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白百合会と未来の話

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2024年 冬


「――以上で報告は終わります」
 2024年12月、教師も走るという師走のある日。
 百合園女学院非常勤講師祥子・リーブラ(さちこ・りーぶら)は、百合園女学院の校長室にいた。
 桜井 静香(さくらい・しずか)は祥子の報告を聞きながら受け取ったレポートに静かに目を通していたが、そのレポートを閉じると顔を上げた。
「……お疲れ様」
 静香は軽く微笑んでいたが、そこには様々な思いが見て取れた。
 祥子は軽く頷くと、ぽつりと。
「ラズィーヤ様もお戻りになりましたし、めでたしめでたしですね」
「……うん、めでたしめでたし、だね」
 今のところは、ということは祥子も分っている。
(大事件というか危急存亡の秋みたいな出来事が片付いただけで、大なり小なりの事件はこれからも起きていくのだろうけど、そう思ってしまうわね)
 それでもお話はめでたしめでたし、祥子にも一区切り付いた。
 世界を救う戦いや各地で関わってきた事件のその後。そういったものに関われば、どうしても百合園を留守にすることがある。祥子が教職を望んだ時は、そういう状況だった。
 だから非常勤講師で、と彼女はあえて願い出た。
 もうそういった大事件は――少なくとも暫くは、起きないだろう。
(パラミタにわたって早5年。一生のうちで一番濃密な時間を過ごしたように思えるわ。
 でもこれからは別の「めでたしめでたし」を求めなくちゃいけない。生徒たちにきちんと道筋を示してあげなくちゃいけない。
 非常勤講師としての道を選んだ理由や原因は解決されたのだから、元々の道に戻る時が来たということ)
 だから、今まで留守にしていた時の出来事の集大成のレポートを提出し、彼女は再び願い出る。
「来年度から正式な講師として働かせて頂きたいのです」
「……こちらこそ、よろしくお願いします」
 静香は椅子から立ち上がると、祥子に頭を下げた。そして顔を上げると、微笑し合う。
「ね、座って。これからどうしたいか聞かせてもらってもいい?」
「ええ。少しずつ……区切り区切り、していこうかなと。
 その間に希望者を募ったガーデニングの計画とか、留学生受け入れをしてくれる所の情報をまとめたりとか。非常勤の間にしてきたことを活かせるように準備をしたいんです。
 勝手なお願いばかりですがどうかよろしくお願いします」
「勝手だなんて。……ガーデニングの計画も、面白いと思ったよ。歴史の授業内で講義してもいいけど、時間がかかりすぎるかもね。
 順調に行くならガーデニングとして、正式なカリキュラムに入れてもいいと思うよ」
「ありがとうございます」
「来年度からきっと忙しくなるね。分らないことがあったら僕もできるだけ手助けするから、一緒に頑張っていこう」
 静香は手を差し出し、祥子は握り返す。
「はい」
 静香はにこっと笑うと、机から資料を探し出して祥子に見せた。
「……それで早速だけど、エリュシオンの学校で、百合園の留学生の受け入れを打診しているところがあるんだ。前白百合会会長が通ってた学校でね……」
 資料を真剣な顔で覗き込む祥子。
 始めは、軍人としての出会いだった。それが色々な道を経て今は百合園で人に道を教える立場にある。
 教師として大人として歩む、その凛とした横顔を、静香は頼もしく思うのだった。