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リアクション
第四章 妨害者との対決
四季の森、北方。解決を求める人々が侵入する前。
「ククク……心地よい森ですねぇ。こんな素晴らしい場所を浄化しようなどとは、無粋もいいところです」
不快な笑い声を上げるエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)いやギフトクルーエル・ウルティメイタム(くるーえる・うるてぃめいたむ)を取り込んだ魔人ヌギル・コーラスは異変を抱えた森を楽しんでいた。エッツェルはおらずいるのは不死者の肉体に高い知性と災厄を好む人類に仇なす怪物だけ。
「ここを拠点に徐々にティル・ナ・ノーグを浸食していくのも楽しそうですねぇ」
ヌギル・コーラスはゆっくりと自身の穢れと『死の風』をまき散らし、花妖精達の精神を乱しながらさまよい始めた。
精神を乱され、ヌギル・コーラスを襲う花妖精もいたが、
「……愚かですねぇ」
触手で捕らえ、食らった。
そして、またさまよい続ける。『廃れた知識』と『フールパペット』を使い、森に漂う負の感情や亡き人に形を与え、さまよわせる。
この後、ヌギル・コーラスは泉に辿り着き、触手で氷をぶち破り、『陰府の毒杯』で毒化させた泉の水を森中を巡らせる事に成功する。
仕上げに花保管庫へと向かう。その間も『フールパペット』と『陰府の毒杯』で花妖精や森達を石化や精神撹乱や狂い死にさせつつさまよった。
「マジさみぃな、おい。こんなに寒いのなら他の方角に行くんだったぜ……つーても今更遅ぇし。フレイ、俺達が凍え死ぬ前にさっさと花を探すぞ」
ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は氷世界に後悔のため息をついていた。
「はい。グィネヴィアさんだけでなく花妖精さん達もお救いする為に頑張りましょう!」
ベルクとは対照的にフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)は人助けに燃え、寒さなど感じていなかった。
「今回もこの超優秀なハイテク忍犬な僕の活躍の場がやってきましたね! ご主人様、花保管庫はこの僕が見事に見つけ出して見せますよ! エロ吸血鬼、震えている場合ではないのです。ご主人様とこの僕に歯向かう邪魔者が出てきたら排除するのですよ」
忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)は自信満々な様子を見せ、ついでにベルクに軽く悪態をついた。
今回ポチの助は獣人化してノマドッグ・タブレットを常時使用出来る状態にし、防寒対策にビグの助の背に乗ってぬくぬくしている。タブレットの方は劣悪環境に耐えうる優れ物なので心配無い。
「……人の事言えねぇだろ」
ベルクはポチの助の言動に呆れたように言った。
「うるさいですよ、エロ吸血鬼。導くのはこの僕ですよ」
ベルクにまたまた悪態をつく。森に入る前のグィネヴィアの説明から森の状態、泉や保管庫の場所を『情報通信』を持つポチの助はノマドッグ・タブレッに記録し、あらゆる場所での緊急時の脱出経路まで調べ上げ、『記憶術』で全て頭に入れ、案内の準備は完璧だ。
「早く、行きましょう。マスター、ポチ」
フレンディスの言葉で対花妖精の道具を装備してから本格的に動き始めた。
花集めはポチの助が森の状態を調べた時におおよその生息場所を調べていたおかげと『捜索』を持つためシクラメン、スノードロップ、クリスマスローズと順序に進んでいた。解凍は後ほどに。
見つける度に
「ふふん、この僕は超優秀なハイテク忍犬ですから花集めもお手の物ですよ!」
自慢げに胸を反らすポチの助。
「ポチ、頼りになります」
フレンディスの褒め言葉でポチの助はますます嬉しそうに尻尾を振る。その間もベルクは仲間のために周囲を警戒していた。
「ご主人様、もうしばらくすれば花保管庫ですよ!」
