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新米冒険者と腕利きな奴ら

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■幕間:女の武器

「風里、男ってのは女の身体に弱いのよ」
 優里と別れて訓練を受けることになった風里はセフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)から誘惑を利用した戦い方、依頼の達成方法を学んでいた。
「優里見てればわからないわ」
「難儀な性格ね。さておき、男の視線が思わず泳いでしまうような、こういうポーズを取ったりすれば油断を誘えるわ」
 告げ、胸を逸らして背伸びをする。たゆんと豊満な胸が揺れた
「今はただその脂肪の塊が憎いわ」
「……ま、まあ敵対している相手が女だったら揉んでやれば隙が作れるかもしれないわ。それに風里は顔が整ってるし、肌も白くて人形みたいだから男の視線を奪うのは簡単なはずよ」
 褒められてうれしかったのか、頬を赤く染めてぷいっとそっぽを向いた。
「そんなこと言われても嬉しくないわ」
「ややこしいわね」
 でも、と区切ってセフィーは真面目な顔になると口を開いた。
「こういう技術は使いどころを間違えると苦境に立たされることもあるわ。相手に有効かどうか、それを知ることが大切よ」
「わかったわ……ところで」
 風里は冷たい視線をセフィーに向ける。
「優里はどこでなにをしているのかしら?」

「この人がどこで何をしているか知りませんか?」
 優里の問い掛けに踊り子は少し考える仕草をすると首を横に振った。
「ごめんなさい。見たことないわ」
「マスターはどうです?」
「すまんねえ。店に来てくれた人の顔はできるだけ覚えるようにしてるんだが……」
 優里は落胆したまま宿屋を後にして、外で待っていたオルフィナ・ランディ(おるふぃな・らんでぃ)に話しかける。
「駄目でした」
「甘く見積もっても30点だな」
 呆れたような声だ。
 しょぼくれる優里の姿を見て、仕方ないなあというように口を開いた。
「良くも悪くもお前は正攻法すぎるんだよ。途中まで見てたけどよ、あれじゃあ隠そうとしている奴からは情報を聞き出せねぇな」
 まあ見てな、と言うとオルフィナは宿屋へと入っていく。
 彼女は食器を下げているウェイトレスに話しかけると、宿屋の二回へと姿を消した。
「今の人何か言ってましたか?」
 優里がマスターに声をかけた。
「いや二階の奥の部屋借りるってだけさ。あんたの連れだろう? 行かなくていいのかい」
 時折、二階から響いてくる嬌声に顔を歪めて優里は答えた。
「……まだ死にたくありませんから」
 思い浮かぶのは大剣を背負っているオルフィナの姿だ。
 マスターも同じ光景を思い浮かべたようで冷や汗を額に浮かべていた。
「……なんか飲むかい?」
「珈琲ください。ブラックで」
「あいよ」
 マスターと他愛のない世間話をして待つこと数刻。オルフィナが下りてきた。
 なぜか一緒に上がったはずのウェイトレスの姿はない。
「あ、マスター。彼女今日は使い物にならないと思うから休ませといてくれ」
「……今日は仕事も少ないから別にいいけどよ。そういうことは余所でやってくれ」
「悪い悪い。んじゃ行くか」
 優里を連れ立ってオルフィナは宿屋を後にした。
「あの可愛い娘が男の居場所を知ってたよ」
 良い笑顔で言った。
「そうですか……こういうとき僕はどうすればいいのか知らないですよ」
「とりあえずおまえの今後の課題は相手の反応を見落とすなってことと――」
 ニヤリと笑い、続けた。
「男を磨けってところだな」
 難しい注文だ、と優里は自答する。
 隣を歩く、良くも悪くも男らしい女性を見て優里は新しい思いを胸に秘める。
「オルフィナさんって冒険者って感じですよね。憧れます」
「あっはっは、俺みたいになりたかったら男を磨かないとなあ」
 優里が彼女のような強さを手に入れるのは当分先の話になりそうだ。