|
|
リアクション
「いやー! イヤー! IYAHHHHH!!」
ベッドに拘束されている咲耶が喚く。彼女を研究者が取り囲む。レックスレイジで抜けだそうにも筋弛緩剤で力が入らない。
アリサ:マジで改造される5秒前ってところですか
咲耶:何ですかその余裕は!?
喚く女と無抵抗の女を目の前にこの後の解剖実験をどうすべきか研究者は悩む。
「どうする……博士は来ないし所長の許可も降りてないぞ」
「所長は別の所で異世界人と今後の改造プランを話している最中だ。博士はどこに行ったのかしらないが、彼女なしで解剖しても文句いわれるしな……」
腕組悩む。
血液と脳波サンプルはもうとったが、中身を調べるのは明日という話だし。
どうしたものか。
「クハハハ! 貴様ら何を悩んでいる!」
笑い声とともにハデスとアイザックが登場する。扉を開いてすぐにアイザックが部下へと命令する。
「あのバカレズの先走りですか。いいでしょう、すぐにオペに入ります。予定が変わった」
契約者たちの襲撃が予想以上に深刻で、すぐにでもここに来る。生体サンプルがまともに揃っていない状況で彼らがここに来てはアイザックの研究が進展しなくなる。
重役は言いなりとは言えただでさえ犠牲を払っている。成果を上げなければ――
「被験体A、B同時に行います。麻酔ガスを用意を」
「では、俺も手伝おう。被験体Aは任せておけ」
ハデスがメスと改造ドリルを取り出し、被験体A――すなわちアリサの台に向かう。
「解剖しながら改造してやろう! 何、なくなった部分には色々と詰め込んでやるから安心するんだ。起き上がったらガジェットアリサになってるさ」
マッドサインティースツよろしくメガネを光らせるハデス。
彼に対しアリサは。
「「お断りします」」
ハデスの動きが止まる。止まったんじゃない、止められたのだ。
言葉と言葉で振動と精神で口と《精神感応》でアリサがハデスに揺さぶりをかける。
「「あなたが《精神感応》を持っていることはわかっていました。列車でもあなたが一度もこれを使わなったけれども。でも、あなたが私の前に来るのを待ってましたよ」」
メスが落ち、ハデスが大音量で響く声に耳を塞ぐ。
「アリサ・アレンスキー……これは……!?」
「「私の資料を読んでいないんですか? 《精神感応》で相手に増幅した声と感情を送りつけるこれが私の強化人間としての唯一の能力です」」
他のスキルはアリスの人格とともになくなったが、この精神攻撃は元からアリサのものだ。増幅された声の弾丸がハデスの脳を打つ。
「や……めろ……」
冷めた目でハデスを見下す。
「「別に私は解剖されてもいいんです。そんなの何度もされていますから。でも、あなたには心底怒っているんです。マッドサイエンティスト気取りもいいけど、自分の妹を実験体に売り渡すなんて、軽はずみでも許せません!! 少し後悔させて頂きます」」
「なにをする――き……だ」
「「あなたが、周りにどう思われているのか。咲耶さんがどんな思いを抱いているのか知ってもらいます」」
――オモイシリナサイ――
ハデスの脳に大量の情報が送りつけられる。
それは他者が彼に抱くオモイ。
――皮肉。嘲り。軽蔑。殺意。疑念。失望。怨み。差別。叱責。裏切り。諦念。無視。揶揄。卑下。不安。愉悦。辛辣。嘲罵。失笑。期待。残根。悪意。懐疑。不信。失意。誹謗。侮辱。侮蔑。不義。邪推。不快。批評。矮小。姑息。軽侮。嫌悪。嘲笑。悔恨。悵恨。羞恥。冷笑。盲信。誤解。害悪。失意。羨望。愚弄。嗤笑。誹毀。罵倒。卑屈。讒謗。無関心。執拗。溺愛――
あらゆる感情のトンプソンのように意識を打ち砕く。打ち込まれた感情の弾丸は苦痛となって精神を蝕む。さらにフラッシュバックする咲耶の感情が脳裏を豪打する。
跪き、蹲り、呻く。
「やめろ……! 言うのをやめろ……! やめさせろ……!」
「「耳を塞いでも無駄です。これは皆さんが無意識に思っていることに過ぎません。こんなことはしたくなかったのですが……こうでもしないとわかってくれませんよね?」」
悶え、のた打ち回り、錯乱する。
然れども、声は止まない。
「「自分の妹を、あなたを慕っているその子を矮小な好奇心で売るなんて最低です。いつかその軽はずみな行為があなたに牙を向きますよ。もっと後悔する前に咲耶さんを開放してあげてください」
頭が割れるように痛い。耳鳴りがする。吐き気がする。視界が乱れる。まともに考えられない。だが、
「……だが……こ、とわ、る……。俺は……マッドサイエンティストだ……こんな……他人の思想で……俺は止まらない……!」
頭に聞こえてくるのは、今までも無視し続けてきた声。なら、どんなに大きく響こうとも無視すればいい。なんてことはない。結社の発展のために、科学の進歩のために、自身の野望のために――妹の声も思いも犠牲すらもだ。
「「そう……ですか。咲耶さんの気持ちも無視するんですね……助けもしないと」」
残念そうにでも冷徹に、「なら」と光のない眼で告げる。
「なら、少し”壊れて”もらいます。考えが変わらないなら意識を変えるまでです」
アリサがハデスに何かをしようとしたその時、
「――やめてください!!」
咲耶の悲痛な叫びとともに、天井が崩れ落ち、同時に部屋の扉が開いた。