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■幕間:回避と移動の重要性遺産

「まずはわらわの動きを見ているのじゃ。アルミナ、頼む」
「せっちゃん、いっくよー」
 辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)が駆け出していく前方、アルミナ・シンフォーニル(あるみな・しんふぉーにる)によるいくつもの雷が降り注ぐ。しかしそれが辿楼院に当たることはない。見えているのか、それとも勘なのか、服をかすめることはあっても当たることはなかった。
「と、こんなもんじゃな」
「相変わらずここの人たちってすごいですね」
「見た目で判断しちゃいけないっていうのはあの姉妹で身に染みてるわ」
 真顔で言うあたり、いまだに根に持っているようである。
 風里はパンッと両手で頬を叩くと言った。
「私からでいいのかしら?」
「交代で一人ずつやるのじゃ。休んでいる方はわらわが避け方のコツをおしえてやろう」
 アルミナと対峙した風里は開始の合図とともに彼女に駆け寄る。
 しかし彼女の手から放たれる雷撃を避けることできない。
「は、早すぎるわよ」
「これでも雷だもん。早いよ。せっちゃんのすごさがわかるでしょ?」
「あれよりすごいのが訓練してくれていたという事実も驚くわね」
 彼女たちが訓練している一方で、優里は辿楼院から話を聞いていた。
「魔法というのは基本的に避けることはできんものじゃとまず考えておくのじゃ」
「特に雷なんて早すぎて無理ですよね」
「そうじゃな。だが扱う相手が人間であることを踏まえればたやすく避けることもできるのじゃよ。わかるか?」
 優里はうーん、と難しい顔をつくる。
「視線じゃよ。相手がどこを狙っているかわかれば避けるのは容易くなるのじゃ。あとは魔法の発動のタイミングさえ掴んでしまえばあのようになる」
 言い、視線を風里たちに向けた。
 優里もそれに倣って様子を覗う。
 そこには数発に一発は避けるという姿を見せる風里がいた。
「慣れたらわらわが受けた魔法と同じのでやるのじゃ」
「さすがに無理です」
「根性が足らんの」
 そうして二人が回避の訓練をすることしばらくして、ぐったりと休んでいるところにアルミナが話しかけてきた。
「お疲れ様」
「本当よ。あれを避けるなんて普通出来ないわ」
 余裕がないのか本音で話す。
 優里に至っては手を振るのみであった。
「ボクは泣き虫で怖がりだから戦闘とかは全然できなかったけど、せっちゃんを手助けしたくて頑張ったらできたから、二人もいつかできるようになるよ!」
 彼女は言うとにこっと笑った。
 その言葉に励まされて二人は再度頑張るのだが、雷撃を何回か避けるので精一杯であった。現実は厳しいものである。

                                   ■

 物部 九十九(もののべ・つくも)は優里たちを見据えて口を開いた。
「基本的に相手の戦力が3倍を超えると勝つことは難しくなります。なので、冒険に出る際はパーティを組んでいくことが基本となります。ですが、時として不測の事態がおき、1人で大多数を相手にしなければならない状況に置かれることも少なからずあります」
 彼女は鳴神 裁(なるかみ・さい)に憑依している奈落人だ。
 鳴神たちと訓練をする前に話しておくことがあるということで、こうして二人は話を聞いていた。その内容は新米冒険者の二人にとって大切なものである。
 彼女は続ける。
「この時、決して一度に複数を相手にしてはいけません。10対1、契約者であるならば相手しだいでは勝てるかもしれません。では100対1なら? まず勝つことは難しいでしょう。では1対1を100回ではどうでしょう? 多少は勝の目があると思いませんか? つまり、多対1においては限定的に1対1の状況を作り出す”移動”が重要なのです」
「理に適ってますね」
「問題はその方法ね」
 二人の言葉に物部は頷く。
「そこは――」
「ボクが教えるよ」
 左瞳の色が金から蒼へと変化する。
 物部は休んでいるようだ。
「二人にはパルクール、いわゆるフリーランニングを覚えてもらうよ。街にあるあらゆるものを使って、どんな地形でも移動ができるようになるのだ」
「ああ、伝説のアサシンが使うあれよね?」
「……なんでフウリって情報源がゲームなの?」
「聞くより見たほうが早いかな。これだよ」
 鳴神は言うと手にしたノートパソコンでパルクールの動画を二人に見せた。
 そこには木や手すり、壁などを利用して縦横無尽に走破する男の姿があった。
「すごいね。あの高さから落ちても平気なのかあ」
「受け身とってるからよ。楽しいことしたら楽しいことが待ってるわ」
「笑顔で言われると怖いのが分かったよ……」
「そうそう。怖いことになるから最初は受け身の練習だよ?」
 二人は鳴神の指示の下、受け身の練習を始めた。
 最初は地面に足の着いた状態からの受け身。徐々に高いところから飛び降りての受け身の練習へと移り、実際に街中を走り回った。
「……いいんだけど風ちんって受け身というよりタックルしてるよね?」
「ドクターの妹さんから良い技を教えてもらったから問題あるわ」
「うん。問題だと思うよ。言ってること違うのに正しいってどういうことなのさ」
「良い感じに身体も温まってきたから次いっていいよね?」
 鳴神は言うと黒子アヴァターラ マーシャルアーツ(くろこあう゛ぁたーら・まーしゃるあーつ)を呼んだ。
 彼女はその姿を変えると鳴神がそれを身に着けた。
「次は総合格闘技の訓練だよ」
 ビュンッ! という風切り音が聞こえたかと思うと、鳴神が蹴りを繰り出していた。
「カポエイラよね?」
「こういうのもできるよ」
 ヒュッ、ヒュンッ! という音は外回し蹴りからのかかと落としだ。
「どう立ち回れば生き残れるか、というのが課題だからね。頑張って」
「ちょ、ちょっと待って!」
「待ったなし。いっくよー!!」
 スパンッ! という乾いた音が辺りに鳴り響いた。
 優里の首に上段回し蹴りが綺麗に入っている。
「見事ね」
 優里はそのまま気を失うとしばらく目を覚まさなかった。