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魔王からの挑戦状? ~起動せよ魔王城!~

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魔王からの挑戦状? ~起動せよ魔王城!~

リアクション

 戦闘開始直後に第三軍によって被害を受けたもの、敵部隊の損傷はそれ以上に激しく戦況は大きくこちらに傾いていた。
『補給完了、垂さん発進どうぞぉ』
「よしっ!」
 戦闘が始まってすぐ、敵のイコン群を蹴散らして一旦補給に戻っていた朝霧 垂(あさぎり・しづり)と彼女の駆るイコン【鵺】。
 ミュートのナビゲートが入るなり、GVのカタパルトに機体を移動させて出撃体勢を取る。
 甲板の上を滑る様に加速した鵺は、大きく空中に飛び出すと勢いよく荒野へと降り立つ。
 着地した鵺のモニターに映るのはざっと10機前後のゴブリン型イコン【ゴブブリン】の姿。
「遅いぜ!」
 こちらの着地を見てから、銃を構え、放つ。
 無駄のない動作ではあったが、この【鵺】から見ればその動作はあまりにも遅い。
 次の瞬間、鳳凰の翼を展開した鵺は射撃体勢を取ったゴブブリンの懐に潜り込み、その機体を鋭利な爪によって切り裂いていた。
「まずは1つ!」
 バチバチと放電し、機体が爆発しかける機体を敵陣に投げ込み、爆発に巻き込む。
 そして、次の標的の懐に入り込み、腹部を腕が貫く。
 格闘戦に特化し、垂の卓越した技術による高速移動はまさに神速といえた。
 コックピットにアラートが鳴り響いた瞬間、勢いよく腕を引き抜くと、大きく飛び上がるとつい先ほどまで自機のあった場所へ近くに居た機体が棍棒を振り下ろしている姿が見えた。
「残念だったな!」
 このまま落下する勢いに任せて粉砕してやろう。
 そう思った瞬間、足元のゴブブリンはビームの奔流に飲まれた。
「あぶねぇっ!」
 咄嗟に機体を制御し、空中で静止させてビームの出先を探ると、魔王の駆るヒュドラーンが両手を大地に付き、砲撃を行っているのが見えた。
「もっと撃墜してやるですぅ! 早く照準合わせやがれですオリジナルぅ!」
「無茶いうなですぅ!」
 ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てながら、出鱈目な砲撃を放つヒュドラーン。
 その射撃には照準もなにもなく、適当にビームを垂れ流しているようにも見えた。
 だが、その砲撃はしばらく続いた後に一斉に打ち止めとなる。
「あ、あれ? 何してやがるですかオリジナルぅ!」
 カチカチとトリガーを引く魔王だが、背中の砲身からはビームが出てこない。
「エネルギー残量がもう残ってないじゃないですぅ」
 はあ、とため息をつきながら冷静に計器を眺めるエリザベート。
「うぬぁー! 囲まれるですぅ!」
 これ幸いと、魔王の機体に向けて棍棒を振りかぶって接近するゴブブリンを見て魔王は悲鳴を上げ、エリザベートは支援要請を始めている。
 だが、空中から走った一筋のビームがゴブブリンの胴体を貫き、魔王の機体に被害が及ぶことはなかった。
「もう、危なっかしいんだから」
 空中で機晶ブレード搭載型ライフルを構えている機体。
 董 蓮華(ただす・れんげ)スティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)の駆るイコン【紅龍】だった。
「あ、危なくはねーですぅ!」
「……何言ってやがるですぅ」
 弾切れして窮地に陥ってたくせに、と続けたいエリザベートだったがそれよりも早く蓮華が個別に通信を入れてくる。
「魔王のコックピットの映像をこっちに映してもらっていいかしら?」
「何するですかぁ?」
「特訓よ!」
 はぁ? と、言いかけるエリザベートだったが、確かこの世界はそう言うものだったという事を思い出す。
 それに、魔王が無茶苦茶するのを抑えられるのは実際彼女達でないと無理だろう、自分にはやけに反発するのだ。
「……繋いだですぅ」
 サブシートから魔王の座るコックピットの映像を映し出し、蓮華の機体へと送る。
 紅龍のモニターに映し出されたのは、どうにか機体を動かそうとやたらめったらにボタンを押しまくる魔王の姿。
「ああ、もう。 滅茶苦茶しない!」
 蓮華の言葉が通信機を介してコックピットに響き、魔王は動きを止める。
「スティンガー、操作は任せるわ」
「うん? お、おい!?」
 紅龍の操作をサブシートに乗るスティンガーに回し、蓮華はモニターの先で動きを止めた魔王を見据える。
「いい? 適当にやったってイコンは動かないわ、ゆっくりレバーを引いて機体を起こすのよ?」
 唐突に説明を受け、慌ててレバーを探した魔王は蓮華の言うとおりにレバーをゆっくりと引き機体を立て直す。
「そう、そのままブーストを吹かせて、一度母艦まで引くのよ! スティンガー、援護を!」
「わかってるよ!」
 ゆっくりと立ち上がり飛び立とうとするヒュドラーンに飛びかかろうとする敵イコンを的確な射撃で撃ちぬいていく。
 だが、多勢に無勢、数が足りない。
「ちょっと道開けて!」
 辺りに声が響く、通信ではない。
 周りを見回すと飛龍を駆るヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)と、彼女が率いる天馬騎兵達の姿があった。
 それらは空中に留まるのではなく、勢いよく下降していく。
「これより近接支援を行う! 頭、気をつけなさいよ!」
 急降下する彼女達は一斉に対イコン用の爆弾を投げつけ、投げ終えた者から再び上昇して離脱していき、爆弾は敵軍の巻き込んでいく。
 「今のうちに!」
 天馬を駆るリネンが叫ぶと、魔王は機体をゆっくりと上昇させていた。
「助かったわ! スティンガー、一旦近くの艦に戻るわよ!」
「はいはいっと」
 スティンガーは機体を巧みに操り、魔王の機体を支えて後方へ飛ぶ。
 爆撃による支援の後、戦場に残ったのは鵺1機。
「にしても、随分と厄介だな、あの魔王」
 その鵺の肩には紫月 唯斗(しづき・ゆいと)の姿があった。
「いつの間に?」
「ついさっきな。 なぁ、垂、お前の鵺って超空間無尽パンチ使えたよな? あの要塞にぶち込める?」
 確かに使えるが、この状況で要塞に一撃を加えても意味はないのだが。
 そう思った垂だが、ふと唯斗が何をしようとしているのか理解できた。
「いや、それで突入は無茶だろ?」
「ああ、結界発動していくから大丈夫さ」
 結界。 唯斗の扱う忍術の1つで、自身に降りかかる負担を軽減できるという。
「どうなっても知らねぇぞ?」
「大丈夫大丈夫、まぁ、頼むわ」
「じゃあ、いくぜ!」
 鵺が構えを取ると、唯斗は軽い足取りで拳の上へ移動して体制を低くしてしがみ付く。
「っらぁ!!」
 垂の掛け声と同時に鵺の拳が魔王城へと向けて突き出される。
 信じられない速度で繰り出した拳は、次の瞬間に魔王城の城壁に着弾し、また次の瞬間には鵺の元に戻ってきていた。
 しかし、その腕に捕まっていた彼の姿はなかった。
「まぁ、死にはしないだろ」
 もし、そうだとしても精神空間であるこの世界ならば問題ないな、と再び迫りくるイコン群に飛び込んでいった。