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リアクション
■第四幕:優里と風里の戦い方
ギィンッ! と金属がぶつかり合う音がグラウンドに鳴り響いた。
それは一度だけでなく、二回三回と鳴り続ける。
「動きが鈍くなってるわよ。男の子ならもっと頑張りなさいっ!」
「てぇいっ!!」
優里はセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)に対してナイフによる攻撃をしていた。これまでに二桁以上も斬りかかってはいるが一撃どころかかすりもしていなかった。全て彼女のレイピアで捌かれている。
「フウリ!」
叫び、優里はセルファの脇に入り込むように駆け出した。
普通なら良い的だが優里の後ろ、杖を構えている風里の姿があった。
「もらったわっ!」
「甘いわね!」
風里の手にした杖から火球が飛び出してくる。
しかしさっきまでセルファのいた場所には誰もいない。
「どこに?」
風里が疑問に思っていると優里が叫んだ。
「上だっ!」
「えっ!?」
セルファは彼女の頭上を飛び越え、くるんと回って背後に着地する。
レイピアを構えた。そして突く。手加減しているのだろうが、それでも風里たちにとっては驚異的な速度だ。
手にした杖を咄嗟に前面に構える。
衝撃が杖を襲った。
「っ!」
「勘はいいわね」
弾かれるように後ろに下がる。
そして入れ替わるように優里が前に出た。
「せいやぁっ!」
駆け込みながらの一撃。
しかし体勢が悪いせいか勢いが全くない。
「そんな切り込み方だと転ぶわよ」
セルファの言うとおり、レイピアで弾かれたらそのまま倒れ込んでしまった。
「いってぇ……けど」
「っ!?」
セルファの眼前、火球が飛んできていた。
優里の影で風里が火術を行使していたのだ。
「よっと!」
しかしそれは彼女の盾で防がれた。
「まあこんなもんかしらね」
「お疲れ様です」
そう声をかけたのは御凪 真人(みなぎ・まこと)だ。
彼は優里たちが戦っている様子を見ていたのであった。
「盾使っちゃいましたね」
「使わないつもりだったのよね。最後のは良いコンビネーションだったと思うわよ」
「そうですね。俺もそう思います」
言いながら地面に倒れ込んでる優里を見やる。
疲れているのかぜぇぜぇと息切れを起こしていた。
風里の方は体操をしている。身体をほぐしているのだろう。
こちらは余裕がありそうだった。前衛と後衛の差かもしれない。
「そのままでいいから聞いてくださいね。見ていて気づいてたことを伝えますから」
はあい、と二人は答えた。
「風里さんの方は特に問題は見当たりませんでした。セルファを挟みこんだときにも優里君に当たらないように射線をずらしていましたしね。後衛らしい判断でした。あえて問題点をあげるとすれば、もう少し動き回っても良かったと思います。後衛が動くだけでも相手の注意を逸らすことができますし、それは前衛の助けになります」
「さすが私ね」
くすっとセルファが笑った。
自信ありげな姿がどこか懐かしく見えたのかもしれない。
「優里君ですが……駄目ですね」
「だ、駄目ですか」
「連携するうえで一番大切なことは相手を信頼する事。そして、相手の事を知る事です。俺のような魔法使いタイプは前衛が相手を止めてくれるからこそ、
能力を生かすことが出来るんです。逆に前衛が止めてくれる事を信じ切れなければ、思い切って戦う事が出来ません」
だがその言葉に厳しさはない。
わかりますね、と御凪は言うと続けた。
「敵と距離があるからと慢心して後衛を置き去りにしては、守れない状況に陥ることもあります。そんなことを許してしまっては信頼されなくなってしまいますよ。パートナーの安全を第一に考えて行動してみてください」
「まさかあんなに高く飛ぶとは思わなくて」
「未知数の敵と相対するときは相手の出方や腕前を把握するまで、様子見をしながら戦うのがベストですね」
「私からも言わせてもらうと体力も足りないわね。これは地道に頑張ってね」
「心得ましたー……」
がっくりと肩を落とす。
