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新米冒険者と腕利きな奴ら

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新米冒険者と腕利きな奴ら

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■幕間:学ぶ! 新米冒険者

「ハッ!」
「よっと!」
 槍の一撃を矛先で逸らす。
「セイッ!」
「んっと!」
 身を半回転して柄による打撃を狙う、が相手は逸らした勢いで槍を回して同じく柄で受け止めた。男はニヤッと笑うと片手をこちらに向ける。
 パリッと小さな放電が起こった。
「魔法っ!?」
 風里は驚き、小手で防ごうとするが遅い。
 電撃が彼女を襲った。ビリビリと筋肉が痙攣し、手に力が入らず槍を落としてしまう。風里を助けるべく、優里が拳による一撃を当てようと男に近寄った。だがそれは空振りに終わる。
「あれ?」
 上を見ると男が飛んでいた。
その背中からはさっきまではなかった蝙蝠のような羽が生えている。
「おっと言い忘れてた。俺、これでも空飛べるから」
「ずるくないですか!?」
「より多くの経験が積めると思えばいいだろ? それと仲間もいるからな悪く思うな」
「仲間って……二人とも手を出さないって言ってましたけど」
 そう話す優里に長尾 顕景(ながお・あきかげ)は歩み寄ると告げた。
「すまないが、あれは嘘だ」
「嘘ってなんですかっ!?」
 振り返り、拳を振り上げる。
 だがそれよりも早く相手の拳が優里に当たった。
「一対一、己の力全てを持って倒す。どれも悪いものではない。だが、正解でもない。生きる為の知恵として言うならば、嘘も真。虚言を使って相手を油断する。相手を思い込ませ誘導し、状況を統べるのも一つの戦いだ。戦いにルールなんて無いからね」
「言いたいことは分からないわね」
 風里がむすっとした顔で言った。優里も納得いかない様子である。/
 そんな二人の様子を空から見ていた男、ウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)はケラケラと笑った。
「槍の筋は悪くなかったのに、中身は甘ちゃんだねぇ」
「まだ若いからな。そのうち分かるさ」
 ははは、と笑いながら近づいてきたのはルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)だ。
 和装に身を包んでいる姿はまるで武士のようである。
「模擬戦闘を見る限りでは筋は悪くないと思う。ただ力の受け流し方が出来ておらぬのぅ。このあとはわしが受け流しの仕方を教えるとしよう」
「受け流しってアイツがしたやつかしら?」
 風里がアイツと言ってウォーレンを指さした。
 矛先で逸らされた時のことを話しているのだろう。
「そうじゃ。武器を持っている者、魔法を使う者、体術を使う者と戦い方は人それぞれじゃ。だが、全て共通して身体・頭を使い『動作』を行う。その『動作』を利用する事で相手の攻撃を先読みする事も、力を消す事も、時にはそれで相手に反撃する事も出来る」
 ルファンは言うと優里を指名した。
「まずはそちらから攻撃をしてみよ。儂が簡単な手本を見せる。その後に、簡単な受け流し方を教えるとしよう」
「じゃあ行きますよ」
 優里は空手の逆突きをルファンに向かって打った。
 それに対してルファンは突き出された優里の右手首を右手で掴み、強く引いた。体勢を崩したところを左手でひじを押さえる。そのまま身体の動きに合わせて押さえこんだまま腕を曲げる。
「折れる! これ折れますからっ!!」
「こんなものじゃ。このあとは地面に倒して拘束することもできるし、ひじを曲げずに抑えたまま力を入れれば腕を折ることができる」
「柔よく剛を制すね」
「うむ。これこそ受け流しの真骨頂じゃ。では鍛錬を始めようかのぅ」
 こうして受け止める以外の方法を優里たちは学ぶことになった。
 優里は楽しい様子だったが風里は力に頼る部分が多く、終始苦手な様子であった。

                                   ■

 空は青く広かった。
 ‘頭上’には草原が広がっており、野生動物の姿がちらほらと見受けられる。
「ああ……僕、飛んでるよ」
「落ちてるのよ」
 風里の冷たい声が脳裏に聞こえてきた。
 無線の付いていない小型飛空艇を借りて飛行訓練をしていた優里は、模擬戦開始早々に撃墜されたのである。
「インメルマンターンとはね。なかなか渋いチョイスで気に入らないわ」
「アニメで少し見たことあるよ。フウリってばアレの影響でACとかはまってたよね」
「あれは駄作よ。子供が親の意思を継いでいくなんてストーリーは最悪ね」
「大絶賛だね。僕もああいうアニメとかゲームやってればよかったよ」
「……」
「……」
「――仇は討つわ」
「やっぱり助けてくれないよね。わかってたよ。わかってたけどさあっ!?」
「教官が助けてくれるらしいから。じゃあね」
 そう告げると風里は戦闘に戻った。
 視線の先、高速飛行型の小型飛行艇に搭乗しているエーリカ・ブラウンシュヴァイク(えーりか・ぶらうんしゅう゛ぁいく)の姿がある。余裕があるのだろう、飛行艇を駆るその姿は空を泳いでいるようである。
「まずは高度を合わせてみようかしら、ね」
 言うと高度を上げて彼女の機体と平行に飛行する。
「空中戦は」
「背後を取ったら勝ちよ」
 声が聞こえていたわけではないだろうが、二人はほぼ同時に動いた。
 風里は右に急旋回し、エーリカは左に急旋回する。
 互いに先に前に出ないよう交差して動く軌道はまるでハサミのようだ。
「やっぱりゲームと違うわ」
 何度目かの交差、しかし風里の視界には来るはずのエーリカの姿は見えない。
 それはつまり軌道を変えたということだ。周囲を見れば上から左にひねりこむように回り込む機体の姿がある。
「バレルロールって……こんなの出来ないわよ!」
 このまま進めば背後を取られる。ひねり込んだ分だけあっちの方が遅い。
 風里は右に旋回し、機体をひねり、高度を少し上げた。水平飛行から斜め上に宙返りしたわけである。これで進行方向はさきほどとは真逆になった。
「いまのはシャンデルねっ! この子、基本出来てるよ」
 互いにそのまままっすぐ飛行し、ある程度進んだところで旋回した。
 対峙する。風里は機銃で撃つがエーリカは撃たなかった。
「当たらないわね」
「高度がちょっとずれてるよ」
 機体がすれ違う。
 直後、エーリカは上方に旋回し機体をひねり込んだ。
 俗に言うインメルマンターンである。
「あ、忘れてたわ」
「残念でした」
 背後を突かれた風里は優里同様、撃墜されてしまった。
 後に風里は語る。
「ストライカーユニットって造られているのかしら?」