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天に地に、星は瞬く

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天に地に、星は瞬く

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 一方その頃、地下の遺跡では、ディミトリアスの張った結界を利用して、珠の調査が行われていた。
 レキが以前、似たような欠片を調べた際と同じように実験をしてみたが、同じ効果は見られないようだった。だが。
「……何が動く、感じ?」
 遠野 歌菜(とおの・かな)がむむ、と眉を寄せて呟いた。どうも、はっきりと「そう」とわかる感覚は無いようだ。
「中に、何かのエネルギーが閉じ込められてでもいるのか?」
 例えば、超獣がまだそこに残っている、とか、とその様子に月崎 羽純(つきざき・はすみ)が尋ねたが、歌菜は「ううん」と首を捻った。
「何ていうか……集中すると、その方向に力が集まってくるみたい」
「力の流れが、動く……というイメージですね」
 補足するような白竜の言葉に、歌菜も頷いた。
「それなら、これはどうですかぁ?」
 二人の言葉に、漠然とその欠片の持つ力を感じてか、エリザベートは結界に沿うように、火術を発動させると、温度の無い火を這わせた。すると一部の炎は白竜が念じた方向へと揺らぎ、別の一部は歌菜の方へは炎が集まってきたかと思うと、欠片の中へと取り込まれていった。
「きゃ……っ」
「大丈夫か!?」
 歌菜が声を上げるのに、羽純が軽く焦った声を上げたが、どうやら単純に驚いただけのようで、欠片を持つ手に怪我は無い。寧ろ、欠片から力の流れ込んでくる感覚に、はあ、と息を吐き出した。
「なんだか、手に火が宿ったみたいな感じがする。これって……超獣の力に似ている気がしない?」
「その珠が担っていた役割に、対応する効果が在るのかもしれませんね」
 頷いた白竜が引き継ぐと、「ということは」と大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)がと自身の持つアルケリウスの欠片を見やって呟いた。
「こちらは、例えば……体を作る基になったりできるのでありますか?」
 例えば、アルケリウスがこの珠を媒介に、自らの体を具現化していたように。それを聞いて、ふむ、と腕を組むと、ニキータはタマーラと、その手の欠片を見やった。
「試してみるしかないわよねえ」
 その言葉と視線を受けて、頷いたタマーラは、ぎゅっと目を瞑って欠片に意識を集中させた。その手に今、最も強く掌に残っているもの。その持ち主であったアルケリウスをイメージしてぎゅっと欠片を握りこむと、冷たく燃える青白い炎が、ふわりとその手に灯った。持ち主には熱さは無いようで、タマーラの手の中から溢れ、ゆらゆらと揺れるそれは、暫くするとその輪郭がぐにゃりと歪んで消えてしまった。
「あんまり長続きしないのかな……でもそれだと、アルケリウスさんの体の説明がつかないよねえ」
 それを見て、呟いたのは相田 なぶら(あいだ・なぶら)だ。ううん、と首を捻っていたが、直ぐに案じるより生むが易し、と、丈二たちと共に、実際にあれこれと試してみることにした。
 そうして、炎やら盾のようなものやら色々出してみること暫く、何となくその法則をつかんできたのか、あれこれ試して地味に減っていたらしい体力の回復もかねて、「とりあえず、纏めようか」と大きく息をついた。
「イメージを具象化する能力なのかな。でも、ちょっと意識が逸れるとすぐ形が変わっちゃうなあ……何か、イメージの元になるものがあったほうが良いのかも」
「それに、無尽蔵に、というわけにもいかないようであります。イメージを維持し続けるのも、結構しんどいでありますね」
 なぶらに同意して、丈二も軽い疲労感に息をついた。
「アルケリウスの場合、自分の魂だから、体を保っていられたってことかしら」
 二人とタマーラの意見を聞きながらのニキータの言葉に、それなら、と丈二が欠片を翳した。
「逆に言えば、魂があれば、姿を保っていられる、ということでありますか?」
「じゃあ、フライシェイドの魂で試してみたらどうかしら」
 幸いにも(?)この場所でフライシェイドの討伐から、然程長くは間が空いていない。そこら辺に魂が残っているかもしれない、とヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)が嬉々とした様子で提案したが、対照的に丈二の顔は青ざめて首を振った。
「それは……ちょっと……」
 何となく嫌な予感がしてしまう丈二の、その半ば引きつった声は、丈二だけでなく他の皆の気持ちも代弁していた。
「とにかく、それなら、ディミトリアスにも、アルケリウスのように実体を持つことが可能、という事にならないか?」
 神崎 優(かんざき・ゆう)が言うと、そうですね、と陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)が頷いた。
「珠としては欠片が不足している以上、どの程度効果があるかはわかりませんが……」
「少なくとも、ディバイスから魂を移し替えることは出来るはずだな」
 刹那の言葉に、神代 聖夜(かみしろ・せいや)が同意すると、神崎 零(かんざき・れい)もまた同調して強く頷いた。
「やってみる価値はあると思います。このまま、ディバイスさんの負担をかけ続けるわけにもいきませんし、かといって消滅させるわけにはいかないですから」
 一理あるな、と頷いて、夏侯 淵(かこう・えん)はエリザベートを向き直った。
「ここならば、大掛かりな術を行える施設もある。これらを利用すれば、可能ではなかろうか」
 エリザベートに問う淵に、少し考え、エリザベートは「そうですねぇ」と頷いた。
「可能だと思いますよぉ。ですけどぉ……」
 歯切れの悪い言葉に、皆が首を傾げると、エリザベートは言い辛そうに口を開いた。
「それを……彼らが望みますかねぇ?」
 少なくともディミトリアスは、けじめをつけようとしている。ディミトリアスにしろ、アニューリスにしろ、彼らはそれぞれの所属の長として、その責任を確かな形で取ることを考えるはずだ、と、幼いながらも校長として、その気持ちが何となく判らないでも無いため、疑わしげに首を傾げたエリザベートに「納得できませんっ」と、憤慨した口調で言ったのは、歌菜だ。
「けじめと言うなら、生きることがけじめのはずです」
「そうだな」
 歌菜の言葉に、羽純が同意に頷いた。
「けじめをつけたい、と言う気持ちも判らないではないが……しかしだ、大事な女を置いていくのには同意しかねる」
 そんな羽純の同意や、周囲が頷く気配に力を得て、歌菜はぐっと決意を込めて拳を握り締めた。


「恋人を置いて行くなんて……例え彼女が許しても、私は絶対に! そうはさせません!」