イルミンスール魔法学校へ

シャンバラ教導団

校長室

百合園女学院へ

白百合会と未来の話

リアクション公開中!

白百合会と未来の話

リアクション

 朗らかな雰囲気の中、明らかに浮いている契約者たちがいた。
 スーツ姿のモヒカン空京大学生のパートナーの英霊たちは、茨の冠を被り聖杯を手にしたいかにも十字架で張り付けにされていそうな宗教関係者、袈裟を着つつ女の子たちに気を取られて鼻の下を伸ばしている坊主、本能寺でだいたい7年後に炎上していそうな武士――どれも日本出身の学生なら教科書や資料集でそれっぽい顔を見かけたことがある面々である。
 しかし一際存在感があるのはやはり彼ら全てと契約している男・空大生の南 鮪(みなみ・まぐろ)だった。
 以前百合園でパンツ演説を行ったこともあり、その名は女学生たちに知られている。
 彼はモーセのようにラズィーヤを取り囲む女生徒たちの中に割って入ると(勝手に割れていったのだが)手土産を差し出した。
「今回の騒動は訳判らなかったな全く。取りあえず愛が大勝利だったがなァ〜ヒャッハァ〜! って事で祝いに来てやったぜ」
 光る種モミや不死鳥ブリーフに混じって、神の子が祝福したという古いワインも混じっている。
 ラズィーヤはスーツ姿の鮪に驚きつつ、その土産を受け取った。何とか礼儀を弁えていると判断されたのだろうか。スーツを着ろと言う信長の助言は役に立ったわけである。
「ありがとうございますわ。本当に大変でしたけれど、こうして皆さんに祝って頂けるきっかけにもなりましたわね。
 ところで今日は、何かお仕事の話にいらしたとか白百合会から伺いましたけれど……?」
「今回は別に大分校へ引き抜くとかって話しじゃないぜ。むしろ所属でも元でも百合園ブランドを抱えてくれてた方が良いらしいぜ〜? なぁ右府様」
 それはわしが説明しようとばかりに、横から織田 信長(おだ・のぶなが)が礼儀正しく進み出る。スーツはともかく、翻る深紅のビロードマントが人目を引いた。
 彼はラズィーヤと、隣で何が起こるのか見守っている静香の双方に話しかけた。
「うむパラミタの未来にて指導者となりし時わしを支えるファーストレディーたりえる女子を……ではなくてだ。わしらが映画を発信しておるのは存じておるやも知れぬ」
「そうでしたの?」
「なぁに本業じゃなくて片手間でも良いんだぜ」
 鮪はそう言って続けた。
「一人二人パッと出て終わりじゃ駄目だからな、継続的に目ぼしい奴に挑戦して欲しいらしいぜ。細かい事は信長のオッサンに聞いてくれ」
「うむ」
 信長は頷くと続ける。
「映画は正直まだ品の良い物とは言えぬがな。
 ゆえに百合園の魂を秘めた強くも美しい振る舞いの出来る大和撫子達の力を借り磨き上げ世界に発信したいのだ。紹介と言った範囲で構わぬゆえ一つ頼めぬかね」
「そうですわね……」
 ラズィーヤが首を傾げていると、女生徒たちをちらちら見ていた一休 宗純(いっきゅう・そうじゅん)が、ラズィーヤの顔と開いた胸元などに視線を注ぎながら口を挟む。
「このお堅い武士はああは言っておるがそれがしは異人の娘は大いに結構じゃと思うがのう、実際大好きじゃ! ん〜眼福眼福。実際奴はそれがしより異国文化や異人が大好きな傾き者じゃ」
「生徒の出身は問わない、と?」
「うむ。ところで、この様な場の作法では二人で組みになり踊るのじゃろう? どうじゃねそれがしと」
「……いえ、結構ですわ」
「では良い嫁御になりそうな娘はおらんかの。こう見えて今生でも嫁さん募集中じゃ。おっとっと探しとるのは映画の為の人材じゃったか」
「…………」
「本人主演一休さんとかやってみるも一興じゃのう。どうじゃね共に」
 ――生臭坊主だ。と、横で見ていて静香は思った。そして、ラズィーヤが扇子を広げたので……硬直した。
「一つ新しい門出としておぬしも新しき事を楽しんで見ぬかね」
 信長も宗純のノリに誘われてつい口を滑らせる。
 静香はラズィーヤの口元がピクピク動いているのに気付いていたが、何も言えなかった。
「わたくしは結構ですわ」
 きっぱりと断るその声は氷点下。しかしそこはラズィーヤ、すぐに声を雪解けさせると、
「でも、そうですわね、オーディションのチラシですとか、資料……そういったものを百合園に置くことくらいはできますけれど。勿論、中身はそれぞれ拝見しますわよ。もし良からぬ映画に可愛い生徒たちが出演でもしたら恐ろしいですものね?」
 鮪は何度も頷くと、
「出演とは限らないぜ。映画ってのは俳優だけじゃできねぇからなぁ。何かいい人材がいたら紹介してくれねぇかァ〜?」
 ……そうして。
 鮪が次にスカウトしたのは、ラズィーヤから紹介されたアナスタシア・ヤグディン(あなすたしあ・やぐでぃん)だった。
「ヒャッハァ〜噂は聞いてるぜ。小説を書くんだってなァ〜。俺も書くが美数照裏意は小難しくて書けねえ。
 って事でよぉ〜映画の脚本書いてみねえか。何事も一瞬のチャンスに一気に挑戦だぜ。んでもってついでに俺の愛人…じゃなかった女優もやってみねえかァ〜?」
 アナスタシアは厳しい顔で、愛人と聞こえたような気がしますけど? と言って。
「まだこれからどうなるか決まってませんわ。私の文章が映画の脚本に値するかどうか、全く分かりませんもの。
 職業として小説が上手く生きましたら、試してみても宜しいですけれど……ところで、女優はきっぱりはっきりと! お断りしますわ」


 ところでその時、鮪のもう一人のパートナージーザス・クライスト(じーざす・くらいすと)は、ラズィーヤへの簡単な挨拶の後、百合園の生徒たちの中にいた。
「人の子よ、その心と足は未来へと向かう事が許されている、歩みなさい」
 とても神々しいその姿と発言に、生徒たちは何だか今日はクリスマスだという印象を与えられていた。
 彼は一応オフなので正体がばれないか警戒しているが、バレそうである。というか本人もバレて欲しい気もしていたのだが。
 迷いや憂いを顔に僅かでも含んだ生徒たちに近付いては、将来を悩み希望を持つ乙女達の未来に祝福を与える。
「今あなたの心の内の希望は聖なる霊と共に常に共に在り続ける。歩みが止まった時、悪しき声に囚われた時は心の内のその声に耳を傾けると良い」
 ……しかし。
「諸々はさて置きここだけの秘密だが最近私は映画に出ていてだね。共演者を探して……おっと」
 ちゃっかり勧誘する辺り、鮪のパートナーらしかったのだった。