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―アリスインゲート1―後編

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―アリスインゲート1―後編

リアクション

 プラズマ砲を避け、恭也が走る。彼のいた左の地面には抉られ熱融解したレーザー痕が長い直線を描いていた。人間があれを喰らえば一瞬で蒸発するだろう。
 この戦い、如何に胴体にあるコックピットを壊すかが鍵となる。そこに刃が届くためには、この巨体を登るか、バランスを崩させるかの二つの戦略が選べる。
 しかし、銃火器とミサイルの烽火を避けて、垂直に反り立つ脚を登るのは難しい。
 AN/Pの巨体は8本の脚で支えられている。前足を攻撃用と考えても残り6本の脚が支えとなる。1本壊すくらいではバランスは崩れない。多脚の利便性はそこだ。
 しかし、片側だけを3本集中的に壊せば何の問題もない。重心は傾き、バランスを崩す。これが有効的な戦略だ。
 恭也は機銃から掃射される銃弾の雨をブレードで弾きながら弧を描き近づく。
 地を薙ぎ払う前足の斬撃を飛び越え、右第二足に到達する。走りながら斬撃を与える。
 しかし、斬撃は恭也の腕に反動として返ってくる。右第二足装甲表面に太刀傷が赤い線となって現れているが、それも徐々に消えていく。腕には鉄を滑った感覚と、手応えの無さが残る。
 超高速振動により分子振動で対象の分子間結合を断裂させる仕組みを持つ高周波ブレードを用いてもこの装甲は切断できなかった。
「どうなってるんだ、この脚は!?」
 狼狽する恭也に誘導ミサイルと脚部による突き刺し攻撃が迫る。ミサイルを開きにしながら退避する。
 オーグメント視界にエルメリッヒが映り、AN/Pの装甲について説明する。
「AN/Pの装甲は半流体金属になっていて斬撃や銃撃の衝撃を吸収する仕組みになっている。多少の攻撃を受けても記憶形状で傷はすぐに修復される。装甲を破るにはそれ相応の質量をぶつけるか、その武器よりも高い切れ味か特殊な武器を使わないと、人の持つ武器程度じゃ針と同じだよ」
 AN/Pの巨体からすれば恭也の手あるブレードはまさに針同然だ。
 通信にかまけていると、前足の薙ぎ払いが飛んでくる。ブレードで凌ぐも、質量の差で吹き飛ばされてしまう。ブレードも手から離れる。
 落下。そして三点着地。柊恭也。
 遠くに突き刺さるブレード。腕ではAN/Pの攻撃を防ぐことは出来ない。
 迫るAN/Pの攻撃にどうすることも出来ない。
 左から砲撃音が響く。ビルの入り口から伸びる閃光がAN/Pの頭部を穿ち、一時的センサー不良を引き起こす。
 人型用レールガンから高出力エネルギー体を撃ち出した小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は小さい体にその反動を受けて尻餅をついている。
「何やってるんですか!?」
 ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が美羽に寄る。後ろで何か重たい金属音がしたのを聞くに、彼女も何か持ってきたのだろう。
「ひゃー、反動きつすぎるよ! 重いし!」
 それもそうだ。本来これは銃座に設置して使うためのものであって、決して人が持ち歩いて運用するものではない。強そうだからと、威力実験室の台座から剥ぎ盗ってきたものなので、充電は不十分。この一発だけでこいつはもう使いものにならない。乱暴に捨てる。
 しかし、その一発でもAN/Pに十分なダメージを与えた。頭部の塗料が赤く変色して戻らない。
 反撃のチャンスと行きたいが、恭也に武器がない。
「待たせたな!」
 入り口の日除け屋根の上に立つ紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が恭也へと何かを投げる。
