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リアクション
「あっけねえな……」
鍬次郎が転がる首を蹴り飛ばし、納刀する。切ったものは機械だったので血を払うことはしなくてよかった。
「電車男さん……全身サイボーグ化してたんですね……」
葛葉が胴を観察する。機械の体に《フールパペット》は使えそうにない。
使えないなら仕方ないと、ハツネが《グラビティコントロール》で念入りにその首なしを潰す。潰れた人工心臓からホワイトブラッドが噴き出す。
状況はすでに終了している。
アリサも咲耶も助けだす事ができ、研究者も反逆した『くまさん』に抑えこまれている。敵対したオリュンポス――ハデスも蹲って動かない。敵という敵ももういない。
あとは、ここから全員で脱出すればいい。それもシステムを掌握した今では簡単なことだ。
「ああ、結局面白いもの持ってきたのに使えないんだ……」
美羽が残念そうに言う。何を持ってきたというのだろう。
「チャント返しましょうね。美羽さん」
どうやら、この会社の物品を盗んできたもとい、借りてきたのだろう。ベアトリーチェが勝手に持ち帰らないように釘を差します。
「ところで、そこの蹲っているマッドサイエンティストはどうすんだ?」
シリウスがハデスの処遇について尋ねる。
「いつものこととはいえ、妹を売り飛ばしたことは容認出来ないところがあるよね。お仕置きが必要かなって思うけど……もうなんかされてるみたいだし」
サビクが見る限りもうお仕置き済みって感じだ。何故かアリサの眼が泳いでいる。
咲耶がベアトリーチェの肩を離れ、倒れそうになりながらハデスへと寄る。
「兄さんは私が……連れて来ます……」
同じオリュンポスの一員だが、彼女の申し出を拒否する者はいない。これが他の組織構成員だったら違っていただろう。
「首なら……《フールパペット》使えるでしょうか……」
葛葉が電車男の首を探している。蹴りやられて何処かに行ってしまった。
『くまさん』に組み伏せられているアイザック・サンジェルマンが身動ぎながら嗤う。
「クク……まだだ、まだ終わってない……」
「何言ってるのよ複眼メガネ」
何も出来ないはずの彼が不気味に嗤うのを美羽が踏みつける。
「なに、まだとって気があるんですよ。お前らまとめてあの世行きのとっておきです」
「この期に及んで何をするの?」
息を大きく吸い、アイザックが最終防衛命令を叫ぶ。
「ジャーック!! 『ン・カイの幽閉を解き放て』!」
部屋の奥でガラスの割れる音がする。
一番近くに居たハツネが割れた窓へと駆け寄り、外とに落ちるそれを見る。
首だけで微笑う電車男が、倉庫に向かって落ちていくのを見た。
首が見えなくなった頃、ビルを揺らす地響きが起こり、倉庫の周りが大きく陥没する。
陥没した巨大な深淵の中からそいつが這い出してきた。
「なんですか?」
揺れるビルにアリサが驚く。
「先に外に出てみる! アリサはここでじっとしてて!」
「美和さん、待ってください!」
美羽はダリルに《テレパシー》でロビーへの最短ワープを要求して、ビルの外へと向かった。ベアトリーチェも彼女に続いた。