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新米冒険者と腕利きな奴ら

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■第三幕:続・個性的な講師たち

「今日までにキミ達は様々なことを教わったと思います」
 和装の女性が優里と風里を引き連れて校内を歩いている。
 彼女の名前は東 朱鷺(あずま・とき)。葦原明倫館に所属している八卦術師だ。普段は自らの修行に時間を費やしているが、今日は優里たちのために時間を割いてくれたのである。
「えっと……それで僕たちは何を教えてもらえるんですか?」
 優里の問い掛けに東は厳しい視線を向けた。
 どこか呆れているような印象を受ける。
「朱鷺は何も教えません。朱鷺はただ知識を伝えるのみです」
「何の知識を?」
「知識を、です」
 東は足を止めると振り返る。
 そこには『意味がわからない』といった様子の優里たちの顔がある。
 彼女は二人を諭すように話し始めた。
「好奇心、知識欲、表現は色々ありますが知識や実技を学ぶ上で大切な事はキミ達が興味を持つ事です。仮に、今ここで、キミ達に八卦術を教えても興味が無ければ、キミ達が得るモノは少ないのです」
 逆に、と声を和らげて続ける。
「興味があれば言われずとも自分で調べるでしょう? お二人がパラミタを訪れた理由も、元々は同じだったはずです」
「貴方はこう言いたいのかしら。興味を持つことが知識だと」
 風里の言葉に東は頷いた。
「ここは、パラミタは知識の宝庫です。ですが深い知識を得るのは簡単ではありません。常に興味を持ち続けていなければ得ることはできないでしょう。朱鷺も陰陽術に興味を持ち続けたからこそ、その知識を深く得ることができたのです」
「興味を抱き続けること……」
「何事にも興味を持つ事、これが成長するために必要なことです。冒険もいいですが書物に没頭するのも悪くないでしょう」
 言い終えて歩き出す。
 しばらくして、しまったというように東は顔を歪めた。
 どうしたのかと二人が訊ねると彼女は苦笑しながら告げた。
「前置きに時間を取りすぎて時間が無くなりましたね。今日はこの辺で失礼します」
「良いこと言うだけ言って終わりですか!?」
「これもまた修行かしら?」

                                   ■

 東と別れてから教室に戻ると犬と戯れている子供がいた。
 傍らには保護者らしき人たちの姿もある。
 その中の一人、花飾りつきのカチューシャをしている金髪の少女が二人に声をかけてきた。優里たちと同じ年齢くらいの少女だ。
「あたしはマーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)。優里と風里にこれを使った戦い方を教えるために来たよ」
 これ、と言って手にしたものを持ち上げる。
 それは円盤状の盾だ。小型なところを見るに女性向けの装備品なのかもしれない。
「ラグエルはね。ラグエル・クローリク(らぐえる・くろーりく)っていうんだよ」
「こんな子もパラミタにいるのね……すぐに魔物に喰われそう」
「フウリってばいきなりどんな感想なのさっ!?」
「私が魔物なら美味しく――、無視するわね」
 風里は言うとラグエルの頭を撫でる。
 んーっ、と目を瞑りされるがままになっているのは気持ち良いからなのだろうか?
「私、妹はいらないわ」
「僕もお兄ちゃんが欲しかったよ」
「……」
「……」
 無言で対峙する二人。
 その間もラグエルはされるがままである。
「そ、そのっ!」
 二人の間に割って入ってきたのはリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)だ。
 彼女は指先に火を灯すと二人に言う。
「私はま、魔法なら優里さんと風里さんに教えられると思って、その――」
「それってあのチビが使ってた技よね?」
 リースが言い終える前に風里が質問を投げかけた。
 彼女はリースに腕を見せる。そこには消えかかっているが火傷の跡が残っていた。
 それを見たリースは訓練初日のことを思い出したようで、手をポンと叩いた。
「ああっ! 川村さんの使っていた魔法ですね。同じですよ」
「ぜひ教えてほしいものね」
「フウリ……なんか顔が怖いよ?」
「私ね。相手が子供であろうと、ヤられたらヤり返さないと気が済まないのよ」
「大人げないよっ! というかセリフが裏返ってないってことは本気だよねっ!?」
 ふふふ、と笑みを浮かべると風里は呟いた。
 頭を下げ、髪をダラリと垂らしている姿は妖怪か何かのようだ。
「あのエヴァルトとか斉藤とかいう奴らにもお礼はしたいわよね」
 うふふ、ふふ、うふふふふ、と笑う。
 さすがに怖くなったのかラグエルがマーガレットの背後に回った。
 リースは苦笑する。
「用途はともあれ、魔法の基礎みたいなものだから風里さんもすぐに使えるようになると思いますよ。とりあえずグラウンドに向かいましょう」

