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【山頂・地上楽園】


 後日。
 蒼空学園の某一室で、アレクは机に額をぶつけるように頭を落とした。
「だるい」
「あんたね。誰の為に付き合ってやってると思ってんの。
 ボランティアであんたの歪んだ人格を治してやろうっていうこっちの身にもなりなさいよね!」
 頭の上に雅羅の持っていたファイルを落とされて、アレクは渋々顔をあげた。
 教壇には真が立っている。
「そうだよ。
 大体アレクさん、この間も妙な事件起こしたばかりじゃないか」
「あんなの事件に含まれねぇよバーカ」
「ほらまた!
 バーカはやめなさいって言ったでしょ!
 もう!
 ……まあこの間のあれはあんたより酷いのが沢山居たけどね」
「だろ?
 ――という訳で今日で強制プログラムは終了です。三ヶ月お疲れさまでした。
 先生さようなら」
 立ち上がったアレクの肩に、手が置かれた。
 篠原 太陽(しのはら・たいよう)だった。
 不思議な雰囲気を称えるこの未来人の男は、真を「俺」と呼ぶ。
 実はあの日、真をあのスイーツバイキングへと導いたのも彼だった。
「穏便なる空気の中に異質が混じっていると、故意に避けようとしているにも関わらず自然と目が行くものだ。
 『俺』よ、その店を確認するといい。店員にしてはおかしい所に気がづかないか?」
 と、一度聞いただけでは理解に追いつかない言葉を使いながら。

「ミロシェヴィッチ。
 シスターコンプレックスか、他者には非常に面倒だ。
 だが――あの日は傍観には愉快な場である事には変わりなかった。
 私が記念に写真を撮り自身の記憶を呼び起こす媒体として、贈り物をさせてもらう事も出来た。
 その礼として受け取るがいい」
 くどい言い回しで再生した録音の内容は、太陽が適当にだまくらかしたジゼルの声だった。

「おにいちゃんのばかばか! へんたい!」
「やめておにいちゃん! そこはだめぇ!」
「私がこんなになっちゃったの、おにいちゃんのせいなんだからね!」
「おにいちゃん、キスして?」
「おにいちゃん。だーいすきっ」

「何コレ!!」
 超反応したアレクよりも早く、真は太陽の手から携帯電話を取ってポケットへとしまい込んでしまう。
「アレクさん、もっとこれが聞きたかったら、席に戻って」
「真! それ欲しい! 下さい!!」
 両手を組んで懇願するアレクに、真は咳払いした。
「君からFの頭文字のあの言葉が出ないと僕が判断したら、データごと転送してあげるよ。
 さあ、アレクさんプログラムを続けようか」
 真の申し出に、アレクはその日、プラヴダの隊長として彼の隊士の素晴らしい見本になるだろう美しい敬礼をしてみせた。

「Yes,Sir!!!」


担当マスターより

▼担当マスター

東安曇

▼マスターコメント

 参加者の皆様、読んで下さった皆様、どうもありがとうございました。
 兄が酷いシナリオになるかと思ったのに、蓋を開けたら兄よりも酷い事になっている人が沢山いらっしゃってですね、執筆中に何度「これは酷い」と褒め言葉を呟いたか分かりません。
 それでは、またお会い出来たら幸いです。

*アレク台詞脚注:
・ギルディング・メタル
 フルメタルジャケット弾に使われる真鍮。

・マッシュルームの味がどうたら
 ホローポイント弾の事。
 体内に弾が入った後、貫通せずキノコのような形に歪んで(マッシュルーミング)対象にショックを与えるので。

・CSR
 戦闘により齎された有害な心理反応のこと。

・Every rose has its thorn.
 ここでは日本語の「綺麗な薔薇には棘が有る」の意味で使っています。

・ダイニング・イン
 軍隊の隊員のみで行われる食事会。忘年会的なイメージでどうぞ。
 因にアレクがさしている「うち」が米軍なのかプラヴダなのかは不明。