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リアクション
「迷ったですうさ……」
魔王城の一角で、海賊の恰好に眼帯をしたティー・ティー(てぃー・てぃー)は力弱くうな垂れる。
潜入の為に乗り込んだオクスぺタルム号に合わせて海賊の格好をしており、本人はそれを正装といっていた。
「全く、しょうがない堕うさぎですわね……こっちが正しい道ですの! ……きっと」
「いや、そっちは一度通ったぞ?」
イコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が指差す道は、既に一度通ったはずと思いだしながら源 鉄心(みなもと・てっしん)はどちらへ進むか迷っていた。
「あれ、あんた等何してるですぅ?」
「魔王さん! 玉座の間はどっちですうさ!?」
迷っていたのが大分精神的にきていたのか、通りかかった魔王に掴みかかるティー。
「う、うひぃ!? そ、そこの道を真っ直ぐ行った大通りにある階段を昇ればすぐですぅ!」
がくがくと揺らされながら魔王は必死に答える。
「折角なので案内するですぅ」
ここまでくれば別々に移動する必要などないとエリザベートは魔王の言った通りに走り出す。
「よし、じゃあ行くぞ」
鉄心達はそれに続き、後は迷うことなく玉座の間へと進む。
道中壊れた壁やゴブブリンが目立つ物の他部隊の陽動が効いているのか一切の戦闘は発生しなかった。
玉座の間へ駆けこんだ鉄心の目に入ったのは、部屋の至る所に存在するティーやイコナの姿。
そして、ソレと戦う仲間の姿。
「っ!?」
たまらずに息を飲み込む。
「ぐ、ぐにゃぐにゃじゃなくて鉄心……?」
「鉄心やティーがいっぱいですの……!」
咄嗟に自分の横に居る2人を見ると、彼女達も同じように足を止めてその場を見つめている。
しかし、彼女達には自分の姿が見えているようだ。
「……これは!」
見失わぬよう、2人の腕を握る鉄心にはこの現象に心当たりが1つあった。
狂気を糧にする、あの忌まわしき存在、その素顔。
「うあ……?」
エリザベートに至っては完全にへたり込んでいる。
きっと彼女にも大切な人の姿が織りなすこの狂気の宴が見えているのだ。
「……あんなぐにゃぐにゃに何してやがるですぅ! ビビってんじゃねぇですぅ!!」
魔王がエリザベートの肩を叩くが、エリザベートは反応しない。
「サラダにお願いして焼き払いたいですの……」
あまりに異常なこの光景はイコナでなくとも消し去ってしまいたいとは思う。
だが、この室内でサラダを呼び出せば部屋ごと崩壊し、焼き払えば仲間も巻き添えになるだろうと鉄心はイコナを窘める。
「皆! だいじょう……え?」
遅れて部屋に駆け込んできたルカルカは足を止める。
「……っ!」
それはダリルも同様だ。
大切な仲間が大切な人を討つ場面、まともに見れる者等いないだろう。
「どういう事なの?」
「……どういうことか、あのウイルスはその人の【大切な人】の姿を取るようです」
「それに、こいつ等どんどん増えやがる。 くそっ、気味わりぃぜ!」
ウイルスと戦っている貴仁と唯斗にも疲れが、特に精神的な部分に見える。
「少し、待て」
ダリルは入り口で動かず専用HCを起動させて何やら調べ始めた。
「ティー、取りあえずアレを捕まえてみよう」
「はい!」
ティーは手を繋いだままミニミニ軍団を呼び出すと手近な場所に居たウイルスにけしかける。
生み出されたミニミニ軍団にも鉄心の姿が映ったのか一度戸惑うが、捕まえるだけなら大丈夫と思ったのか一斉に飛びかかる。
「……抵抗しないのか? なら」
大切な人の姿を取るウイルスは一切抵抗せず、ミニミニ軍団に取り押さえられ、鉄心の作り出した氷と精神による防壁によって隔離された。
「イコナ、アレを外部端末に隔離できるか?」
「わかりましたですの!」
イコナが封印の魔石を取り出し、呪縛封印を発動させるとウイルスはゆっくりと魔石に吸い込まれていった。
「や、やりにくいですの……鉄心を封印してないですの?」
「大丈夫だ、ずっとこうしてただろ」
部屋に入ってから鉄心は手を離していない、間違えるなどという事はない。
「ティー、イコナの手を」
イコナの手をティーに握らせ、鉄心はイコナから魔石を受け取り、意識を集中させる。
何か読み取れることはないかと、少なくても情報を集めようとする。
「……うあっ」
―――喜び、怒り、悲しみ、楽しみ、愛、憎しみ。
様々な、平静から狂った感情が鉄心へと流れ込み、ぐちゃぐちゃにかき乱す。
「鉄心!」
まともに全てを受け止めた鉄心は立つ事がままならず、その場で膝を折る。
「記憶を読み取って姿を変えるウイルス、といったところか。 悪趣味な」
ウイルスを解析したダリルはそう吐き捨てる。 ―――お褒め頂き光栄です、花嫁様。
「っ! 次の瞬間、ダリルの脳内に言葉が、あの悪趣味な仮面の声が走った。
「ルカ、剣を」
ダリルはルカルカから剣を受けとり、専用HCを介して何やら書き込んでいく。
「あのウイルスの崩壊命令を書きこんだ、後は」
「それ、魔王に貸すですぅ! あんた等とは違ってあんなとただのぐにゃぐにゃですぅ!」
玉座の間に座すウイルスの一体に直接剣を突き立てれば次第にウイルスは崩壊していくはず。
心を殺し、大切な人を刺す痛みに耐えようとしたダリルだったが、魔王によって引き留められた。
「頼めるか? 中心部に直接だとより確実だ」
魔王にはアレがただのぐにゃぐにゃに見えている、彼女が生まれたばかりだからなのか、理由はわからない。
「頑張ろう、マオザベート」
剣を受け取った魔王にルカルカがそう言った。
「なんですぅ、それ」
「ずっと魔王だと名前がなくて可哀そうだと思ったんだ、どうかな?」
そう言われた魔王はマオザベート、マオザベート、と何度か繰り返す。
「まぁ、とりあえずはそれでいいですぅ! 後は任されたですぅ!」
魔王はゆっくりとウイルスへ近づく。
ぐにゃぐにゃとした気持ち悪い謎の存在。
「消えちまえ、ですぅ!!」
魔王が大きく構えた剣を突き立てる。
ウイルス達は一斉に動きを止め、辺りには静寂が続き、気が付くとウイルスは全て消え去っていた。
「やったですぅ!」
喜び飛び跳ねる魔王と、安堵のため息をつく契約者達。
だが、次の瞬間場内が大きく揺れ、壁が次々と崩壊しだす。
「魔王城全てがウイルスに感染していたのか……脱出するぞ!」
ダリルが叫ぶと、契約者達は一斉に部屋を飛び出し、ラグナロクへ走る。
崩れゆく玉座の間。
残された仮面がニタリと微笑んでいた。
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