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リアクション
幕間:盲目白痴の暴君
森を抜けた先で東は舌打ちをした。
(人が……)
浅慮だったと自分を恥じるがそんな場合ではない。
森の木々に隠れて光が灯るのが見えた。雷撃が来る。
「はっ!」
東は符を前面に展開する。他の人たちにも当らぬように、だ。
雷撃が森から放たれる。火花が弾けるような音が辺りにこだました。
「なんだこいつは!?」
玖純が叫ぶ。
「こいつらそいつから逃げてきたな!」
「怯えていたから言うことを聞かなかったんだねぇ」
日比谷と神代が襲ってきた獣を退けながら答えた。
森から姿を現したアザトースを見てアルクラントが眉をひそめた。
「あいつは――」
「みんなアレに近づかないで!!」
シルフィアが注意を促す。
彼女の視界に仮面を着けた幾人かの人が森へと向かう姿が見えた。
「誰かねえ?」
瀬乃の言葉にセドナは首を横に振る。
「とりあえずこいつらを黙らせる」
セドナは言うと手にした槍を薙ぐ。
周囲にいた動物たちが吹き飛ばされた。
その時である。男の悲鳴が辺りに響いた。皆が声のした方を向くと、そこにはアザトースに捕まった仮面の男の姿があった。
男がこちらに向けて手を伸ばす。助けを求める行為だ。
「あ、あがぅ……あああああああっ!!」
あらん限りの叫び声は肉を潰す音、骨を砕く音に掻き消された。
「……」
アザトースが森へと振り返る。
そこには仮面を着けた者たちの後ろ姿があった。森の奥へと逃げていく。
「…………」
興味がなくなったのか、アザトースは東たちに向き直った。
「キミは朱鷺よりも食いしん坊なようですね」
東は符を正面に展開しながら言った。
対峙する二人を見てサズウェルは手助けをしようと武器を構えるが、アルクラントに止められた。
「お父さん?」
「アレは私たちの手に負える相手じゃない。近づいたらさっきの男と同じようになる。ああいう相手には――」
アルクラントは手にした銃器をアザトースに向けた。
「こう戦うべきだ」
引金を引く。一発、二発、と銃弾が弾けた。
アザトースはそれを防ぐことなく身体で受ける。痛みを感じないのか特に変化は見られない。ただ視線をこちらに向けたのが分かった。
「シルフィア!」
「はい!」
シルフィアの手のひらに光が集まる。それは一筋の線を描いてアザトースへと向かって伸びた。
光術の一種なのだろう。アザトースはそれを手で防ぐ。
「……」
パリッ、と軽い音が聞こえた。
「危ないっ!」
東は叫ぶと森を出たときと同じように符を展開する。
さっきのとは比較にならないほどの雷撃が奔った。
轟音が辺りに響く。
「僕の魔法より数倍威力あるかも……」
「ああ、ありゃ別格だな」
サズウェルとアルクラントが畏怖の目で異形を見る
そんな彼らに東は言った。
「確かに光術は効いてるようですが、キミたちでは練度が足りません」
それはつまり決定的な一撃にはなりえないということだ。
「我ならどうかな」
セドナが皆の前へ躍り出た。
「……」
アザトースの胸から幾重にも連なる蛇のようなものがセドナへと伸びる。
しかしそれが彼女に届くことはない。見事というべき槍さばきで一つ一つを打ち払う。そして――
「てやぁっ!!」
鋭い突きの一撃をアザトースの胸に当てた。
しかし穿った肉はすぐに再生してしまう。
「むう……」
セドナは自分へと振り下ろされた腕を避け、下がった。
「効果なしだな」
「無念だ」
瀬乃がセドナに寄り添い銃を構えた。玖純も静かに手にした銃器を構える。
アザトースが一歩、こちらへ近づいたとき皆の背後から飛び出す女性の姿があった。
「詩穂、参ります!」
彼女の手元からワイヤーが伸びる。
それはアザトースに突き刺さると彼の身体に巻き付いた。
「……」
パリッとアザトースの身体から放電が行われる。
「させねえよ!」
「させない!」
アルクラントと玖純、瀬乃が叫ぶと銃撃を放つ。
その合間を狙ってシルフィアが光術による一撃を放つ。それはアザトースの頭部に当たった。
「…………」
アザトースは両腕を振り回す。
それを東が符で防ぐ。彼らの背後、槍を片手にセドナが構えた。
彼女の槍は光が満ちているように見える。
アザトースが東に攻撃を絞ったその瞬間。セドナは勢いよくアザトースに近寄ると脇腹目掛けて槍を突き刺した。
傷を治そうと肉が蠢く姿が見える。しかし――
「これならどうであろう?」
槍の矛先から光が炸裂した。槍を用いた光術の一種なのだろう。
さらにアザトースの頭上から光が降り注ぐ。
「これで!」
「どうですか!」
東と騎沙良の一撃がアザトースの身体を穿つ。
よろめくようにアザトースは森へと一歩後退した。
「…………」
彼は静かにこちらを眺める。まるで観察しているかのようであった。
対峙することしばらくして、アザトースは振り返ると森へと姿を消した。
「なんとかなった……か」
アルクラントは安堵のため息を吐いた。
気持ちは皆も同じだったのだろう。疲れたという言葉が誰かからもれた。
そんな彼らに近づく者たちがいた。
「大丈夫だった?」
朋美たちだ。彼女は皆に近寄ると怪我を負った人たちの治療をする。
「そちらの守備は?」
「ああ、数名捕まえられたぜ」
ウルスラーディの言葉を聞いた神代がため息交じりに言った。
「ハードな仕事だったねえ」
「まったくだ」
応える日比谷の視線の先には静かな森が広がっていた。
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