いきなり褒められるとは思ってはいなかったが、少しはという期待はあったのだろう。男の子だ、冒険者としてやっていく自信は欲しいに違いない。
「このあとも佐野君たちと連携訓練があるようですし、今の点を注意して頑張ってみてください」
「また今度遊びましょうね」
そうして御凪たちがグラウンドから姿を消してしばらくすると、二つの人影が近づいてきた。どちらも女性のようである。
ウェディングドレスに身を包んだ女性、佐野 ルーシェリア(さの・るーしぇりあ)が口を開いた。
「優里さんと風里さんのお二人には、アルトリアちゃんと一緒に私と実践訓練してもらうです。冒険をしていれば見知らぬ人と一緒に戦うこともあるですからねぇ」
「ルーシェリア殿相手に三人がかりで挑むことになりましたか……」
アルトリア・セイバー(あるとりあ・せいばー)は言うと優里たちに声をかけた。
「というわけでよろしくね」
「よろしくお願いします」
「やるからにはヤるわ」
さっきも訓練をしていたというのに気おくれしている様子は見られない。
(自分が突出するだけじゃ訓練にもなりませんしまず勝てないので、冒険者の先輩としてお二人のサポートをしつつ、経験を生かしてどこかで勝てるチャンスを見つけて、お二人にも動いてもらわないと……)
「まず自分が相対してみるので自由に支援してみてください。あとはその場の流れで何とかいけそうならそのまま、無理そうなら一旦引いて体制を整えるということで」
「了解です!」
「優里これ」
風里が優里に銃器を渡した。
「ナイフあるけど?」
「ナイフを使う優里はいてもいなくても同じ」
ガーンッ! という音が聞こえてきそうなくらい優里はガックリとうなだれた。
そんなことを気にすることなく風里は続ける。
「今度は一撃でも当ててやらないと気が済まないのよ」
「また裏返ってないね。ここに来るまで気づかなかったけど、フウリって負けず嫌い?」
「いいから撃ちなさい。グズは好きよ」
話し終えるのを待っていたルーシェリアは身構えた三人を見据える。
その両手には剣が握られていた。同型の剣のようだ。
「三対一だからって、三人とも手を抜いたりしないようにです。抜いたら痛い目にあって貰うですよー!」
彼女は笑みを浮かべたまま歩み寄ってくる。
見た目とは裏腹に強い圧迫感がそこにはあった。
「お二人とも、行きますよっ!」
アルトリアは叫ぶとルーシェリアに斬りかかった。
一撃、二撃と剣戟の音がグラウンドに響き渡る。
「そこっ!」
パァンッ! という発砲音が響く。
しかしそのときにはルーシェリアは射線上から姿を消していた。剣を受け止めてその勢いを利用して下がったのだ。発砲音を聞いてからでは避けられるはずもない。
つまりアルトリアを相手にしながら優里の動きも見ていたということになる。
それは別の事実も意味していた。
「自分を相手にしていても余裕があるのですね」
「それはいまさらですよー」
ヒュンッ! という音はしだいに ビュンッ! という音へと変わっていく。
剣戟の勢いが増しているのだ。さすがにアルトリアも押され始めてきた。
「フウリ!」
「分かってるわ」
杖をルーシェリアに向ける。
先から火球が生まれた。
「下がって!!」
風里の声にアルトリアが反応した。
彼女の両脇から二つの力がルーシェリアに向かう。
「見えてるです」
彼女は片方の剣を地面に深く突き刺し、もう片方の剣で火球を薙ぎ払った。
ギィンッ!! という音が鳴るとほぼ同時に火球が煙に撒かれるように消える。
「嘘……あんな風に銃撃を防ぐなんて」
「ルーシェリア殿ですから」
「私の魔法って強すぎね……」
突き刺した剣の表面に弾丸が当たったのだ。
模擬弾で威力も低いからこそできた戦術だろう。
「まさかこれで打ち止めなんてことはないですね?」
笑みを浮かべたままルーシェリアは近づいてくる。
結局、二人が彼女に一撃を当てることはできなかった。
アルトリアを主軸にしたときは何度か成功した、というのがせめてもの救いかもしれない。
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