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リアクション
「テルミドールだと……」
園内放送によってざわつく園内。メインストリートに辿り着いたキングが、ぼそりと呟いた。
その傍らには、女装をした黒崎 天音(くろさき・あまね)が不安そうな顔を見せている。その近くには、ブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)とクイーンがいた。
四人はデート企画として、ダブルデートをしていた。お化け屋敷やティーカップなどを周り、普通のデートを楽しんでいたのだ。だが、先ほどの園内放送の後、キングとクイーンが顔を見合わせ、天音たちを連れて半ば強引にメインストリートへとやってきたのだった。
「ねえ、どうして急にここへ来たの?」
そう言ってキングの顔を覗き込む天音の肩で、緩くウエーブがかった黒髪がさらりと揺れた。天音はナチュラルメイクでお洒落な女子大生といった雰囲気をしている。キングは天音のことを女だと思い込んでいるらしい。
「聞いてほしいことがある」
キングは神妙な顔をして切り出した。このデート企画のスタッフは、犯行声明を出してきたテロリストを取り締まるという役割も兼ねているということ。
何事も起こらなければ良かったが、こうして事が起きてしまった以上、対策に向かわなければならないということ。
「へぇ……この企画にそんな訳があったなんて。でも、私の事、デートが終わるまでちゃんと守ってくれるのよね、スペードさん?」
天音が面白そうな顔をして尋ねると、キングはにやりと笑い、「当然だろ」と、応える。
「頼りにしてるわね」
キングに、天音はウインクをしてみせる。そんな二人を、クイーンは微笑ましそうに笑みを浮かべて眺めている。
だが、クイーンの隣に佇むブルーズは一人、何が何やら……といった風にきょろきょろと辺りを見回していた。
四人の近くに、レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)と日比谷 皐月(ひびや・さつき)がいた。二人でジェットコースターに乗っている最中に例の放送が入り、降りてきたのだった。
「とりあえず、奴らの気を引くような行動をしてみるかな」
「そうですね。引っかかったら捕まえて、警備の人がくるまでお説教しましょうか」
真紅のマフラーに見える魔装『カランコエ』で身体能力を上げ、禁漁区をレイナに使ってあった。
ほどなくして、ショットガンを構えた三人の女が現れた。そのショットガンが火を吹く前に、皐月はカランコエを巻きつけて阻害する。しかし、皐月とレイナは集団に囲まれていた。
「なんつーか……そんなことして恥ずかしくねーのか?」
皐月が魔装「ルナティック・リープ」で強化した、だが手加減を加えた回し蹴りを放つ。女たちは転倒する。
すかさずそこをレイナが取り押さえた。
「カップルに八つ当たりする以外の方法は思いつかなかったんですか?」
無事全員確保すると、レイナが説教を始めた。そこに、警備員が二人駆け寄ってきた。
「ま、これだけ説教しといて、後はスタッフに任せりゃどうにかなんだろ」
皐月はそう言って、警備員に女たちを突き出した。
「向こうでも、ショットガンを持った人たちを捕まえている人がいますね」
そう言って、レイナは少し離れたところにあるショップの入り口を指差した。
ショップの入り口で、シングルズの集団からショットガンをもぎ取っているのは、酒杜 陽一(さかもり・よういち)と高根沢 理子(たかねざわ・りこ)だ。
二人はアトラクションやパレード、ショー等を見て回っていたのだが、放送を聞いた理子の「目の前に怪しい人がいて、放っておける訳ないじゃない!」という言葉をきっかけに、シングルズのメンバーを捕まえ始めたのだった。
「警備員の人が来るまで、拘束しておくわよ!」
「了解! と言っても、もうそろそろ警備員の人たちが集まってきてるから時間はかからなさそうだね」
そう言いながら、次々と奪い取ったショットガンを足元に積み上げる二人の元に、クイーンが駆け寄った。
「スタッフです。確保の協力、有り難うございました」
そう言って名札を見せる。そこに遅れて、数人の警備員も到着した。シングルズの残党には、ショットガンを投げ捨てて逃げる者や、それでもあえて銃口を陽一たちに向けたまま震えている者など、様々だった。理子がまだ抵抗を止めないメンバーの元へと歩み寄る。
「他人の平穏を奪って嫌がらせに喜びを見出だすより、自分の幸せを見つけた方がもっと大きな喜びを感じられると思うわよ?」
理子の言葉を聞いて、陽一も大きく頷く。
「次はさ、駄目元でも何でもいいからデート企画とかに参加してみたらどうかな。周囲の見え方が変わるかもしれないよ」
二人の言葉を聞いて、黙り込むシングルズの面々。彼ら彼女らは、項垂れたまま警備員に連れられてどこかへと消えていった。
*
『ーー先ほどは大変申し訳ございませんでした。引き続き、本日はごゆっくりとお楽しみください』
園内に放送が流れる。安全確認とテロリストの確保ができたとのことで、営業は続けられるようだった。
しかしその実、遊園地の運営を止めてしまうとテロリストが炙り出せない、という遊園地側の判断だった。先ほど以上に、警備員が配備されてはいるが、ショップ店員の格好であったり、案内所のスタッフの格好であったりと、物々しい格好は控えている。
また、出入り口では厳重な持ち物検査が行われている。そして、全体的に先ほどよりも園内は空いてきたようだった。
「とりあえず、できることは終わったかな?」
陽一は理子に声を掛ける。理子は警備員の去っていった方角から目を離して、小さく伸びをした。
「そうね。一段落したようだし、今からでものんびりしない? どこか行きたいところはある?」
「どこでも、理子さんの行きたいところに行くよ」
そう言って、陽一はパンフレットを取り出した。
「あ、ここのカフェのパフェは人気があるみたいね! ここに行かない?」
そんな会話をしながら、理子と陽一は連れ立ってカフェへと向かい歩き出した。
「一件落着ですね」
レイナは、皐月に話しかける。
「首謀者は逃走したらしいが、この分じゃ、まだ今後も残党に会うかもしれねーな」
皐月は周囲をきょろきょろと見回して、呟いた。
「囮デート、続行ですね」
「あー……気晴らしに絶叫系でも行くか。まずはジェットコースターで」
「そうしましょう。乗り終わったら、どこかでゆっくりしませんか?」
こうして二人は、アトラクションの方へと去っていった。
一通りの対処が終わり、天音とブルーズ、キングの三人はメインストリートの入り口に佇んでいた。クイーンは確保したシングルズメンバーの引導と監視に駆り出されたため、この場にはいない。
「テルミドールとやらに扇動されたテロリストは、これで全員捕まったようだな」
ため息をつくキング。そして、天音たちの方を向き直った。
「少し長引いてしまったが、今日のデートを楽しんでもらえていたら嬉しいな」
「とっても楽しかったわ」
微笑む天音に、恐る恐ると言った様子でブルーズが声をかける。
「それで……なぜ、お前は今日、女装をしていたのだ???」
「……女、装?」
ブルーズの素朴な疑問を聞いたキングの目が見開かれる。
「ふふ。メガビッグ・パフェ、また食べに来たいわ。その時はよろしくね」
キングに向けてひとつウインクを飛ばし、ブルーズを連れて去っていく天音。その背を見ながら、キングはがくりと膝をついた。
(デートスタッフの仕事で、初めての女の子とのデートだと思ってたのに!!!!)
何故か男としかデートに当たらないキングは、内心で叫び声を上げていた。
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