ビグの助で先頭を務めるポチの助が嬉々とした声で言った。フレンディスの役に立っていると思い嬉しくてたまらないのだ。
「はい、ポチ、気を付けて下さい。マスター、やっぱりおかしいですね。グィネヴィアさんの説明と違いますし、他の何か、説明は出来ませんが大変危険な気配が致します」
フレンディスはパンジーを摘みながら道々襲って来た花妖精や徐々に感じ始めた嫌な気配について口にした。
「そうだな。このランタンが効果を発揮すると言っていたが、役に立っていないしな。さっさと花保管庫に行って厄介事に巻き込まれる前に片付けた方がいいだろうな」
ベルクは役立たずとなったランタンの方に視線を落とした。ベルクもまた同じように悪意に溢れた気配を感じつつも他の仲間に花保管庫に向かう旨を伝えていた。
「……今、何が起きているんだ。花妖精の様子が聞いた話しと違う」
耳栓を使用し『心頭滅却』で冷気を防いでいる酒杜 陽一(さかもり・よういち)は山茶花を摘み取り、周囲を見回した。花集めをする道々何度も襲撃者に遭遇したが、ランタンは通じず、気絶させるしかないかと思うも次々自ら地面に墜落していったのだ。放っておく訳にはいかず、理沙達に連絡して保護は頼んだのだが。嫌な胸騒ぎは酷くなる。
「……歩き回る妙な存在もいる」
陽一は通常見えないはずの亡き人が見える状態である事や花妖精の様子から精神に影響を与える何かがあると考え、『肉体の完成』で身を守る事にした。
とりあえず陽一は花集めを続けた。
追加で梅や馬酔木や匂い桜を回収後。
「……あれは」
陽一は椿を摘みながら花保管庫に向かうと連絡を入れたフレンディス達を発見した。
そして、何か知っているのではと駆け寄った。
「……花の集まり具合はどうだい?」
陽一はフレンディス達の会話に加わった。聞きたい事は惨状についてだが、まずは挨拶代わりの質問を。
「ぼちぼちだ。それより、森がおかしくねぇか」
ベルクは適当に答え、森の異変を話題に挙げた。
「それは俺も思っていたところだ。厄介なものか人がいるのかもしれないと」
陽一はうなずき、さまよう亡き人達に目を向けた。毒化した泉がゆるりと流れ、花妖精達が石化や毒化や精神錯乱など悪影響の拡散が酷くなっている事はまだ知らない。
「……しかしまた森で厄介事か」
ベルクはイルミンスールの森での事を思い出し、疲れたようなため息を洩らした。
「俺は泉の状態を確認してから手伝うよ」
陽一はそう言ってフレンディス達と別れた。
フレンディス達は途中、デンドロビウムを摘み取ってから保管庫へ行った。
花保管庫。
「マスター、花保管庫が破壊されていますよ。花妖精さん達も危険です!」
「これはやばいな。同系列属性で倒すのは無理だが、行くしかねぇか」
花保管庫に辿り着いたフレンディスとベルクはヌギル・コーラスが触手で破壊し尽くした所にやって来た。破壊を終えたヌギル・コーラスは周囲にいた大勢の花妖精達を捕食したり、精神を汚染させたり命を奪ったりと大いに活躍していた。
「ポチ、花と花妖精さんを頼みます」
フレンディスは回収した花をポチの助に任せ、花妖精達を救うためにベルクと共に向かった。
「ご主人様、お任せ下さい」
ポチの助は壊さないように凍った花を預かり、戦闘支援に回った。
「これはまずいな」
陽一はすぐに舞花に知らせてからフレンディス達の元に駆けつけた。もちろん救助要請も忘れなかった。この時、石化したり命を失う花妖精や毒々しい泉の水が森中を巡る状況は急速に広がっていた。
「助けられる者は少しでも助けなければ。人を呼んだからすぐに助けが来るはずだ」
陽一はフレンディス達に救援が来る事を知らせ、救えそうな花妖精を深紅のマフラーで引き寄せ、急いでペット用治療キットを装備させたペンギンアヴァターラ・ヘルムで回復させていく。気が抜けない相手なのでフレンディス達は耳だけ向けていた。
「……四季の森か。名前の通りなら本来は凄く綺麗な森なんだろうな」
「そうですわね。きっと本来は様々な花が咲く素敵な所なんでしょうが、今はすっかり死の森と化してますわね。妙な者が歩いていますし」
涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)はエイボン著『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)と共に花集めの支援のために森に入っていた。
この後、すぐに涼介達はヌギル・コーラスの障気に汚染された襲撃者に襲われ、ランタンが無効化である事を知った。襲撃者は涼介達を襲った後、狂ったような声を上げ、白目をむいて気絶してしまった。
花妖精に遭遇した後。
「……兄様、この異変は花冠だけが原因とは思えませんわ」
「そうだね。何かとてつもない災厄があるのかもしれない。高い知能と知性を持った災厄の魔物が」
涼介と『エイボンの書』は先ほど遭遇した花妖精の異常さについて話していた。
その時、
「……ん?」
涼介の元に舞花からの知らせが入り、惨状の原因を知った。
「何か分かりましたか?」
連絡終了を確認するなり『エイボンの書』は涼介に訊ねた。
「分かったよ。原因は……」
涼介はエッツェルいやヌギル・コーラスが来ている事を話した。相手は同じ学舎の友。互いに手の内は知っているが、優しい涼介の胸の内は楽し気分では無かった。
「……そうですか。急がないといけませんわね。一刻も早く元の美しい森を取り戻すために。兄様、彼の者は外なる神の力をその身に宿しているようなのでわたくしの持つ魔道書としての情報、旧き神の力を魔力として流す事が出来れば対抗できると思います」
「……頼むよ」
『エイボンの書』は惨状を見回した後、真剣な表情に変わった。それは涼介も同じだった。
涼介達は花保管庫を目指して急いだ。途中、同じ目的の二人と出会い、共に行動する事にした。
「……何か嫌な感じがする。花妖精の様子もおかしいし」
ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)は遭遇する花妖精の異常さに嫌なものを感じていた。ローザマリアはグロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)と一緒に花集めの支援をしようと妨害者排除に精を出していたのだが、襲う襲撃者が次々と狂ったような悲鳴を上げ、墜落していくのだ。幸い気絶だけではあるが、聞いていた話と違う事が気になって仕方が無い二人。ちなみに排除に邪魔になるとして道具は持っていない。
「そうだな。その上、奇妙な者も闊歩しているとなるとただ事ではないな」
グロリアーナは毒々しい障気を撒き散らす亡き人達を目で追っていた。
「……?」
突然、ローザマリアに疑問を解決してくれる連絡が入り、何かと話し込んでいた。
「……どのような惨事が起きているか分かったのか?」
話が終わったのを見計らい、グロリアーナが連絡の内容を訊ねた。
「この惨状の犯人は……」
ローザマリアは舞花から受けた連絡内容を話した。
「それはまずいな。放置すれば災厄はこの森を飲み込み、広がるだろう」
「何としてでも止めないと」
グロリアーナとローザマリアは花保管庫に向かう事にした。
その時、
「そうですわ」
「嫌な感じだよ。相手がかつて同じ学舎の友と言うのは。そのおかげでどれだけ強いのかも知っているし」
近くにいた『エイボンの書』と涼介が会話に加わった。二人もまた舞花から知らせを受けたのだ。
「そなた達も連絡を受けたのか」
グロリアーナは現れた二人に言葉をかけた。
「先ほどね。本気でいくしかないね。こちらの方が人数が多くても油断は出来ない」
涼介は表情を引き締めた。すっかり覚悟は決めている。
「ここからそう遠くない場所だったな。ローザ、妾は空から行くぞ」
グロリアーナは王騎竜『ア・ドライグ・グラス』に跨り、上空から魔人ヌギル・コーラスの障気を見極め奇襲をかける事にした。
「分かった。私達も行こうか」
ローザマリアはグロリアーナを見送ってから涼介達と一緒に現場である花保管庫に急いだ。
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