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リアクション
先ほどよりも少し前の時間。
魔王城の内部を駆ける陽一と貴仁。
「陽一!」
「唯斗!? お前も侵入してたのか」
おうよ、と答える唯斗。
3人は丁度玉座の間前の階段で合流していた。
「後はここを上ってウイルスを仕留めるだけですね、急ぎましょう」
貴仁の言葉に2人は頷くと、一斉に階段を上りだす。
元凶を討てばこの事態は収まる、そう考えながら階段を駆け上がった3人は入り口に入るなり動きを止めた。
「なんで、こんなとこに……!?」
部屋に入った陽一が一番初めに言葉を紡ぐ。
彼の目の前に居るはずのウイルス、それは魔王から聞いていていたぐにゃぐにゃとしたものではなくハッキリと人型を取っていた。
彼の最も愛する人の姿を。
「くっ!」
ここに彼女がいるはずはない、あれは【敵】だと自分に言い聞かせ獲物を向ける。
その瞳は、悲しそうに陽一を見つめている。
「何だよ、何でウチの嫁さんの姿してんだ? 見間違える訳ねーじゃんか!」
唯斗がそう自分に言い聞かせ、勢いよく駆け寄る。
彼にはウイルスの姿は自分の愛する人の姿に見えているようだ。
「そうだ、大切な人の姿を真似たってアイツじゃないんだ!」
唯斗に呼応するように、ゴッドスピードを発動させた貴仁も瞬く間に距離を詰める。
「おらぁっ!」
ずぶり、と音を立てて唯斗の手刀が胸を貫く。
―――そうやって要らなくなったら殺すの?
「……っ!?」
獲物を振りかざした貴仁に、手刀で貫いた唯斗の頭に声が響く。
唯斗の腕は愛する人の『真っ赤に染まった』両手で押さえつけられ、引き抜くことができない。
顔を見やると、口からは血を流し、目からも血を流す愛する人の姿。
違う、違うと割り切っても頭の中に浮かぶその姿と怖いぐらいに何一つ違わない。
「こ、このっ!」
貴仁は刀ではなく、直接蹴り飛ばす形でウイルスを吹き飛ばし、唯斗から引きはがす。
―――私は要らないの?
また、声が響く。
悪趣味だ、誰がこんなことをとその場の全員が思う。
しかし、引きはがされたウイルスは音を立て消えている、苦悩はしたが無事に倒せたのだ。
そう思った瞬間だった、部屋の中に彼らの【大切な人】が群れを成すように現れた。
「畜生!」
叫び声を上げた貴仁と唯斗はそれぞれに大切な人に刃を振るう。
だが、その動きは明らかに遅く、増え続けるそれに対応できていない。
―――陽一はあんな事しないよね?
茫然としていた陽一はその言葉で意識を現実に引き戻す。
目の前には自分の愛する人。
ゆっくりと伸ばされた手が自分の頬に触れる。
「違うっ、お前はっ!」
―――やっぱり。
こんなところにあの人がいるはずがない、こんなことをする筈がない。
そう言い聞かせて斬り捨てる陽一の脳裏にまた声が響く。
自分を取り囲む無数の姿。
「破っ!」
だが、それは陽一が手を出すよりも早く吹き飛ぶ。
「大丈夫か?」
反対側で拳を突き出したままの体勢でハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)が微笑んだ。
「……ああ」
偽物とはいえ、愛する人が目の前で吹き飛んだ。
それは陽一に少なからず精神的ダメージを与えていた。
「……悪趣味だよ、ほんと」
ハイコドの視界に移るのは愛する妻や大切な人が群れる風景。
そして、仲間がそれを斬り捨てる場面。
「違う、姿は同じでも俺と繋がっていない、魂がない」
目を瞑り意識を集中する。
そう、これは自分の中の大切な人達ではない。
この事件の元凶、即ち【敵】。
「はぁっ!」
自在の剣で正面の【敵】を細切れに、歩み寄る【敵】も一刀両断にする。
悲鳴を上げ、崩れ落ちる大切な人の姿。
けど、これは『自分が守れない時の最悪の結果』。
「ありがとう、お陰で俺は大切なモノを無くさずに亡くす結果を知ることが出来た。 感謝するよ」
消えていくソレに言葉を告げ、意識を集中させる。
「もう少しで見える、俺の探す無明を超えた先……守るために本当に躊躇わず拳を振るう覚悟を」
―――本当に、貴方は大切な人を守るために【敵】になった大切な人を殺せますか?
どくん。 そう、心が揺れた。
「出来る……さ!」
ここで負けてはいけない、抗わねば。
ハイコドは強く、誓う。
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