リアクション
こちらにも、二人から別々に誘われた人が居る。長曽禰 広明(ながそね・ひろあき)は月摘 怜奈(るとう・れな)とピクニックに来て、土産物屋を回って歩いていた。
「あの……こうやって何度もお誘いしていますけれど……その、ご迷惑じゃないですか……?」
怜奈はパートナーに薦められて広明を誘い、祭りに来たのはいいが、恋人向けの祭りだと知って内心当惑していたのだ。
「ん? ああ、迷惑なんかじゃない」
「ふふ、長曽禰さんならそう仰ると思っていました。それに、きっと嫌なら断られるはずだとも思ってます」
怜奈はそう言って笑った。
「でも、その……喜んで頂けているのかな、って……。無理やり付き合って頂いてるのなら申し訳ないですし」
「迷惑じゃない、という言い方が悪かったな。オレは、こうして誘ってもらえて嬉しいと思ってる。あんまり深いこと気にすんなって」
「それなら、良かったです」
怜奈は、周りにいるのがカップルばかりで、土産物の多くがペアものだということで膨れ上がってきていた不安が、溶けるように消えて行くのを感じていた。
先ほどまで、恋愛に関係のないお守りを必死に探そうとしていた怜奈だったが、それは案外すぐにみつかった。
「長曽禰さん、これ、プレゼントです。今日のお土産、ということで」
レジから戻ってきた怜奈が、店の外近くで土産物を眺めていた広明に小袋を差し出した。
「いいのか? ありがとう」
広明が袋を開くと、中に入っていたのはウサギの足の形を模したお守りだった。
「ウサギの足の形? 珍しいな」
「ウサギの足は、幸運を招くお守りなんです。小さい体で素早く走るところから、ウサギの足にはとてつもない力が秘められていると考えられていて」
「へえ、そうなのか」
「それにウサギ自体も幸運のモチーフなんです。耳が大きくて音をキャッチするのにひっかけて、幸運を逃さずキャッチするって言われたり」
広明はそのお守りを、じっと眺める。
「……私が長曽禰さんの幸運を運べたら、いいな……って」
広明の横顔を眺めながら、怜奈が小さく呟いた。
「ありがとな。大切にするよ」
呟きが聞こえたのか聞こえていないのか、広明は笑顔を見せた。
その笑顔を見ながら、怜奈は広明を誘って良かった、と思えたのだった。