 グラウンドにやってきた二人はリースの指示に従って火術の練習を始めた。
「リースさんみたいに球体にならないんですけど」
「イメージが固まってないからだと思います。火の形を思い浮かべないで、火球を思い浮かべて。慣れちゃえば簡単ですから」
 どうしても上手くいかないのか、優里の指先に灯っている火はゆらゆらと揺らめいているだけであった。対して風里の指先には火が玉の形を維持していた。
「風里さんは上手ですね。魔法使いが向いてるかもしれませんよ。あとは大きさを変化させたりしてみてください。それもできたらこういうのとかどうですか?」
 リースは言うと指先に生み出した火を小鳥の形に変化させる。
 翼を羽ばたかせているその姿はまさに鳥のそれだ。
 風里も真似てみようと色々試すが火球の大きさを少し変化させるのが限界であった。やはり何事もすぐに上手くいくわけではないようだ。
「つまらないわね」
 告げる彼女の声は明るい。
 優里がリースに頷いて見せる。どうやら風里は火術がお気に召したようであった。
「マーガレットさん。僕は魔法向いてないみたいだからそっち教えてもらえますか?」
「いいよー。風里は……熱中しちゃってるね」
「風里さんは私が教えてるから、大丈夫」
 リースが笑みで応えた。
 魔法に興味を持ってもらえたことが嬉しいようだ。
「さて、優里は何が得意なんだっけ?」
「今まで教わったのは、冒険者としての心構えとかが中心だったからなあ。武器も色々扱ってみたけど、回数こなしてないからなんとも……」
 悩んでいる顔は少年のそれだ。
 まだどことなく子供っぽさを感じさせる。
 強いて言うなら、と優里は続けた。
「武術かな? 武器を扱うより動き回るのが多かったから、素手とかナイフの方が扱いやすい気がします」
「それなら盾があると便利だよー♪ 殴って良し、守って良し、のばんのー装備なんだからっ! ナイフにしろ素手にしろさ。獲物持ってる相手と戦うならひつよーでしょ?」
「でしょー!」
 分かっているのかいないのか、ラグエルがマーガレットに便乗する。
 にこにこと笑っている姿を見ている限りでは普通の子供にしか見えない。が、頭上に浮かんでいる輪っかの存在が、彼女が普通の子ではないことを優里に教えてくれる。
「そうだね。あると便利かも」
「これは投擲武器としても使えるんだー。こうフリスビーみたいにね、っと!」
 言い、マーガレットが腕に付けた盾を投げた。
 飛んでいく先には缶が置いてある。あれに当てるつもりなんだろう。
 しかし――
「わんこさん、GOー!」
 ラグエルの声に呼応するように犬が盾に向かって駆けて行く。
 追いつき、飛ぶ、そして盾を咥えて着地。
「わふっ!」
 勇ましい声であった。
「わんこさんとか、ペットさんは悪い人とかモンスターと戦ってくれて、すっごくお役立ちなんだよ!」
 すごいでしょー、とラグエルが優里に教えてくれた。
 彼はラグエルの頭を撫でるとお礼を言う。
「ありがとうね。とっても良いこと聞いちゃった。あとでフウリにも伝えておくね」
「えへへー」
その後も二人の訓練は続いた。