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リアクション
地下世界ン・カイの深淵に幽閉されしモノには『おぞましきものツァトゥグァ』ともう一柱がいる。
それは、真紅の目と黒檀色の毛で覆われた体と脚を持つ蜘蛛。無限幽閉の時を送る神。
神名をアトラク=ナクアと呼ばれている。
その巨大な多脚式ロボットが甲高い咆哮を上げる。耳を劈く大音量の高音が響き渡る。
それの前に最初にたったのは柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)だった。
「何だこいつは……イコンよりでかい……」
距離感覚が狂うような巨体に唖然とする。
八本の脚の一つ一つが人より幅のあるブレード状になっている。長さもゆうに15メートルはあるだろう。
腹の膨れた黒色の胴体には無数のミサイルポッドと機関銃が設置されており、頭部には無数の赤い目がセンサーとして辺りを見回している。まさに巨大な蜘蛛だ。
恭也:おい、ダリル! あれはなんだ!
ダリル:システム上で確認しているが、わからん……
恭也:止められないのか?
ダリル:駄目だ、アイツはスタンドアローン(自立型)だ。こっちではどうにも出来ない。
「あれは……!」
新風 燕馬(にいかぜ・えんま)とともに研究棟から避難してきたエルメリッヒ・セアヌビス博士が巨大な蜘蛛型ロボットを見て驚いている。
「知っているのかライデン!?」
ライデンはお前だろうと突っ込まれそうな問を投げる恭也。エルメリッヒが答えてくれる。
「あれは、アトラク=ナクア/プロト――通称AN/P(アンプ)。見ての通り多脚型のロボットでエッジ状の脚を地面に突き刺すことでどんな場所にも対応できる迎撃兵器です。対空性能に優れたミサイルユニット、地上兵力の殲滅に優れた前足のレーザーブレードと高出力プラズマ砲を搭載した画期的な新型の試作ロボットだよ」
「流石ロボットの権威。よく知っていますね」
燕馬が褒めるとエルメリッヒは頭を掻きながら照れていた。
「よく知っているというか……あれ。僕が作ったやつだから……」
……
二人がAN/Pと博士を交互に見る。なんてものを作ってくれたんだと。
「何故あんなのを作った……」
「フィーニクスの時と大分違うのだが……」
「ホントはフィーニクスみたいな変形機構のあるロボットじゃなくて、逆関節二脚とか多脚のロボットが作りたかったんだけど、トロイアの部隊って空軍主体だったでしょ? 無理やり戦闘機型のを作らされていたんだ。軍だから仕方ないけどね。で、こっちに来てから対空迎撃に優れたロボットを作ろうと思って、色々と試行錯誤していた結果――」
結果、
「あんなのが出来たんだ……どうだい? なかなかすごいだろ?」
自慢気である。
「で、そのすごいのが今乗っ取られていると?」
恭也の言葉に頷く。
「倉庫地下の格納庫(ハンガー)で動作実験してた段階だったから、地上に出す気はなかったし、会社のシステムからは隔離してたはずなんだけど……誰かが中に入って操っているんだろうね。ハンガー格納時以外のリモート機能はないから」
誰かがAN/Pを操っている。
誰かというのはご存知、電車男の首だ。ジャックするのは列車に飽きたらずロボットもジャックし始めたらしい。
「とにかくアイツを止めるにはどうしたらいい?」
「操縦者をコックピットから引き剥がせば勝手に止まる。もしくは機能が停止するまで破壊すればだけど……」
「だけど?」
「余り壊さないでくれるかな?」
恭也が親指を立てて頷く。
「――無理だ」
「そ、そんな!?」
「はーい。博士は離れましょうねー。危ないからねー」
燕馬に引きづられ、エルメリッヒは遠くへと行ってしまった。
複眼が恭也を捉える。
高周波ブレードの刀身に電圧を流し、正眼に構えている。
AN/Pの雄叫びに合わせ、サイボーグニンジャが駆ける――
口部からのプラズマ砲が地を奔る――