「受け取れ!」
 飛来する一振りの刀を掴み、金属の鞘から抜刀、恭也は再び構えを取る。
 その刀身は刃紋が浅葱色に輝き、滲む粒子が危険性を示す。刃先を地面に振り下ろせば、接地せずとも地面が薄く抉れていく。刃から断続的に噴出される量子結晶が対象の分子結合を崩壊させる仕組みだ。
「これはなら……」
 恭也はこの刀ならAN/Pの装甲を斬れると確信し、再び地を駆る。黒い蜘蛛へと向かう。
 AN/Pはその巨体に合わない俊敏さで大きく跳躍させ、彼らとの距離を取る。口部より高出力プラズマ砲を放ち地面をなぞり迫る。
 美羽はべアトリーチェに催促の手を伸ばす。
「あれかして!」
「はい、どうぞ」
 ベアトリーチェが後方に落としていたレールガンよりもでかいそれを美羽に渡す。持ってきたと言うよりは引きずってきたと言うべき跡がここまで続いている。
 それが何かと彼女たちにはわかってはいないが、ただすんごいへーきとはわかっている。
 付属のゴーグルサイトを着けて、起動。エネルギー及びセンサーサイトが表示され、ロックオン完了の文字が浮かぶ。
 射出口前方の機構が回転を始め、放電現象を起こしながら次第に高速化する。回転の中心点に空間の圧縮体が形成される。
<<ベクターキャノン、スタンバイシークエンス完了 Ready?>>
「ファイヤーーーッ!!」
 美羽はトリガーを引き、砲火を放つ。空間の圧縮体がスクリュー回転しながらAN/Pの足元へと飛んでいく。巨大な弾丸が周囲の空間を切り裂き、3本の脚を飲み込んだ。
 片側3本を削られたAN/Pがバランスを崩す。出力中のプラズマの束が大きく的をそれる。だが、片側でも2本は脚が余る。その2本で胴体を支える。
 使える前脚のブレードは1本になったが、それで接敵するものへと攻撃を繰り出す。
 急襲する斬撃に、恭也は刃を合わせる。
 細い緑刀が巨刀の刃に食い込み、金属の分子間結合を高周波ブレードよりもズタズタにして引き裂いていく。滑るような一太刀で恭也は前足のブレードを切断した。
 AN/Pは退避行動に映る。ミサイルによる弾幕で撹乱し、跳躍によって距離を取ろうする。
 しかし、踏み込みの振動を受けてか、本社ビルの跳び控え壁が崩れて胴体にのしかかった。跳躍プロセスが緊急キャンセルされる。
 この事態を引き起こした張本人に一つ尋ねよう。で、味は?
「……ミルキィ」
「今まで壁食ってたのか!?」
「……もっと……もっと食べたいです……!」
 無形の落とし子に取り憑かれたかのようなネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)緋王 輝夜(ひおう・かぐや)が壁から引き剥がす。それでも垂涎が止まらない。
 跳躍出来なかったことでAN/Pはその場からしか迎撃することができない。跳びつく者への直接的な攻撃に弱くなる。
 AN/Pは退避プロセスを跳躍からスライドへと変える。後退しつつミサイルを飛ばす。
 恭也は跳躍し、飛来するミサイル群を足場に退避するAN/Pに接敵する。
 AN/Pの複眼が一斉に焦点を合わせる。口部に高エネルギーの放出予兆を見せる。
 口部からプラズマ砲が発射される前に、頭部が二つに別れる。
 破裂する頭部を超え、恭也が緑刀を振りかざす。
 高速の斬撃と緑刀から噴出される量子の刃が流体金属の粘性及び弾力性を分子分解、原子崩壊レベルでズタズタにする。数十に及ぶ斬閃が走り、胴体の装甲をチーズのようにスライスしていく。
 剥き出しになる駆動機関及び配線。それらも同時切断する。瞬く間に、胴体は瞬く間にバラバラに分離していく。胴体を失った脚部は自重で内側へと倒れていく。
 腹部関節にあったコックピットも切断され、中に居た首だけの操縦者がその姿を表す。そいつが逃げる前に恭也は右腕を伸ばしすかさず頭を掴む。
「モラッタ――ッ!」
 掴んだ頭を義手の握力で粉砕する。眼球、白色血液、人口髄液が飛び散り、かつて誰かの頭部であったそれは破片と化した。