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リアクション
「ていやぁぁ!!」
「こんの悪党!! さっさとお寝んねしなさいよっ!!」
くるり中空で一回転した二人の蹴りが竜造目掛けて繰り出された。
「上等!!」
背負うように構え直した大剣がそれを受けた。
殺しきれなかった衝撃で竜造の体が一歩、二歩と押し戻される。
だが、それはセイニィと美羽も同じことだ。
力と力のぶつかり合い。
それによって互いに生じる隙をものにしたのは竜造だ。
両の足に力を込めて、反動を捻じ伏せる。
次いで、背に構えたままの大剣を振り下ろす。
闇雲に放ったそれではダメージを与えることはかなわない。
だが、相手の態勢を崩すことには成功した。
「――きゃっ!」
「「――セイニィ!!」」
その好機を見逃すわけがない。
今度は竜造の体が弾丸のように跳ねた。
体を低く、肉体の全てをバネに一気に加速して接敵する。
大剣は横。下段に構えたそれが地を削り砂塵を上げ、発する闘気に空気がたわむ。
だが対するは十二星華の一角。大人しく黙っているはずもない。
跳ねるように起き上がり、離脱するべく足元のプロミネンストリックが輝く。
「――させるかってんだよ!」
「――!?」
横薙ぎに叩きつけられる剣風。
それに起こしかけたセイニィの身体が再び揺らぐ。
「喰らい、やがれぇ!!」
中段から上段。無理矢理にその筋を変えた軌跡が空を震わせ、渾身の力を込めた重い一撃がセイニィに迫る。
空気が爆ぜた。
ひらり。
金の髪が、一筋、二筋――はらりと舞い散る。
セイニィの鼻先をかすめた、竜造の大剣は彼女の代わりに大地を大きく陥没させていた。
寸でのところでセイニィを助けたのは美羽の腕だ。
細い腕がセイニィの上体に回され、自身の方へと引き寄せる。
「大丈夫!? セイニィ」
「――み、美羽――」
「――くっ……」
「てめぇ!! よくもっ」
外れを悟った竜造は後ろへ飛びずさる。
そこへ、怒り心頭の牙竜が突っ込んでくる。
はらり。
黒の髪が散った。
「――くそっ――もう」
下がって態勢を整える竜造の背後からいくつものナイフが飛んだ。
その先には姫晶爆弾。勿論、煙幕つきだ。
小さな爆音に続いて煙幕が宝部屋に広がった。
煙幕が晴れた後――竜造の姿はどこにもなく。
あるのは大人しく投降した野盗たちと大量のお宝だけだった。
『終わったわよ。そっちはどう?』
「――納得いかないとこもあるけど、終わったわよ!」
仲間の通信にセイニィは不機嫌そうに応じた。
ともあれ、襲撃及び奪回作戦は終わったのだった。
* * *
「いらぬ世話じゃったか?」
「いやいや。助かりましたよ。いや、頼りになる同業者と一緒でおじさん、運が良かったなぁ」
「――――」
洞窟の入ってすぐ、車庫になっていたポイントに刹那、鉄雄、竜造の姿があった。
上に空いた横穴から撤退するつもりなのだろう。
「ふふ。また、な――次は敵かもしれんがのう」
含み笑いを残して小柄な体が消えた。
それを見送って、鉄雄も憮然とした表情のパートナーの手を引いた。
「――ほら」
「……次、だ。生きてりゃ、また機会はある……そうだよな……」
「そうそう。はい、行くよー」
羽根飾りを弄びながら、竜造はそう呟いた。
* * *
ペリドは細い通路を駆けた。
乱戦の最中、味方と襲撃者の目を避けて、ペリドは逃げ出した。
留守番も仲間も知ったことではない。
状況を読む、身を隠す、逃げる――腕っぷしはさほどでもないが、こういうことに関しては恐らく野盗団一である。
(命あっての物種ってなぁ)
薄暗い視界に小さな光が刺す。
もうすぐ出口だ。
懐にあるお宝――どこぞの名士が愛人に向けて書いた手紙を撫でる。
(ま。こいつがありゃぁ、しばらくは潰しがきくぜぇ)
視界が開けた。
そう思った瞬間、何かに躓いた。
「――んぎゃ!?」
次いで、手を後ろにねじ上げられる。
「――ふむ? 一人のようだね……これでは仁義もなにもあったものではいな。見下げ果てた悪党だ」
「不思議なようだ。どうしてここが、と? 簡単な推理なのだよ」
呆然とするペリドの視界には――
金髪の麗人と黒髪の小柄な少女――リリとララが鮮やかに笑顔で立っていた。