲を見渡し感想を述べた

 「これは思った以上に清涼な場所じゃのう
  すいぶんと噂で持ちきりであったから、もう少し世俗的なイメージであったが……成程、これはいい場所じゃ」
 「でしょぉ〜?願い事を胸に秘めた者同士がそっと訪れるにはもってこいですっ!
  まぁちょっと話が広まって人足も増えちゃったけど、ずーっと前からチェックしてたんですよっ」

褒めてほめてとばかりに頭のツインテールをぴこぴこと揺らすイリアに、よしよしと要求をかなえるルファン
その返礼にきゃーと心躍りつつ、その想い人の行為が100%仲間にたいする慈愛に過ぎない事も改めて自覚し
改めて共に(というか一方的に誘ったのだが)ここに足を運んだ意味を思い出すイリア・ヘラー【外見年齢15歳】

 (まぁ、信憑性はともかくデートだけでも十分楽しいんだけどね……二人っきりなら)

そんな舞い踊る心に、最後に舌打ちのごとくセルフでケチをつけたのは
この道中に図らずも加わった【3人目】が視界に入ったからだったが、そんな彼女の胸の内など関係なく
ゾッコンの想い人ことルファンは、飄々とその三人目様に声をかけた

 「来たか長尾、そなたも近づいて見たらどうだ?この石の祭壇もなかなかなわびさび具合じゃぞ」
 「まぁ後ほど、今はこの風景がなかなかに見ごたえがあるもので、ここで十分ですよ」

そういって3人目〜長尾 顕景(ながお・あきかげ)〜はニッコリと主に微笑む
だがその目線がさりげなく自分の方に向いている事に気がつき
その、彼曰くの【風景】に自分の様子も含まれていることを悟り、ギッとイリアは長尾をにらみ付ける
当然、向けられた側は痛くも痒くもないのか、飄々と正面から受けているわけであるが

そんな水面下の軽い火花などそっちのけで、のんびりと祭壇の上の水のたゆたいを楽しむマスター・ルファン

 「人の噂もなんとやらだが、足を運んでみてわかる事もあるものじゃな
  成る程、この様な場所なら確かに話題にもあがるわけじゃ、誘ってくれて感謝するぞ、イリア」
 「え?そ、そんなぁ〜ダーリンに感謝されるなんてぇ」

不意の感謝に散った火花が一転して花に変わり、両頬に手を当ててくねくねと喜ぶイリア
そのまま期待を込めて質問なんかをしてみたりする

 「だ、ダーリンはお願いなんかあったりするんですか?」
 「そうじゃな、武に籍を置く身としてはそなたが隣にいるだけで十分ではあるが……」

祭壇の水面に揺れる花に軽く指で触れながら、ルファンは言葉を続ける

 「できる事なら、このままずっと皆と一緒にいられたらいいのう、イリアもそうは思わぬか?」
 「は、はいっ!イリアもそう思うでしゅっ!」

何だか舞い上がりそうな想い人からの言葉に、テンションが上がりそうになるのを堪えるあまり
すっかり噛んでしまい台無し感に凹む、うら若き恋に生きる乙女(性格には魔道書)
【皆と】という言葉がつくゆえ、自分が期待してる意味での言葉でないのは重々承知しているのだが
それでも脳内変換して喜ぶ位アリだよね……不屈の恋心で復活する
その間、実に1分にも満たない見事な彼女の思考加速の間に、ルファンは花に対しての関心の程は済んだらしい
祈るように手を合わせ、もう一度指で花に触れた後、イリアの頭をぽんぽんと撫でて声をかけた

 「やはり未知というのは面白いものじゃな
  さて……せっかく来たんじゃ、森をひとまわりして行こうと思うのじゃが、どうかのう?」
 「もちろん!一緒に行くにきまってるもん!」

元気よく返答し、ルファンの腕にしがみつくイリア

 (ふっふっふ……やっぱり、愛が全てを勝るのだっ!)

つかの間の勝利を確信し、内心ガッツポーズをとるとルファンに悟られないように
飄々と一部始終を眺めていた長尾にアカンベーをして森の奥に向っていくのだった



 「いいの?何だか随分敵意バッチリの視線向けてたけど……」
 「なに、いつもの事だから心配要らない、マスターの態度も含めてな」

何となく傍で一部始終を見ていた雅羅が、そわそわと長尾の様子を伺ってみるが
当の本人は、まったく気にしない様子で二人を見送っている様だ

むしろ、どちらかというと相変わらずの主人と女魔道書のやり取りに、感心している位である
あれ程までに満点な言葉と優しさを見せておきながら、当のルファンには【親愛と慈愛】の二文字しかない訳で
それを自覚しながら、ああもアタックを続けられるというのは見事というしかない
それでもまぁ二人がそれなりに満足なら、現状のままでも幸せというのはあるのかもしれない

 「確かに、こういう場所を大事にしたいという気持ちはわかるような気がするよ
  あんな風に楽しめる場所がなくなれば、それはそれは多くの者がさぞ困るだろうな
  君達のとっている行動の理由も納得した」
 「あなた自体はどう思ってるの?長尾」
 「残念だがあまり興味は無くてね
  形ある物、場所がどこであれいずれは無くなるのだから、そんなものさ……だが」

遠くに見える仲間二人の姿を見た後、雅羅を一瞥しながら長尾は祭壇に足を向けた

 「あの二人がまたここに来たいと願うのなら、私はそれを願うべき……なのだろうな」